僕と踊ってくれますか?1
「次の授業なんでしたっけ?」
「んーと……ダンスです」
「えっ、じゃあ着替えてこなきゃ!」
アリアとて特殊な授業ばかり受けているのではない。
体面もあるので面倒でも基本的な授業も受けている。
多くの基礎的な授業はもちろん他の人と被るし当然パメラとトゥージュとも結構授業は一緒だった。
前の授業が無くなってアリアたちの部屋でのんびりと過ごしていた。
なんだかんだとパメラもアリアたちの部屋と近いのでこちらで過ごしていることも多い。
「少し早いですが着替えて向かいましょうか」
「そうですね。
遅れるのも嫌ですから」
「着替えてくるね!」
もうちょっとお淑やかお嬢様系かと思っていたのだけど慣れ親しんでくると割とパメラは距離の近い感じの子であった。
思えばまともな友達ができたのなど回帰前に両親が亡くなる前ぐらいのこと。
それからの人生はちゃんとした友人はほとんどなく、大人になってからの友人は利害関係だけで繋がっているようなものであった。
だからパメラの距離が近いのも嫌じゃない。
そして回帰前にその少ない友人と言えた存在のトゥージュは回帰前とあまり変わらない。
だけどまだ若いうちに出会って関係性が違うせいか回帰前よりも親密に成れそうな感じはある。
アリアとトゥージュも運動着に着替える。
「お待たせー」
「はーい」
「あー、ずるい!」
待ってる間暇だったのでお菓子を食べていたらパメラが戻ってきた。
アリアたちがお菓子を食べてるのをみて1つパクリと口にする。
「美味しい!」
このお菓子はトゥージュが作ったもので口の中でほろりと溶けていって甘みが広がってアリアも思わず手を伸ばしてしまう。
「それじゃあ行きましょうか」
「ふーふぃ」
「もう、まだありますし口に詰め込まなくても大丈夫ですよ」
アリアたちは部屋を出て移動する。
「そういえばアリア、ユーケーンに入れたの?」
「ええ、入れました」
「すごいじゃん!」
「トゥージュが料理クラブには言ったのは知っていますがパメラは?」
トゥージュは料理クラブに入っていた。
回帰前もそうだと聞いていたし、今も入ると言っていたので当然のことである。
お菓子を作ってきたのもその一環であるがトゥージュはお菓子を作るのが好きだった。
「もちろんハダートに入ったよ!」
ハダートとは南部商人の子息たちが集まったクラブで交流を目的とした社交クラブである。
南部商人は特に横の繋がりが強くて通常の商人系のクラブではなく南部商人でのクラブを持っている。
そのために人数は少なめであるのだけどお金があるから意外と規模はある。
もちろん商人らしく他のクラブとの交流も盛んなのである。
「ユーケーンとも交流持てればいいな〜」
アリアがいるからというだけじゃない。
実質的に優れた強い人たちが集まるユーケーンと縁を繋げることは将来的な利益になりうる。
「そうですね」
ユーケーンとしても商人と知り合っておくのは利益になる。
武器や装備など買えば終わりとはいかない。
修理や調整を必要とすることも多い。
そうなるとそこらへんのお店で済ますことは出来ない。
どこかの商人と長く付き合っていくことも珍しくはないのだ。
そうした関係になりうる縁を繋げるのだから互いに利益があると言える。
「でもユーケーンはキビシーって言ってたしなぁ」
しかしそうしたところで堅物なのがユーケーンだったりする。
あまり他と交流することも少ないためにハダートも入り込めないでいた。
「ねぇーえー、アリアー?」
「私にそんな権限ないですわ」
「何年後かでもいいから!」
「まあクラブ長にでもなれたら考えて差し上げますわ」
「アリアのそういうところ大好き!」
「ふふふっ、仲良しさんですね」
パメラが歩きながらアリアにギュッと抱きつく。
そんな様子をトゥージュは微笑ましく見ている。
ダンスの教室に着いたけれど早すぎたためか他にはチラホラとしか人がいない。
「トゥージュ!」
「クロード!」
アリアたちの次に入ってきた男子生徒がトゥージュを見つけて笑顔で近寄ってきた。
「どうも、クロード」
「ふっふー、私たちもいるのにトゥージュしか見えないって?」
それはトゥージュの幼馴染であるクロードであった。
「あっ、すいません……」
「いいんですわ」
怒りはしない。
微笑ましいではないか。
素朴そうではあるが人も良さそう。
回帰前に直接会ったことはないがトゥージュから色々と話は聞いている。
アリアと離れることになる最後までトゥージュはクロードのことを褒めていた。
きっと幸せにしてくれたことだろう。
授業時間が迫ってきて人も増えてきた。
ダンスの授業には女子が多いのだけど男子も意外と参加している。
家で教えてもらえる人は出なくてもいいのだろうが剣ばかり練習してきたような男子ではこうした授業ででもやらないとダンスを練習しなどしない。
踊る機会がないと思っていると意外とあるもので小さいパーティーでも一曲踊らねばならないなんてこともままあることなのだ。
アリアは家で習ったタイプの人であるけれどそのために単位を取るのが楽だから出ている。