毒にも薬にも2
毒というものは非常に厄介だ。
どんなに警戒していても紛れ込むことを完全に防ぐことは難しい。
毒が入れられることを警戒することも当然大事であるが毒が入れられることを防ぎきれない以上は毒を飲むことだって想定しなければならない。
けれど全ての毒に効く万能薬なんてものはなく、毒を盛られることに対する対抗手段がないとしたら毒そのものに対する抵抗力を高めるしかない。
こんなことを話せば毒なんて警戒する必要がどこにあるのだと人は言う。
一般の人は毒と無縁であることは確かだ。
けれどもどんな人でもないと言い切れないのもまた確かなのでもある。
どんな毒でもよければ手に入れることは容易でバレにくく手を下しやすい。
「私の授業は知識を得て、薬を作り、そしてそれを自分で試すんだ。
身をもって経験することこそ学びにつながる。
それがたとえ毒でもな」
少し言い方に気をつければ良いのにとアリアは思う。
そうすれば多少は残る生徒も増えるはず。
口の中で赤い実をゆっくり噛んでいたら舌先の感覚が戻ってきたアリアは引き気味の生徒に構わずニヤリと笑っているデルトロを目を細めて見ていた。
“他に行くところがなければここに来ると良い。
ここは他の授業は使われない。
だから他の生徒もほとんどここにはこない”
もちろん毒耐性が欲しいがそれだけではない。
回帰前にデルトロに言われた言葉をふと思い出す。
回帰前友達もできず大変な授業ばかり取ってしまったアリア。
周りとの差に段々と追い詰められながらも必死に授業についていき、いっぱいいっぱいになっていた。
そんな時にデルトロはアリアに声をかけてくれた。
辛ければ教室にいてくれても構わないと。
同居人いるために寮生活で自室でも心休まらなかったアリアの心中を察してくれた。
アリアがデルトロの評価欲しさに積極的に怪しい草やら薬の試飲をやっていたこともあったからかもしれない。
ともかくなんとなく辛くなったらアリアはよく錬金術の教室に来ていた。
授業の準備などでデルトロがいたりもしたが特に何かを言ってくることもなかった。
時々そんな準備を手伝ったりお菓子をくれたりとデルトロは優しかった。
怪しい風貌で歯に衣着せぬような言い方で誤解されがちであるが良く人を見てくれる優しい先生であった。
たとえ他の生徒が全員脱落しようともアリアだけは最後まで付き合う。
「ご本人にそれを言ったらきっと嫌な顔なさるのでしょうけど」
デルトロに最後まで錬金術の授業を受けるつもりだと言ったら渋い顔をすることだろう。
生徒がいなければ授業をしなくて楽なのにとぼやくかもしれない。
復讐は忘れることがない。
だからといって受けた恩も忘れない。
身にもなるのだし良いことづくめの授業である。
(よく毒を食らって笑っていられるな……)
アリアの黒い笑顔を見てなぜだか背中がゾクリとしたデルトロであった。