魔法の授業1
「魔法とは現象を操る力である」
基礎剣術は特別合格したために行かなくても良くなった。
なのでその時間は空き時間となった。
それならばとアルドルトに誘われて教えを受けることになった。
オーラと魔法は同じく魔力を根源とするがその使い方は違う。
人は魔力を操れない。
体の中に魔力という力があってもそれをどうこうすることが出来ないのが一般的である。
けれどオーラユーザーは一般的な人と異なり魔力を放出、操作することができる才能を持っている。
どういった人がどういう理由でオーラを発現するのか誰にも分からないがオーラという方法で魔力を操る術を手に入れる。
そうして体や物に魔力を留めて強化して戦うのがオーラユーザーなのである。
対して魔法使いは天より与えられた才能ではない。
努力によって魔力を操る術はないかと研究を重ねてきた人間の叡智なのである。
まず正当な順序としては魔力のコントロールから始まる。
外部から刺激を与えて魔力を自覚して体の中で動かしたりする。
そして次に魔力伝導性の高い道具を使って体から道具を伝って魔力を外に出す。
この魔力伝導性の高い道具というのが一般に杖などになる。
しかし放出された魔力は魔力でしかない。
放出された魔力を変換して魔法にして初めて何かに利用できるものとなるのだ。
程度が小さければそれは自然現象のようなものかもしれない。
あるいはものすごいものならば超常現象とも言えるかもしれない。
こうして魔法使いは長い歴史の中で少しずつ歩みを進めて魔法というものを作り上げてきたのである。
そのために誰にでも使えうるものであるのだけど誰にでも使えるものではない。
人が持つ魔力の量はそれぞれ、さらには魔力のコントロールのセンスなどの問題で魔法がうまく扱えない人も中にはいる。
毎年アカデミーの魔法の授業には自分が十分な魔力があって魔法を扱えるセンスがあると信じて授業を受けにくる人が後を絶たない。
大体の人は魔法を操るのに十分な魔力がない。
そして残った人でも半分ほどは魔力を操る才能がない。
結果的に残る人は意外と少ないのである。
その点でアリアはというとかなりスタートに違いがある。
オーラユーザーだということで魔力は十分すぎるぐらいの量がある。
さらにはオーラを操るということは魔力を操るということなので魔法に必要な魔力コントロールはできる。
オーラとして魔力を放出することもできるので魔法使いとして基礎的なことは完全に出来ていた。
「それによって何ができるのか理解しておくことが重要である。
何かを温める。
こうするために真横に火を置くのも良かろうが直接魔力を熱として与えれば早く済むかもしれん。
自分が魔法としてやろうとしていることをより理解することで力強く、消費も少なく魔法を扱うことができる」
少し魔法のまねごとなんかもできるのだけどアリアがヘカトケイに習ったのは感覚的な魔法の使い方であった。
なのでアルドルトは基礎的な理論からアリアに教え込んでいた。
理論を学ぶことを嫌うものも多いのにアリアは真面目に理論も学んでいる。
アルドルトはこうしたアリアの姿勢も評価していた。
感覚として魔法を理解し始めているのに頭でも魔法を理解しようとしている。
魔法を習うとなれば小難しい理論も同時に教え込まねばならない。
ただ魔法だけを教えてくれなどと文句を言う人も少なくはないのだ。
「あとは念火水土。
魔法も本人の資質によって得意なものがある」
念火水土とは魔法の変換の種類である。
念とは物に影響を及ぼして持ち上げたりする魔法であり最も魔力を物理的な物に変換させない魔法である。
念火水土の順に物理的な物に魔力を換えていく度合いが大きくなると言われている。
物として魔法を発現させるか物としないで魔法を発現させるのか得意不得意があったりするのだ。
アリアがヘカトケイから習った氷の魔法は水系統の魔法に当たる。
「氷は出せるからのぅ、ある程度物理的な魔法は得意じゃろう」
氷までなると水の中でも土寄りになる。
ならば水土系統は問題ないとアルドルトは考える。
「とりあえず火を出してみぃ」
「分かりました」
アリアはイメージする。
火を、熱を、触れられそうで触れられない風に揺れる赤いともしびを。
「むっ!」
アリアの手から爆発するような炎が燃え上がった。
アルドルトが魔法のシールドを張ってくれなきゃどこかに燃え移っていたかもしれない。
そんなに強く魔力を込めてもいないのにとアリア自身も驚いた。
「ホッホッホ、氷よりも強くイメージがあるようじゃの。
適性も火の方があるのかもしれん」
怒る様子もなくアルドルトは笑う。
発現できないよりはよっぽどいい感じで魔法を使えている。
火の魔法は使える人も多い。
火というものは身近にあって熱さなどイメージもしやすいので苦手であっても簡単に火なら出せることもあるのだ。
アリアはイメージもしっかりと持って魔法を発現させた。
シールドを張る一瞬でも顔に熱が届いてきた。
アリアには水よりも火の方が適性があるかもしれない。