君に捧げる1
およそ1年間アリアは静かに過ごした。
ヘカトケイとオフンの指導を受けて鍛錬しながら時折お茶会などの招待を受けたりして社交界への進出も広げた。
その間にメリンダは家に帰っていったりディージャンとユーラもアカデミーの休みに入って戻ってきたりと色々出来事はあったが平和であった。
ただそれは表面上のことでありケルフィリア教による混乱はまだ続いていた。
ある宗教では教主の最側近がケルフィリア教だったなんてことが判明した。
他にもこうしたケルフィリア教排斥の流れに反発したケルフィリア教徒の暴動が起きたりしていた。
「またご同席できて嬉しいです!」
「こちらこそ」
同じテーブルに座るパメラは嬉しそうにニコニコとしている。
アリアはカンバーレンド家にいた。
別にカールソンに会いにきたのではない。
またまた狩猟祭にお誘いいただいたのである。
いつの間にか時は経ってアカデミー開校前になったので例によって交流を深めようとしているのである。
アリアも当然ご招待を受けた。
なぜなのかカールソンとエオソートの両方から招待状が届いた。
表向きには魔物騒ぎ、裏では暗殺騒動があったけれど今度は万全の準備をして行うことになった。
ケルフィリア教の騒動のせいで社交の場も少なくなったのでこうした場を設けることの意味も大きく止めるわけにはいかなかったのである。
面倒だから断ろうかとも考えた。
エオソートやカールソンとは普段から文通していてさりげなくスケジュールを聞き出されたりしていたので渋々行くことにしたのである。
前回は端の席であまり寄ってくる人もおらずにお茶を嗜むことになったのだけど今度は笑顔のエオソートにテーブルに招待された。
皆の前で堂々と呼ばれてお断りするわけにいかなかった。
ただエオソートと2人きりなのは流石に注目浴びすぎるので今年も呼ばれていたパメラを召喚した。
アリアに呼ばれてパメラは大喜びで席についた。
「わ、私はこ、こんなところにいていいのでしょうか?」
「あら、アリアの推薦だしもちろんいいのよ」
「で、ですがアリ……エルダンさんとは今日が初めてで……」
「アリアでよろしくてよ」
そしてテーブルにはもう1人ご令嬢がいた。
トゥージュ・ヘヴィアナドという女の子で去年はいなかった。
ややおどおどとした雰囲気のある子であるがアリアの勧めでここにいることになった。
トゥージュはアリアと面識がない。
そうれはそうなのであるがアリアはトゥージュのことを知っていた。
回帰前アリアは第二王子に嫁ぐことになったのだけどその時にアリアの侍従として選ばれたのがトゥージュであった。
小さくも大きくもない中小貴族の中の1人だった。
当時もおどおどとした感じはあったけれどよく気が回るし仕事は丁寧で人柄も良かった。
アリアが離婚を言い渡される前に良い相手を見つけて結婚したトゥージュは離婚されたアリアを気遣ってもくれていた。
良い友人だった。
「で、では私はトゥージュで……」
催しを開催している主賓、大きな貴族の令嬢、有名な豪商の娘。
家の格的には全くこの場にふさわしくないトゥージュは目を回しそうになっている。
「そう緊張なさらなくてもいいのですよ。
親睦を深めるためのお茶会ですのでお気軽にお話くださって大丈夫ですわ」
そう言っても緊張するものは仕方ないだろうなとアリアは思う。
こうした言葉だけで緊張しなくなるのならどれほどよいか。
結局何と言おうと慣れるしか緊張しない方法などないのである。
「トゥージュさん、よろしくね!」
「は、はいぃぃ」
パメラも人当たりは良く受け入れやすいタイプの人である。
お茶を飲んで狩猟の結果を待つだけの会なので緊張していても失敗するようなこともないだろう。
「ご体調はいかがですか?」
「もうすっかり良くなったわ。
立ち歩くのもキツいぐらいの時があったのがウソのよう」
エオソートはケルフィリア教のスパイに毒を盛られていた。
そのためにまるで原因不明の病気のように体調が悪く篭りがちであった。
けれど暗殺事件乗り越えて毒を盛られることがなくなったエオソートの体調はすっかり回復していた。
「それにしても本当に他の人を同席させなくて良かったのかしら?
周りもあなたと同席したくて見ているわよ?」
「私でしょうか?」
アリアたちの席は周りの目が向いている。
当然のことながらエオソートとお近づきになっておきたいご令嬢もいるのだけどやはり大きく興味をひいているのはアリアであった。
度重なるケルフィリア教の事件でエルダン家に対する評価は変わった。
最初は身内からケルフィリア教を出して嘲笑われていたのだがソーダーンまで見つけ出して排除したことでエルダン家は今やしっかりとケルフィリア教を排斥した強固な家となった。
どこにケルフィリア教がいるのか疑心暗鬼になっている中で完全に潔白な家であると言えるエルダンにお近づきになりたい人が多くなっていた。
けれどアリアはそんな打算的なお付き合いを多く持つつもりはなかった。
「友人になるべき人はしっかりと見極めていきたいのですわ」
アリアの言葉を聞いてパメラの顔が明るくなる。
裏を返せばアリアにとってパメラは友人である、あるいは友人になっても良い人であると言われたようなものなのだ。