どちらの授業がよろしくて2
「ふふふ、私は情報網を駆使して楽な授業をちゃんと調べてきたんです!」
どの授業だって公平にはなるようにしているだろうが授業内容や教える教授によって程度の差が出てきてしまうのは仕方のないことである。
そのため単位の取得が楽な単位と厳しい単位の差が生まれる。
長いこと教授も入れ替わらず定番の楽な授業と厳しい授業はなんとなく決まっていて、そうした情報は新入生の間を駆け巡っている。
回帰前のアリアはそうしたことを知らなかったし教えてくれる友達もいなかった。
だから結構苦労した。
その分は身になったと思えば無駄ではなかったと言えるけれど。
今回授業に関してはあまり心配していない。
なぜなら一度受けたことがあるから。
なんだかんだ厳しい授業も受けてしまったけれどアリアは単位を落としたことはなかった。
一度受けた授業で再び単位を取ることなど造作もない。
回帰前の経験から楽な授業も知っているし卒業することは難しくない。
「まあ私たちはまだ1年生なので基礎授業しか取れないものもありますけどいくつかオススメがあります」
1年生のうちは取れる授業の幅も狭い年数を重ねるうちに応用だったり難しい授業も取れるようになるが今は授業がどのようなものか慣れる時期なのである。
「まずは基礎算術ですね!」
鼻息荒くパメラが口にした授業は鉄板中の鉄板の楽な授業だった。
おそらく取らない人はいないのではないかと思えるほどの授業である。
「えーとこれが……」
パメラは部屋に置いてあった授業の概要や日程などが書かれた資料をめくって基礎算術について探す。
「3の2……だから」
「ふふふ」
アリアは紙とペンを取り出した。
「何をしているのですか?」
アリアは紙に縦に10個の長い四角を並べて書いた。
それらの四角をそれぞれ5等分する。
「3の2ですわね」
そして左から3つ目の四角の上から3番目に基礎算術と書き込む。
「アリアあったまいい!」
アリアが書いたのは授業のスケジュール表であった。
アカデミーの授業は10日に1回、あるいは2回ほどの頻度で行われる。
多くの場合が10日に1回と10日に2回の周期を繰り返す。
そして1日にある授業は最大5つなので10日単位、1日を5等分にした表で授業がどこに入るのかを考えて管理していくのが一般的である。
時間が経てば誰でも思いつくことであるが入学したてだと何もなく考えてしまいがちである。
パメラがオススメしてくれる楽な授業をとりあえず書き込んでいく。
「あちゃー……これ被ってるのか」
ただそう全ても上手くはいかない。
他の授業とスケジュールが被ってしまっていることも当然にあることで全ての楽な授業を取れるわけではない。
1年目だから楽な授業だけ取ることも構わないが結局楽な授業だけでは卒業出来ない。
どこかで楽ではない授業も取らねばならないのである。
「トゥージュは何を受けるつもりだったの?」
「私は……刺繍が得意なので」
「あー」
「私も刺繍の授業は受けますわ」
「ええっ!?」
「貴族の嗜みとしては当然ですからね」
刺繍と聞いてパメラは怪訝そうな顔をする。
アリアは回帰前相当高いレベルまで刺繍スキルを上げた。
今回も夜など外に出られない時間にチクチクと刺繍を行っていたのでそれなりにレベルは高い。
「私苦手なんだよなぁ……」
しかしどうやらパメラは刺繍が苦手なようである。
一般的な貴族子女にとって刺繍の授業は楽な方の授業になるのだがパメラには勝手が違いそうだ。
「無理強いはいたしませんがそう心配なさらなくても大丈夫ですわ」
「むむう……2人が受けるなら」
「刺繍のレベルを上げておけば手先も器用になりますしいいですよ」
「パメラは何か受けようと思っているものがあって?」
「私は……実はちょっと体動かすものでも受けようかと思っているんだ」
授業は座学だけではない。
運動するものもあれば剣や槍など武術に関するものもある。
パメラはスポーツ的な授業を受けようと考えていた。
「お2人もどうですか!」
「私は……ちょっと」
「くっ……!」
トゥージュはそーっと目を逸らす。
逆にトゥージュの方は体を動かすことが苦手であった。
出来るなら運動系の授業は出たくないなと思うほどである。
なんとなくそれは察していたのでパメラも大人しく引き下がる。
ならばとアリアに目を向ける。
「私も体を動かす授業は受けますわ」
「本当!?
なら……」
「ですが」
「ですがぁ?」
「パメラとは多分違う授業を受けることになると思います」
「えーーーー!」
「ふふふ、残念でした」
そうしてワイワイとしながら授業をどうするのか話す。
「基礎錬金術……?
でもこれって」
「分かっていますわ」
会話の中でアリアが基礎錬金術の授業を受けようと思っていると言った。
それに対してパメラが不思議そうな表情を浮かべた。
錬金術はあまり人気がない授業だった。
さらに単位を取るのが厳しい授業としても有名である。
錬金術師にでもなりたい人でもない限り受けない授業であった。
「ふふ、少し興味がありますの」
アリアは笑う。
当然、アリアは無駄なことをする気なんてない。
落とすかもしれないのに興味だけで錬金術の授業を選ぶはずがないのである。