入会テスト2
「わ、私はもちろん大丈夫です!」
「見学なさることになんの問題もありませんわ」
アリアはジッとアルドルトの顔を見る。
こうして戻ってきたのなら確実に止めねばならない事件がある。
それに大きく関わるのがアルドルトだった。
アカデミーの学園長が殺害された事件は回帰前に知らない人はいないぐらいの大事件として知られていた。
大魔法使いでもある学園長がアカデミーにある学園長室で人知れずに殺害されていたというもの。
しかも話はそれだけではない。
犯人は捕まらなかったどころか目星もつかなかった。
アルドルトは優れた魔法使いであって世界有数の実力の持ち主である。
そんなアルドルトをアカデミーという警備も厳しい場所で誰にもバレずに殺害するだなんてこと不可能に近い。
誰にそんなことが出来るのかと捜査は難航した。
そしてこの事件の最も大きな特徴は殺されたアルドルトの心臓が抜き取られていたことである。
アルドルトの死体からは心臓が消えていた。
胸が切り裂かれて引き抜かれたらしいが誰が、何の目的で心臓を持ち去ったのかも分からなくて人々は答えの得られない憶測を話し合った。
結局犯人の手がかりもないままに事件は風化していき、人の記憶から消えていった。
数年後、アルドルトの死などかすむほどの事件が起こる。
首都近郊に突如として大量の魔物が発生したのである。
騎士や冒険者など戦えるものが互いに協力し合い、なんとか魔物を討伐することができたのだが大きな被害が出た。
エルダンも兵力を派遣して帰って来なかった人もいた。
その頃から国に怪しい雰囲気が漂い始めていた。
魔物の被害による悲しみや痛みが長いこと癒えず、強い閉塞感に国への不満が高まっていた。
関係のない小さなことまで不平不満として取り上げられ始めて国全体がギスギスとしていた。
魔物の討伐から1年後、どうして魔物が発生したのか調査を進めていた国はようやくその原因を突き止めた。
首都近郊に邸宅を構える貴族の家から魔物を召喚するおぞましい魔法陣が見つかったのである。
そこで使われていたのがアルドルトの心臓。
魔法使いであるアルドルトの心臓には多くの魔力が保有されている。
その魔力を利用して魔物を呼び出していたのであった。
当時はアリアも一般的な貴族令嬢に過ぎなかった。
だから考えもしなかったが今考えてみればその事件を引き起こしたのはケルフィリア教に違いない。
国を荒廃させて信徒を増やす。
同時に国への不満を高めて深く根を伸ばしていったのである。
国は表面上平穏を取り戻していたように見えてもその中には国民の不安を抱えてしまっていた。
今回はそのような事件を起こさせない。
仮に他の手段で魔物を召喚するにしてもアルドルトという戦力が生きているだけで戦況は大きく変わるはずである。
人徳もあって発言力もあるので悲惨な戦いの後にも人々の希望になってくれるかもしれない。
未来を変える1人のキーマンであるとアリアはアルドルトのことを考えていた。
だから入らなくてもいいと考えてすらいたアカデミーに入学したのである。
さらには目立つのを嫌うのに基礎剣術で特別合格を勝ち取ったのも理由がある。
成績優秀者にはアルドルトが直接会って表彰したり、中にはお願いを聞いてくれるなんてこともあるそうで近づくためには目立っても優秀さをアピールすることが必要だったからなのだ。
「ならば見学してもよいな」
アリアの胸の内などアルドルトが知るはずもなく穏やかに笑っている。
アルドルトが指をパチンと鳴らすと何もない空間から突然イスが現れた。
「え、えーと、じゃあ始めましょうか」
みんな驚きを隠しきれていないがキュミリアが仕切り直してアリアとジェーンが向かい合う。
「学園長まで見ていては手を抜けないですね」
「手加減してくださるのではなかったのですか?」
「ふふ、ケガしないようにはしてあげる」
「それでは……始め!」
キュミリアの号令でアリアとジェーンが同時に駆け出した。
激しく剣をぶつけ合って切り合う。
木製の剣であっても真剣と同じだと思って本気で戦う。
「やるじゃないですか!」
ジェーンが笑う。
想像していたよりもアリアの実力が高い。
同じように切り合っていると見える中でも力押ししてみたり速さを重視してみたりとわずかに変化を加えているジェーン。
けれどアリアはそうした変化にもしっかりと冷静に対応している。
自分がこの年の時にはまだここまで出来なかったとジェーンは内心で感心する。
「それなら……」
「くっ……!」
ジェーンの回転が上がっていく。
切り合いが段々とアリアの防戦に変わっていく。
『剣術のレベルが上がりました。
剣術レベル9→10』
確実な劣勢。
しかし視界の端に表示が見えた。
強者との戦いの中でアリアも成長していた。
しばらく停滞していた剣術レベルが上がった。
レベル10。
壁を乗り越えて一人前と言われるレベルに達したのである。
「こんなものですか?」
すっかりアリアは防戦を強いられている。
これだけ持ち堪えているのなら実力としては十分であるとジェーンは思う。
しかしアリアの目はまだ諦めていなかった。