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魔法の授業3

「……綺麗」


 箱を開けたアリアは思わず息を呑んだ。

 中に入っていたのは真っ白な刃の剣であった。


 一点の曇りもない刃に目を奪われる。

 非常にシンプルなデザインであるが鍔のところに真っ赤な宝石が嵌め込まれている。


「手に取ってみるとええ」


 我慢しきれなくてそろりと手を伸ばしたアリアにアルドルトはうなずいてやる。

 手に持って分かるのはただ美しさを追求したオモチャではないということ。


 見た目だけでなく重心も完璧に均整が取れている。

 美術品ではなく戦うために作られた剣。


「そういえばまだお主のオーラを見せてもらっていなかったな。

 ほれ、その剣にオーラを込めてみると良い」


「はい……」


 剣をゆっくりと振りながらオーラを発現させる。


「これは……」


 アリアのオーラに呼応するように剣が鳴いている。

 他のものにオーラを流そうと思うとまるでオーラを拒否するかのような抵抗感を感じるものなのにこの剣にオーラを流しても全く抵抗感が無かった。


 アリアのオーラを全て受け入れてくれてまるで体の一部のようにすら感じられる。

 

「ホッホッホ、美しいのぅ」


 深紅のオーラをまとうアリア。

 オーラの揺れは少なく、凪いだ水面のように均一の薄さを保っている。


 丁寧にオーラを操る訓練を重ねてきたことがよく分かる。

 アリア自身の意志を強さを投影したかのような深い、澄んだ赤色はアルドルトの目にも美しく見えた。


「師匠、これは何ですか?」


「それは剣であり、杖だ」


「剣であり……杖……ですか?」


「その剣の銘はアーモルエ。

 かつていた剣魔姫と呼ばれた女性が使っていたものじゃ」


 アリアは少し腕が辛くなってきたのでアーモルエを箱の中に戻す。

 素晴らしい剣ではあるが子供向きに作られたものではない。


 まだまだ成長段階にあるアリアにとっては大きく、重たすぎた。

 長時間振り回してはいられない。


「その剣にはな、ミスリルと呼ばれる魔力伝導率の良い金属が使われておる」


「み、ミスリルですか?」


 アリアもミスリルは知っている。

 ミスリルはしなやかで魔力を良く通す希少な金属である。


 頑丈さには欠けるので他の金属と混ぜることで丈夫さも持ち合わせ、魔力の伝導率が良い金属製品が出来上がる。

 昔見つかったミスリル鉱山を取り合って国同士が戦争になったこともある。


「本来魔法に使われるのは手に入りやすいこともあってマドゥワの木などの杖が多い。

 逆に金属は魔力の伝導率が悪くて使われることは少ない。


 しかし金属にもミスリルのような魔力伝導率の高い素材はあり、そうしたものは魔法の媒介として使えるのじゃ。

 なのでこの剣はミスリルと魔力を増幅させてくれるレッドドラゴンの魔石を使った剣としての力も持つ杖であるのじゃ」


「レ、レッドドラゴンの魔石!?」


 ちょっと情報が多すぎるとアリアは思う。


「ホホッ、珍しく動揺してるのぅ」


 全ての情報を一気に受け入れられず混乱しているアリアを見ていると年相応にも見えるとアルドルトは笑う。

 アーモルエを使っていたのは剣魔姫と呼ばれる女性の王。


 彼女は魔法使いだった。

 同時に優れた剣士でもあった。


 己の身を守るために剣を習っていたけれど魔法に関しても才能があることが分かった。

 そのためにオーラユーザーではなかったが剣も魔法も彼女は鍛錬した。


 けれど片手に剣を持ち、片手に杖を持って戦うのは楽なことではない。

 魔法も使いながら剣でも戦う。


 どちらも両立させるために作り出されたのがアーモルエであった。

 魔力伝導率の高い素材を使い魔法を媒介する杖としての役割を果たしながら剣としても使える武器。


「歴史上数少ない接近戦もこなした魔法使いの剣であり杖でもある武器がアーモルエなのだ。

 それをアリア、弟子であるお主に授けよう」


「そ、そんなものを……」


 ミスリルだけでもいくらになるか予想もつかない。

 なのにレッドドラゴンの魔石なんてものが使われた剣なんてエルダン家が全ての財産を差し出しても買うことができない。


「受け取れないとは言わないでおくれ。

 この剣は武器である。


 誰かが使ってこそ輝くのであって壁に飾るべきものではないのだ。

 ワシはこれをお主が持つべきものだと思った」


「…………師匠からの贈り物いただきますわ」


「うむ。

 ただまだ扱うには早いだろうからワシがまた預かっておこう」


 もちろんアリアの体型にはまだ剣は大きいことは分かっている。

 アリアにこれを管理しろというのも酷な話なのでアリアにあげはするがアリアが成長するまでアルドルトが預かっておく。


「ありがとうございます、師匠」


「いつかお主の役に立ってくれるだろう。

 ……あの子はこれを受け取ってくれなかったから」

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