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入学式2

「僕の妹と距離が近すぎます」


「はっ?」


「なんだと?

 手が触れているわけでもないしこれぐらいはいいじゃないか」


 なぜ割り込んだのか疑問であったがディージャンから見た時カールソンはアリアに近づきすぎているように見えたのである。

 だから割り込んだ。


 大事な妹に近づくものはカンバーレンドであろうと許さない。


「そんな風にアリアに近づく人をみんな排除するつもりですか?」


「もちろん。

 君もアリアと話したければ距離を取ることだね」


「あと5歩ぐらい下がっていてください」


 未だに笑顔を浮かべているがカールソンの頬がひくりとしたのをアリアは見逃さなかった。

 どうしたものかと思う。


 ディージャンとユーラの方に立てば角が立つ。

 だからといってカールソンの方に立ってしまうと今も収まらぬ噂が加速してしまうかもしれない。


 周りからの注目度は高いままでこのような騒ぎはご遠慮願いたいものである。


「僕と話すかどうか決めるのはアリア自身だ」


「アリアは優しいからね。

 僕たちが止めてあげなきゃいけないんだ」


 別に話す相手ぐらい自分で選べる。

 しかしもう口を出すのも面倒になってアリアは静観することにした。


 どちらについても面倒そうなら口を出さないでおくのがいい。


「アカデミーの中であっても君達がずっと一緒にいられるわけじゃない。

 そうして守ってばかりでは独り立ちもできずアリアが困ったことになるだろ」


「アリアは賢いからね。

 独り立ちぐらい出来るさ。


 でも君のように良からぬ意図を持って近づいてくる人がいるかもしれないだろ」


「なっ……僕のどこが良からぬ意図を持っていると言うんだ!」


「ヘラヘラ笑ってアリアに近づこうとしているくせによく言うよ」


「なんだと!」


 なんだこの低レベルな会話はとアリアは呆れ果てる。

 ディージャンもカールソンもそこそこまともな頭を持っているはずなのに話の主眼がよく分からない言い合いをしている。


 アリアについて話していることは間違いないが永遠に平行線のまま決着を迎えなさそうだ。


「アリア!」


「パメラ!」


 もう聞くに耐えない会話を終わらせるために両方ぶん殴ってしまおうかと遠い目をしていると遠巻きにアリアたちを見ている人だから抜け出してきた女の子がいた。

 カンバーレンドでの狩猟祭で会ったパメラである。


 ディージャンとカールソンが睨み合う状況にも関わらず笑顔で手を振って近づいて来てくれるパメラの豪胆さは光り輝いて見えた。


「早くしないと入学式が始まってしまいますよ」


「そう……きゃっ!」


「行きましょう!」


 パメラはアリアの手を取ると走り出す。

 目が合うとぱちりとウインクしてみせる様を見るとアリアが困っていそうだったからやったことだと理解した。


「お兄様、私お友達とお先に失礼します」


 これには流石のアリアと思わず笑顔になる。


「あっ!」


「えっ!」


「行きましょう、パメラ」


 睨み合っている間にアリアを奪われてしまった。

 走り去るアリアにディージャンとカールソンは驚きの表情を浮かべ顔を見合わせる。


「お前のせいだ」


「僕?

 君がしっかりアリアから距離を空けていればよかったのさ」


 それでもまだ言い合いを続けるディージャンとカールソンであった。


「お元気そうで」


「そちらそこ、パメラ」


 くすくすとイタズラっぽく笑うパメラも制服に身を包んでいる。

 同じく入学することは知っていたのだけどこうして会えるのは嬉しさがある。


「お噂にも聞いていましたが……お兄様に愛されていらっしゃるのですね」


 パメラがチラリとユーラを見た。


「当然だろ?

 可愛い妹を愛するのはもちろんじゃないか!」


 ディージャンがカールソンを相手している中でユーラはちゃっかりとついてきていた。

 狩猟祭でも狩った獲物をアリアに捧げていたしカールソンとの噂以外でもエルダン家にアリアは愛されていると話が広まっていた。


 ゴラックがアリアに甘いことはもちろんディージャンとユーラも同様にアリアを寵愛しているとパメラの耳にも入っている。

 自慢げな表情を浮かべるユーラを見れば本当なことは言うまでもない。


「ふふ、羨ましいですね」


「でも少しは控えてくれると嬉しいですわ」


 ため息混じりにアリアが答える。

 それを聞いてもユーラは平然としていて控える気配などない。


「こちらの講堂で入学式が行われます。

 ええと……ここからは新入生しか入れないので」


「お兄様はここまでですわ」


「えっ!

 俺も……」


「お兄様!」


「うっ……分かったよ」


 どこまでもついていきそうな雰囲気のあったユーラだがそういうわけにはいかない。

 入学式は入学する生徒しか出席できない。


 アリアに怒られてユーラは渋々アリアから離れていった。

 何度もいじけたように振り返りながら。


「ふふふふっ」


 その様子がパメラにはたまらなく面白かった。

 怒られた子犬が主人の様子をうかがっているようにも見えた。


「本当に困ったものですわ」


「いいじゃないですか、仲が悪いよりよっぽど……」


 ほんの一瞬パメラの顔に影が落ちた。

 アリアとてパメラのことを手放しに信頼しているのではない。


 一応パメラのことも調べているのでその表情の裏に何があるのかは察していた。

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