君に捧げる3
「あらあらあら……」
アリアたちの目にもすぐにそれは見えた。
数名の騎士が縄でくくりつけた黒いものを引きずり、その先頭を歩いてあるのはカールソンであった。
あっ、これはまずいとアリアはとっさに思ったけれどもうどうしようもない。
少し誇らしげに微笑みを浮かべるカールソンはアリアを見つけると真っ直ぐに向かってきた。
そしてアリアの前で膝をつく。
「アリア・エルダン嬢。
どうか、あなたに受け取ってほしい」
カールソンが狩ったのは大きなクマであった。
魔物を除けば森にいる中で最も危険で、最も大きな獲物である。
子供どころか大人ですら倒すのが難しい巨大な相手をカールソンはなんと仕留めてみせたのである。
しかもそれを献上する相手はアリアであった。
会場がまた大きくざわつく。
てっきりみんな母親のエオソートに献上するものだと思っていた。
なのにカールソンが献上した相手はアリアであり、このことが意味する内容を考えてキャーキャー言っている女子たちまでいた。
もちろんアリアのことを射抜かんばかりに睨みつけているご令嬢もいる。
「どうでしょう」
カールソンはアリアの手を取って軽く口づけする。
「これぐらいあればアリアに相応しいだろうか?
僕があなたを今宵のクイーンにする」
「こちらの狩猟祭でクイーンはお決めにならないのではなくて?」
「決めて言わないだけで誰がクイーンかは一目瞭然さ。
それで、受け取ってくれますか?」
「…………ええ、喜んで」
こんなに注目を浴びて断れるはずもない。
アリアが作った笑顔でカールソンを受け入れると会場に自然と拍手が起こり始める。
「なんだよ、アレ!」
「くそっ……あんなもの出されちゃ勝てないよ」
ユーラとディージャンはそんな様子を見て悔しそうにしている。
2人が狩ったシカだって立派なものであるがカールソンのクマと比べるとどうしたってかすんでしまう。
アリアに捧げた中では1番だと思ったのにあんなもの出してきては勝てるはずがない。
おかげでアリアがこの狩猟祭においてはクイーンであることは確実になったが認めたくない自分たちがいる。
「さすが我が息子ね」
アリアに対するアピールにもなるしカールソン自身の力が同年代よりも一歩抜きん出ていることも周りにしっかりと見せつけることができた。
あまり目立ちすぎるとマイナスなこともあるがすでにオーラユーザーであることを公表したカールソンの場合大人しくしているだけよりもある程度力を見せたほうが後々楽である。
むしろカールソンはこれでは足りないとすら思っている。
もっと自分に力があったらアリアに捧げるものをとってこれたのに。
「……褒めてくれますか?」
膝をつき手を取ったまま上目遣いにアリアを見つめるカールソン。
アリアの満足には足りないかもしれないがこの場における誰よりも1番を捧げた。
「ありがとう、カールソン」
「……はい」
もうこの際もらったものを素直に喜ぼう。
アリアが微笑んでお礼の言葉を述べるとカールソンは頬を赤らめた。
なぜだろう、アリアにはカールソンにブンブンと振られる尻尾が見えるような気がしていた。