入会テスト5
「あの子はオーラは使えんが弛まぬ努力を続けてユーケーンのクラブ長にまで選ばれた。
優秀な子じゃよ。
人柄も良く、気もきく。
世の悪人にオーラの才能を与えるぐらいならあの子に与えればいいものを」
キュミリアが部屋を出て行くのを確認してアルドルトは口を開いた。
アリアの記憶にキュミリアのことはない。
つまり大して活躍しなかったのか、どこかで死んだかである。
少なくともジェーンのように英雄的な扱いはされなかった。
もしかしたら平和に暮らしていたかもしれないがケルフィリア教などの騒ぎがあるので最後まで平穏無事に暮らしたとは思えない。
「それでなんのご用でしょうか?」
「ホッホッホ、用があったのはアリア・エルダン、君の方じゃないのかな?」
紅茶に口をつけアルドルトは穏やかに笑う。
「あら?
何のことでしょうか?」
「おやおや……ワシの勘違いだったか?
興味を引く……あるいは挑発しておるのかと思ったがのぅ」
オーラと魔法の違いの1つにオーラは留める、魔法は放つと言われることがある。
魔力を体の外に放つことが魔法としての基本の能力で放たれる魔力を体や物の周りに留めて強化するのがオーラであると説明する人もいるのだ。
入学式でアルドルトを見た時からすでに始まっていた。
「あれだけの魔力を向けられて気づかないはずがなかろう?」
「さすがクマドゥジェウクの再来と言われるお方ですわね」
「よくそんなふうに呼ばれていたことを知っておるな」
アリアは入学式の時ひそかにアルドルトに向けて魔力を放っていた。
入学式の時は音声を拡散させるために会場に魔法を使っていて魔力が満ちていた。
アルドルトにもリアクションがなかったので気がついていないものだと思っていたけれどアルドルトはしっかりと気がついていた。
ついでに先ほど訓練場に現れた時にも魔力を向けていたのでアリアが魔力を向けていた犯人だとアルドルトは確信していた。
クマドゥジェウクはかつていたとされる大魔法使いの名前で、ドラゴンに魔法を習ったなどと言われていてとある国に現れた悪魔と戦って撃退した英雄である。
アルドルトは魔法に優れたる才能があってこのクマドゥジェウクの再来なんて言われていた。
今では実力が認められて若い人たちの中にはアルドルトの再来など言われるようになってクマドゥジェウクの再来と言う人は少なくなった。
「目的は魔法の授業を受けることかな?」
アカデミーにも魔法の授業がある。
しかし魔法を使うためには魔力が必要なので受けるのにも一定の資格は必要となる。
毎年多くの生徒が魔法を使えるようになることを夢見て魔法の授業を受けられないかとテストを受ける。
魔法はオーラよりも可能性があるとはいえそれでも使える人が限られてしまうのは仕方がない。
「そうですね……」
「ほう?」
アリアが紅茶のカップに手を添えた。
すると紅茶がみるみると凍っていく。
それを見てアルドルトが目を丸くした。
「授業を受けるだけではなく師匠が欲しいと思っています」
あっという間に紅茶が凍りついてしまった。
アリアにはヘカトケイという師匠がいる。
ヘカトケイにも魔法は習っていたのだけど魔法はヘカトケイの専門ではない。
あくまでもヘカトケイはオーラユーザーであり、魔法は補助的な能力である。
そのために基礎的なことは教えられてもそれ以上は難しいとヘカトケイには言われていた。
若いうちからオーラも魔法も学ぶなんて話聞いたことはない。
両方極める、そんなことできないと言う人もいる。
だがやってみて出来なかったと言う人はいない。
ならばやってみるのだ。
少なくともヘカトケイはオーラを極めて、ある程度魔法も扱える。
オーラも魔法も極めてみせる。
「ワシの弟子になりたいと言うのか?」
「私は魔塔に行くつもりも研究の手伝いをして下積みをするつもりもありません」
アカデミーで教えてくれることはあくまでも基礎的なことであり、そこからさらに魔法を深く学びたいのであればアカデミーを卒業した後に専門的な道に進むしかない。
そうなると魔法使いの専門機関である魔塔に行くか、魔法使いの弟子になるしかない。
けれど魔塔も一般的な魔法使いの弟子は非常に面倒である。
魔法を学ぶためには師匠となる魔法使いの下で雑用などをこなしながら勉強しなきゃいけない。
そのために魔法を極めるのにはより多くの時間がかかる。
けれどそんなことしている時間などアリアにはない。
くだらない雑務をこなして魔法を習うつもりなんて毛頭ない。
「魔法を私に教えてほしいのですわ」
アルドルトならと思った。
今現在アルドルトは第一線を退いている。
アカデミーの学園長という仕事をこなしていて研究もしていない。
他の魔法使いのように研究も行っていてそうした雑務をしろと言われる可能性は低い。
アルドルト自身の実力ももちろん言うまでもなく、アリアがアカデミーの生徒で授業があることもよく知っている。
シンプルに魔法を教えてくれるのではないかと考えていたのだ。
ついでにアルドルトにお近づきになって悲惨な事件も防げるなら一石二鳥。