君に捧げる2
「アリアも今年アカデミーにご入学ですか?」
「ええ、もということはパメラも?」
「そうなんです」
アリアよりも1つ年上であるパメラであったがアカデミーの入学はアリアと同じであった。
アカデミーに入るのも大体これぐらいの年齢というだけで正確に何歳で入れというわけでもない。
家の事情などで1年や2年遅れてはいることも珍しくはない。
パメラの家であるスキャナーズは南部の方の家でアカデミーからは少し遠い。
入学のタイミングで問題が起きれば延期することもあり得ない話ではないのだ。
パメラにどんな事情があったのかアリアは聞くつもりもない。
各々色々あって当然なのだ。
「お友達ができるか不安でしたがアリアがいるなら安心ですね!」
「トゥージュは?」
「わ、私も実は……」
「あら、そうなんですか!」
パメラがニッコリと笑う。
入学前に友達が2人も出来た。
この集まりの目的に沿った素晴らしい成果である。
「トゥージュさんもよろしくお願いしますね!」
「私なんかでもいいんでしょうか?」
「ふふふっ、もちろん!」
パメラほどの人懐っこさがあるなら今友達を作らなくても大丈夫だし、なんなら今からでもたくさん友達も作れそうだとアリアは思った。
トゥージュも頬を赤らめて嬉しそうにしている。
人見知りで話下手なのでお茶会も不安であったけれどこうして友達ができて嬉しかった。
「騒がしくなってきましたわね」
何かの問題が発生したのではない。
狩猟に出ていた男性たちが戻り始めていたのである。
狩りに成功した者、しなかった者、様々。
貴族の小規模な狩りならば絶対なんかで小さくても狩りの成果を上げさせるのだろうがカンバーレンドの開催する狩猟祭にそうした接待はない。
腕や運が悪ければ狩りに成功もしない。
中には狩りを度外視で楽しむ人もいるがこうしたところから本気で挑む人もいる。
娘がお茶会に参加している父親の男性が膝をついて娘に狩猟の成果を献上する。
このように女性に狩りの成果を捧げるのもある種の文化である。
狩りに失敗して捧げるものがなくて怒られる人もいたり、男の子が覚悟を決めたように女の子に小さいながらも自分で狩った獲物を献上した。
女の子は驚いた顔をして、少し頬を赤らめてそれを受け取る。
「青春ねぇ」
その様子を見ながら優しい目をしてエオソート微笑む。
自分も昔あのようにギオイルが獲物を差し出してくれたものであると思い出していた。
交流の深め方はただそれぞれ友達を作るだけでもない。
「アリア、あなたのお兄様方では?」
一際ざわつきが大きくなった。
森の方からディージャンとユーラが後ろでは騎士がそこそこ大きなシカを抱えて持ってきていた。
大きな個体になるほど長く生きていて周りにも敏感になる。
かなり大きなシカなので相当長生きして狩るのも楽ではないはずなのに2人はどうやらそれを狩ってみせたらしい。
どこへ向かうのか。
周りの令嬢が期待混じりの視線を向ける中で2人は真っ直ぐにアリアのところにやってきた。
そしてアリアの前で膝をつく。
「本当は僕が狩ったんだけど……」
「なっ、ずるいぞ兄さん!
アリア、これは俺が射止めたんだ!」
「いやいや、僕が倒したところにユーラの矢が刺さったんだ」
「いーや違うね!
兄さんの矢は刺さりが甘くて……」
なぜか膝をついたまま言い争いを始めるディージャンとユーラ。
「お兄様」
しかしヒートアップしかけた言い争いもアリアの一言でピタリと止まる。
「お兄様たちが狩ってきたそちらのシカをどうしてくださるのかしら?」
どうにもシカをどちらが最終的に倒したのか争いがあるらしい。
けれどそんなことアリアにとってはどうでもよく、今この注目を浴びている状況を何とかしたい。
「「アリア」」
「僕が狩った」
「俺が狩った」
「「獲物を受け取ってくれないか?」」
「もちろん。
ありがとうございます、お兄様」
アリアは笑顔で対応する。
狩猟祭といえば女性がもう1つ密かに楽しみしていることがある。
それはクイーンの座に着くことだ。
クイーンとは本物の女王のことではない。
狩猟によって狩られた獲物を多く献上された女性が狩猟祭におけるクイーンと呼ばれる。
基準は数や質など総合的に勘案されるのだが今のところディージャンとユーラが献上したシカが大きくて一番目立つ獲物である。
ディージャンとユーラを皮切りにして何人かの貴族男子がアリアに獲物を捧げにきた。
正確にはカンバーレンドの狩猟祭においてクイーンを選出して祝うことは行わないのだけど王家が開催するものに近いこちらの狩猟祭でのクイーンは王家の方でも有力なクイーン候補になる。
「さすがですね、アリア」
量も質もアリアが1番なことは一目瞭然。
注目を浴びるのが嫌だからやめてくれと思うが実際のところ受け取りは拒否できない。
パメラのところにも商人系の男子が献上に来たり、トゥージュのところにも幼馴染の男の子が小さいながら獲物を捧げた。
「何かしら?」
そろそろほとんどの人が戻ってきた。
もう献上してくる人もいなさそうだと思っていると一際大きなざわつきが広がった。