僕と踊ってくれますか?3
回帰前もそうだった。
優しくて気遣いのできる人だったけどどこか抜けたところがあって温かな人。
一度赤くなり始めたら止まらない。
どうにか保とうとしてた平静さがあっという間に崩れてしまってノラは耳を真っ赤にして踊り続ける。
胸の高鳴りを抑えられなくて、それがアリアにバレてしまいそうでノラは余計に心臓が鼓動してしまう。
「あっ、うっ!」
難しいことはない基礎的なステップ。
目をつぶっていたってできるはずだったのにアリアの目を見ていたら段々と分からなくなってきてしまった。
アリアの足を踏んでしまいそうになってノラがバランスを崩してしまった。
「あら」
グラリとノラの体が揺れて、アリアはとっさにノラに体を寄せて腰に手を回した。
「ダンスはお苦手?」
アリアに支えられてなんとか転ばずに済んだノラ。
顔が近くて再びノラは真っ赤になった。
「ひょえ〜お似合い……」
「ちょ……集中しなさいよ!」
周りも踊りながらその様子を見ていた。
美男美女、お家柄も良いアリアとノラの踊る姿はそれだけで様になっていた。
アリアがバランスを崩したノラの体を支えた様子はみんなが見ていた。
男女逆じゃないなんて思った子もいたけどアリアの男前な様子にキャーと黄色い声を上げてしまいそうになっていた子もいた。
パメラもステップには慣れてきたけれどアリアの様子が気になってチラチラと視線を向けていたためにパートナーの子の足を踏みまくっていた。
「に、苦手……かもしれない」
ダンスの先生にはリズム感もあって上手いと褒められた。
ダンスにもレベルがあってもう一人前の10に達しているはずなのにアリアと踊ると体がうまく動かなくなる。
どうしてなのかノラ自身はいまいち分かっていない。
カッコいい女の子。
自分というものを持っていて聡明で王族である自分にも物怖じしない。
憧れだと思っていた。
ノラもアリアのような強さが欲しいと思って単純に憧れていただけなのだと思っていたのに。
また会えることを楽しみにして、今度こそ自分も立派な男子としての姿を見せるのだと意気込んでいた。
この気持ちがなんなのか。
どうしてこんなに胸がドキドキとして顔が熱くなって、さっきまで見れていた目が見られなくなるのか。
ノラには分からないでいた。
強い憧れ、友人になりたいという気持ちだけではないことだけは分かる。
「ノラ……」
「う、うぅん!」
「まだ終わってませんわよ?」
耳に口を寄せて囁かれる言葉を永遠に聴いていたい。
「あでっ!」
アリアはイジワルそうに笑うとノラの額をピンと指で弾いた。
そういえば時々こんなほうけたような表情で見られることがあったなと思い出していた。
ようやく少し気を取り戻したノラは最初の滑らかさなどないカチカチのステップで踊りを再開する。
「そ、それと……ユーケーンに入ったって聞いたよ。
おめでとう」
「噂が広がるのは早いですわね。
ありがとうございます」
「僕もユーケーンに入るつもりなんだ」
「そうなんですか」
そう言われればそうだった。
回帰前ノラがユーケーン出身だったことを言っていた。
今はなよっとした感じもあるノラであるがアリアが大きくなる頃には若手の有望株の名前を挙げるとノラの名前が必ず出るほどには剣の名手になっていた。
アリアの記憶ではアカデミー卒業後にノラはオーラに覚醒する。
ユーケーンに入って技術を磨いておけばきっと回帰前と同じく優れた実力を身につけるだろう。
「そ、その……」
「どうかなさいました?」
「よければ今後も…………ダンスのパートナーになって、ほしい……」
なんてことはないお誘いの言葉のつもりなのに言おうと思うと恥ずかしくなる。
「私を独り占めするのは罪なことですよ」
「えと……じゃあ」
「ですがよろしいですわ」
ダンスの練習をするのにも女の子同士よりも男の子と踊った方が練習にはなる。
それに回帰前にノラには優しくしてもらった恩がある。
王子たるものダンスぐらいサラリと踊れなければならない。
ノラのためにも授業の間はダンスのパートナーになってあげようとアリアは思った。
「本当?」
ノラはパッと笑顔を浮かべる。
「ですが、足は踏まないでくださいね」
「が、がんばるよ!」
「パメラ!
また足踏んだ!」
「わぁー!
ごめーん!」