入会テスト6
「なぜ魔法を習いたい?
お主……オーラを使えるだろう?」
アルドルトは見ていた。
ジェーンとの戦いでジェーンが無意識でオーラを使った瞬間アリアも本能的にオーラで体を守ろうとした。
訓練をしていたので本当に一瞬のことでその場にいた誰にも気づかれなかったと思ったのにアルドルトには気づかれていたのだ。
「魔法とオーラの根源は同じ……魔法使いはオーラユーザーを毛嫌いしていますがオーラユーザーが魔法を使ってはいけない理由などなく、むしろオーラユーザーは魔法を使うのにも相応しいと思いませんか?」
オーラユーザーであるということは通常それなりの量の魔力を持っているということになる。
すでに魔力を感知して操る術を知っているオーラユーザーが魔法を習って使うことになんの不自然があるというのか。
オーラユーザーはオーラユーザー、魔法使いは魔法使い。
そのような固定観念が世の中にあるけれど特別その両者を分けなければいけないものじゃないとアリアは思っている。
無理に弟子になるつもりはない。
嫌だというのなら大人しく引き下がるつもりであるがオーラユーザーだから魔法を使えないなどと諦める気はない。
アルドルトはジッとアリアの目を見つめる。
まだ幼いとも表現してもいい年の少女であるアリア。
これぐらいの年齢の子にしては珍しく色々な感情が渦巻いている。
強い意思を感じさせるのだが同時に怒りや恨みなどのあまり同年代の子供に見られないような色も見られる。
他の子にはない強さもあるが同時に危うさもある。
「弟子を取られることを考えていらっしゃらないのならこの話は忘れてください」
その燃えるような意思を宿した目はどこを見ているのか。
人を様々見てきたアルドルトでさえもアリアが見据えているものが理解できないでいた。
「……やはりこの話は」
「まあ待ちなさい」
アルドルトからの返事なくてそれを否定と捉えたアリア。
穏やかに笑ったアルドルトは手に持った杖を伸ばしてアリアのカップの縁に当てた。
カップの中にはアリアが凍らせた紅茶が入っている。
「紅茶は凍らせるものではなく飲むものだ。
暖かい地域では氷を入れて冷たくして飲むこともあるそうだが紅茶を凍らせては飲めないからな」
凍っていた紅茶がみるみると溶けていき、やがて湯気が上がり出す。
わずかな時間で紅茶が元の温かい状態に戻った。
アリアはカップを包み込むように触れていた。
なのに手には温かな紅茶の温度しか伝わってこない。
つまりむやみやたらと熱を加えているのではなく紅茶にのみ熱を与えて温めたのだ。
繊細な魔力のコントロール。
アリアが同じようにしようとしたらカップが爆発していたかもしれない。
まだ凍らせるぐらいしかできなくて温めることもできないのだけど。
「弟子……か」
ほんのわずかにアルドルトの目に悲しげな色を見た。
アルドルトの過去に何があったのか知らないけれどもしかしたら第一線を退いたのには深いワケがあるのかもしれない。
「…………君の目を見て、痛みを知る人間だと思った。
だから受け入れよう。
アリア・エルダン。
ワシの最後の弟子になってくれるか?」
最後の。
この言葉が何かを意味していることは分かった。
けれどその意味はまだアリアには分からない。
アルドルトのことを知っていけたら分かるのだろうかと思いながら目を見つめ返す。
「それではよろしくお願いいたしますわ」
「ホッホッホ、この年になって弟子をまた持つことになるとはのぅ」
「ちなみに私オーラの師匠もいらっしゃいますがそこは大丈夫ですか?」
「もちろん。
あれほど巧みにオーラを隠せるのだから師匠もおるじゃろうて」
むしろ師匠もおらずに独学であのようにしていたとしたら驚きだ。
魔法使いにはプライドが高くて他の人に師事することをよく思わない人もいるけれどアルドルトはそのようなことは気にしない。
貪欲に学ぶことは悪いことではない。
好ましく思うくらいである。
「その師匠の方も大丈夫なのか?」
「はい、魔法の師匠捕まえてこいって言うような人ですから」
「ホッホッ!
それは面白い人だ!
是非とも会ってみたいものじゃのう」
オーラの師匠だって自分の弟子が魔法使いの弟子になることをよくは思わないだろうと思ったのに予想もしない返事が返ってきた。
ヘカトケイなら大魔法使いのアルドルトを師匠として捕まえたと知ったら良くやったじゃないかと言ってくれそうだ。
むしろ自分も習うとまで言い出しそう。
「ほれ、せっかく温めた紅茶が冷めてしまうぞ」
「そうですね、学園ちょ……」
「師匠と呼ばんか。
おじいちゃんでも良いぞ?」
「では師匠と呼ばせていただきます」
「ホホッ、そうか。
未熟な師匠じゃがよろしく頼むぞ」
「未熟な弟子ですがよろしくお願いします」
アリアとアルドルトは顔を見合わせて笑う。
少なくとも心臓を抜き取られるような死に方はさせたくないなとアリアは穏やかに微笑むアルドルトを見て思ったのであった。




