入会テスト1
ユーケーンはクイッカンイールと並び立つ上級クラブである。
しかしユーケーンとクイッカンイールはかなり毛色の違うクラブである。
クイッカンイールは社交クラブである。
上流の貴族の子息たちが集まっていて大きな目的といえば交流を深めることになるのだが全員に共通した1つの確固たる目標はない。
対してユーケーンには強い目標がある。
それは強くなること。
ユーケーンは社交クラブであるが趣味クラブとしての側面も持っているのである。
元々ユーケーンというのはこの国にいた剣聖と呼ばれる剣の達人の名前から来ている。
かつてこの国の騎士団長にまで上り詰めた人がアカデミー時代に創設したクラブで目的はより強くなるために剣術クラブよりもより実戦的に鍛錬して強さの向上を目指すというものだった。
そうした目的に共感した人が集まってクラブは大きくなり、中にはオーラユーザーの生徒もいたりと歴史も深い。
騎士の出である名家や長子でなく将来家を出ることを見越して力を付けてきた貴族の子息などが集まっていて純貴族の集まりのクイッカンイールよりも多様な人がいる。
「はじめまして。
アリア・エルダンさん」
「アリアで。
よろしくお願いします、キュミリア先輩」
ユーケーンのクラブハウスにアリアは来ていた。
そこでユーケーンのクラブ長をしているキュミリア・アドゥスケスと握手を交わした。
強くなることが目的のユーケーンであるので誰でも加入できるものではない。
クイッカンイールも上流貴族の集まりなので内部で入るに足る資格があって認められなければ加入できない。
ユーケーンにも加入するのに必要な能力がある。
それはもちろん強さである。
切磋琢磨する仲間を集めたクラブであるのでユーケーンに入るのに一定以上の強さが求められるのである。
エランが大人しく引いたのもこのためだ。
たとえ基礎剣術の授業を特別合格したと言ってもアリアには厳しいだろうとエランは思っている。
それどころかアリアの特別合格すら疑っている。
「早速で悪いけどいけるかい?」
「もちろんですわ」
アリアは制服ではなく基礎剣術の時にも着ていた運動着を身につけていた。
クラブハウスの裏はユーケーン専用の訓練場となっていてユーケーンに所属している人なら誰でも自由に使うことができる。
そこにはカールソンやディージャン、ユーラを始めとして数人の生徒が待っていた。
「んー、じゃあジェーン、君が相手してやってくれないか」
ユーケーンに入るのには強さが求められる。
それを示すためには当然戦って強さを証明するのだ。
「ふふ、私でいいの?」
「もちろん」
「分かったわ」
腰まである明るいクリーム色の髪の女の子が前に出てきた。
手足がすらっとしていて長く、とても可愛らしい顔立ちをしている。
戦えることが嬉しくて柔らかな笑顔を浮かべているがアリアを素人だとバカにしたような目はしていない。
「噂は聞いているわ」
「噂ですか?」
「うん、ディージャンやユーラからね。
とても可愛らしい妹さんがいるって」
「ジェ、ジェーン先輩!」
ユーラが顔を赤くしている。
変なことは言っていないがアリアのことを話していただなんて本人に伝えられると恥ずかしさはある。
ディージャンも困り顔である。
「自慢げに話すのよ?
私には下にいないから本当羨ましいって思ったんだから」
「それは……」
アリアもちょっと恥ずかしい。
目の前で褒められてもなんともないしこっそり裏で話していたと言われても何も思わないのに当人たちを目の前にして褒めていて羨ましいと言われるとなぜか少し気恥ずかしく感じられる。
「照れちゃって可愛い。
あとは剣も練習してると聞いたわよ」
ジェーンの目つきが途端に鋭くなる。
優しく見えていてもさすがはユーケーンに所属している女性というところである。
「安心して。
手加減はしてあげるわ」
「お手柔らかにお願いいたしますわ」
「じゃあこれを付けて」
キュミリアはアリアとジェーンにブローチを渡す。
基礎剣術の授業の時にも付けた衝撃を魔法で防いでくれるものだ。
「授業で使うものよりも強く魔法がかけられているなら多少思い切りやっても大丈夫だ」
「それでは……いき……ましょうか」
急にジェーンの歯切れが悪くなった。
自分を見ているようで見ていない。
視線が自分の後ろに向かっていると気づいてアリアは振り返った。
「ホッホッホ、お邪魔してしまったかな?」
全員の視線が一気にそちらに向く。
豊かなヒゲを蓄えた老人は入学式の時に一度だけアリアもその姿を見た。
「が、学園長!」
アカデミーの学園長を務めているアルドルトが音も立てずに訓練場に入ってきていたのであった。
みんなの驚いた顔を見てアルドルトがにこりと笑う。
「どうしてこのようなところに?」
キュミリアがアルドルトの対応に当たる。
よく状況も分からなくてアリアとジェーンが顔を見合わせた。
その気になっていたのだけど少し水を差されてしまった。
「面白いことをしているようだから見物に来たのだ。
少し見させてもらってもよいかな?」
「え、ええもちろんです」
「これ、やるのはそちらのお嬢さん方だろう?
彼女たちの意見を聞かんと」
流石に学園長相手ではキュミリアも緊張してしまう。
声がややうわずっている。