僕と踊ってくれますか?2
「アリアはダンス上手くていいよな……
私はこう……苦手で」
クルリと回ってみせるパメラ。
運動神経は悪くないはずなのにパメラはダンスが下手だった。
アカデミーに入学する前にもダンスは習っていたのにと唇を尖らせる。
「私の足をよく踏んでくださいましたものね」
「うぅ〜ごめんねって!」
前回の授業では男子の数も足りないこともあって女子同士でペアを組んだ。
トゥージュはクロードと組んだのでアリアはパメラと組むことにした。
その時に基本的なステップを練習したのだけどパメラはアリアの足を何度も踏み抜いてくれた。
最後には申し訳なさでパメラの方が涙目になっていたぐらいだった。
「ちゃんと今日はあんまり踏まないようにするから!」
「踏むのが前提なのね……」
「あれ、何だか騒がしいですね」
アリアたちは広い教室の隅の方でワイワイとしていた。
教室の出入り口の方がにわかに騒がしくなった。
先生でも来たのかと目を向けたけれどそうではなかった。
「あれ、第三王子ではないですか?」
「えっ?
あ、本当だ」
教室に入ってきたのは第三王子であるノラスティオであった。
第三王子であるノラスティオが教室に入ってきたから騒がしくなったのだけど理由はそれだけでない。
「初回の授業の時いなかったよね?」
「いませんでしたね」
前回、というかお試し授業の時からノラはいなかった。
お試しであるのでいないこともあるのだけど大体の人はお試し授業でもいるものだ。
そういえばその他の授業全てでノラの姿を見ていないなとアリアはふと思った。
一度目があったような気がしながらもノラは人に囲まれてアリアの方に来ることはなかった。
そうしている間に先生が来て授業が始まる。
前回の続きで基礎的なステップから始めることになった。
またペアを組まなきゃいけなくなり自分の足の心配をしていたアリアのところにノラが近づいてきた。
「アリア・エルダン嬢」
やめてくれよ、と内心で思っていたアリアの願いは通じなかった。
キラキラとした笑顔を浮かべてノラはアリアに声をかけた。
「僕のダンスのパートナーになってくれないか?」
ざわつきが広がる。
ノラが誰をパートナーとして選ぶのかみんなが注目していた。
噂にめざとい人であるならばもう予想できていたかもしれない。
エルダンに第三王子が訪問したことはまだひっそりと噂されていた。
中立を保っていたエルダンが付くべき勢力を決めたのかもしれない。
あるいは傾きかけていると見られている。
ノラがそうした中でエルダンを後ろ盾にしたいなら確実な方法が1つある。
アリアを取り込むことだ。
もっと言うならばアリアと婚姻関係を結ぶことなのであるが婚姻については噂は立っていない。
ならば取り込むためにはアリアに近づくだろうと予想できるものもわずかだけどこの場にもいた。
だがそんな予想をできない人の方が多い。
ノラがアリアに話しかけてパートナーになってほしいと言ったことに対して多くの人が驚いた。
断りしたいのだけどお誘いを理由もなく断ることができないのも厄介なところだ。
ノラは断られるだなんて思ってもみなさそうであるしアリアが承諾しないことには周りも動き出せそうになかった。
「喜んでお受けいたしますわ」
パメラには悪いがここは引き受けるのが1番平穏な選択肢となる。
「良かった。
ここには他に知り合いもいないからね」
あたかも知り合いがいないからと言う風に口に出したがノラはパートナーとしてアリア以外と踊るつもりはなかった。
他の男がアリアにペアの申し出をしていたら多少無理矢理でも割り込んでいたかもしれない。
チラリと見るとパメラはショックを受けた顔をしていたが相手が王子では文句も言えない。
同じハダートのクラブ所属の女の子を見つけてその子をパートナーにすることにしたようだった。
パメラよりもむしろその子に申し訳ないなとアリアは思った。
ダンスに慣れていないと足を踏まれるのもなかなか大変だろうから。
「お久しぶりですね」
「ああ、またこうして会えて良かったよ」
今一度ステップを確認してアリアはノラと向かい合う。
手を取り合い、先生が手を叩いてリズムを取って、ダンスの基礎的なステップで足を動かす。
当然のことながらノラもダンスは習っている。
パメラと違って滞りなく動いて会話する余裕もある。
こうして近くでみるとノラの顔もカッコいいものだと思う。
カールソンが寡黙なクールさがある顔をしていて、カインが柔らかく甘い顔立ち、ノラは爽やかだけど男らしさもある。
人間、顔だけじゃないとアリアは思うので顔だけでノラを判断することはないが回帰前と同じようなら性格もいいはずだ。
「授業ではお見かけいたしませんでしたが」
「そうなんだ。
実は第一王子……僕の兄が体調を崩してね。
お見舞いに行っていたんだ。
本当は君に早く会いたかったけど兄のことを放ってもおけないからね」
「……少し合わない間に口も上手くなられましたね」
「アリアによく思われたくてね」
「私の中ではまだ迷子の子ですわよ」
「その話は……!」
ノラは顔を赤くする。