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入学式3

 そのことに突っ込めるほどパメラとも仲は深くない。

 横目で暗い表情を見流しながら講堂の中に入る。


 入学式も目前なので講堂の中に人は多かった。

 席は自由なのでどこが良いのか講堂を見回す。


 パッと見た感じでもうすでに大きなグループは出来上がっているように見受けられた。

 そうした人たちの仲間だと思われるのは嫌なので分かりやすいグループから距離もあって目立たなそうな席を探す。


「あっ」


「誰かお知り合いでもいました?」


「トゥージュがいますよ」


「あら、本当ですか?」


「あっちの方に」


 パメラの指差す方を見てみると端に近い席にトゥージュが座っていた。

 背筋を伸びして綺麗な姿勢で座っているトゥージュはいかにも緊張している面持ちであった。


「両側の席、空いていますわね」


「……そうですね」


 アリアとパメラが顔を見合わせて笑う。

 二手に分かれてそっーと近づく。


「トゥージュさーん!」


「えっ?」


「お久しぶりです、トゥージュ」


「あっ!」


 急に両隣に人が座ってきてピクリと震えたトゥージュ。

 さらには名前まで呼ばれて驚いていたが座った相手がアリアとパメラなのを見てホッと小さく笑顔を浮かべた。


「お、お久しぶりです」


「ええ、ここで見つけられてよかったですわ。

 お隣よろしくて?」


 先に座っておいてよろしくても何もないが一応マナーとして聞いておく。


「もちろんです。

 知り合いいなくて……お2人に会えてよかったです」


 話しかけられてもいいような心構えはしていた。

 けれどその緊張があからさまに態度に出過ぎていたので周りの人も話しかけにくいだろう。


「ヒャッ!」


「ふふ、そう背筋を伸びしすぎても疲れてしまいますわ」


 未だに緊張したように背筋を伸ばしているトゥージュの背中に指をはわせる。

 むず痒さにトゥージュが驚いてアリアのことを見る。


「あまり気を張りすぎない自然なあなたでいた方がいいですわ」


「も、もう!」


「えいっ!」


「ひゃああ!

 く、くすぐったいですよ!」


 今度はパメラが後ろから背中に指をはわせる。


「ふふふ〜トゥージュは敏感なのね」


「い、イジワルです!」


「怒らないの〜」


 パメラはトゥージュをギュッと抱きしめる。

 回帰前はこのようなお友達というものがアリアもいなかった。


 けれどこうしたワイワイとした関係も悪くないかもと少し思った。


「静粛に!」


 広い講堂に声が響き渡って騒がしかった新入生たちがピタッと静かになる。

 見るといつの間にか壇上に中年の男性教諭が上がっていた。


 口の前で小さい魔法陣が回転している。

 あれで声を増幅して講堂全体に声を行き渡らせているのである。


 つまり中年の男性教諭は魔法使いだということになる。


「これより入学式を始める。

 まずは新入生代表の挨拶だ」


 壇上に新入生代表の挨拶を行う生徒が上がる。

 その姿を見て再び講堂がざわつき始める。


「第三王子のノラスティオ様ですね」


「え、ええっ!?

 王子様なんですか?」


 パメラは知っていたのか驚く様子もないけれどトゥージュは驚きに目を丸くしている。

 中年の男性教諭がパチンと指を鳴らすとノラの口の前に魔法陣が浮かび上がる。


「あー……」


 そんなに大きな声を出してもいないのに講堂に声が響く。

 これなら声を張りすぎずとも大丈夫そう。


「……少し立派になりましたね」


 回帰前の印象を除くと以前会った時のオドオドとした少年のイメージがアリアの中では強かった。

 しかし今のノラは堂々としていて代表挨拶もしっかりとこなしている。


 やはり心配は杞憂だった。

 ノラは王族というだけでなく顔も良い。


 あのように堂々たる態度であるなら見惚れてしまう女子も多くいた。


「アカデミーで得られた経験を活かし、日々精進を重ねて成長していきたいと思います」


 ここで下手に政治的なことを口にすれば後々災いともなりうる。

 けれどノラは上手く話をまとめて最後まで噛むこともなく終わらせた。


「続きましてアカデミーの学園長アルドルト・ベニャルトスの挨拶です」


 白髪、豊かなアゴヒゲを蓄えた老人が姿を現した。

 大きな杖をつきながらもしっかりとした足取りで壇上に上がりゆっくりと新入生たちを見回した。


「ようこそ、アカデミーへ」


 声の聞こえ方が違っている。

 アリアが横を見ると魔法陣が講堂の至る所に浮いている。


 壇上から響き渡るような声ではなく近くで穏やかに話してくれているように優しく聞こえてくる。

 よく見るとアルドルトの喉元に小さな魔法陣が見える。


 単に声を拡大するだけではなく喉元の声を拾って複数の魔法陣から聞きやすいように流してくれている。

 みんなは気がついていない。


 これがどれほどすごいことかに。

 声の拡大拡散だけとは話が違う。


 喉元で正確に声だけを拾い上げて離れている複数の魔法陣を同時にコントロールしている。

 これが希代の大魔法使いと呼ばれたアルドルトの実力なのかと密かにアリアは驚いていた。


「アカデミーは学ばないこともできれば大きな学びを得ることもできる場所である。

 若き才能が一体ここで何を学び取るだろうか」


 聴きやすくて優しい声。


「多くの機会は案外手を伸ばせば届くところにあるものだ。

 今手に届かないものでも研鑽を重ね、掴み取る強い意志を持ってすればいつかは手が届きうる。


 しかし忘れないでほしい。

 どのようなものであっても自ら手を伸ばして掴まねばならないということを。


 そしてアカデミーにはその機会を得るための場があることを。

 我々は学ぶ者を歓迎しよう!」


 アルドルトは杖を床に打ち付けた。

 すると魔法陣が弾け飛んで魔力が雪へと変わった。


「……あれがアルドルト」


 みんなが講堂に降り落ちる雪に夢中になる中アリアは微笑んでいるアルドルトの顔をジッと見つめていた。

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