兄への大恩2
ゴラックは目をつぶって考えた。
仮にアリアがケルフィリア教と戦う存在であるならこれまで起きた事件の筋は通る。
これからのこと、これまでのこと、そしてそんな戦いに幼いながらに身を投じるアリアへの心配。
まとまりきらない考えが頭の中で順に巡ってさらにぐちゃぐちゃになっていく。
けれど1つ確かなことがある。
全ての元凶はケルフィリア教だ。
「また落ち着いたら話を聞かせてもらう。
だが今は我々のことを脅かした脅威に対処するとしよう」
どの道全てのことに結論を出すには情報も時間もない。
エルダンの屋敷にいるなら過去のことの資料もあるが今はホード家にいるので手元にはない。
ソーダーンのことで動揺しているからまだいいが長く留めれば招待客からも不満が出る。
エルダンに仕える家系のものはいいがそれ以外のものもいるので無理に留め置くことは難しい。
仕えていない家のものにいくら話さないようにと言ってもおそらく情報は封じてはおけない。
ソーダーンのことはあっという間に広がるはず。
「今回のことは分かっていてやったことにするしかない」
このまま不自然であっても押し切るしかない。
ゆっくりと目を開けたゴラックは決断した。
ソーダーンがケルフィリア教だと気付けなかった自分も悪いのだ。
ここは矢面に立つしかない。
「お集まりの皆様、このような事態になってしまい、お帰りを少しお伸ばししてしまったこと大変申し訳ございません」
決断を下したゴラックは皆をホールに集めた。
どういうことだ、説明しろとゴラックに言葉が飛んでくる。
「この場を借りて説明させていただきます。
ソーダーン・ホード及びケニヤック・ホードはケルフィリア教の教徒でした」
ゴラックの言葉にホールにざわつきが一気に広がる。
「様々なご意見あると思います。
けれど証拠もあります。
それにみなさまも目撃したでしょう。
あの赤黒い濁ったオーラを。
あれはケルフィリア教が使う禁術なのです」
ケルフィリア教が神の祝福と呼ぶ禁術がある。
どのような原理なのか分かっていないけれど無理矢理対象者にオーラを宿す技で、特徴はどのオーラも本来のオーラと違ってひどく濁った色をしていることである。
そんなにお目にかかれるものではないので知る人も多くはないがゴラックはケルフィリア教の被害を受けてからケルフィリア教について調べていたので知っていた。
まさかソーダーンがそんなことをするだなんて思いもしなかった。
それにのちに冷静になってようやくあの濁ったオーラがケルフィリア教の神の祝福だったのだと気がついた。
「以前より調査を進めてきましたが今回ソーダーンが暴走してしまったためにあのような事件になってしまいました」
あくまでもゴラックは知っていた。
そして今回のことは偶発的事件であると主張する。
「調査のためにみなさまを拘束させていただいたことは誠に申し訳ございません。
また、仔細お伝えすることも控えさせていただければと思います」
これまで返せと騒いでいた貴族が今度は全てを話せと騒ぎ立てる。
「それはできません。
まだ全ても調べ終えておりません。
ひとまず皆様にはお帰りいただいても大丈夫です」
情報を与えすぎない。
かと言って何かが分かるような情報も与えない。
巻き込まれた身としては不満だろうがケルフィリア教がいるかもしれないので全てを話すことはできないのだ。
不満げにしている招待客であったが各々帰ってやることもある。
招待客たちは帰り、好き勝手に噂をし始めた。
あえてソーダーンのことだけを不明確に取り上げたことによりその場にいたドクマのことはほとんど噂にならなかった。
ついでに今回は以前にもケルフィリア教に痛手を負わされているゴラックが先手を打ってソーダーンを捕まえたなんてことにもなっていった。
また身内からケルフィリア教が見つかるという不名誉が起こりうるところであったが上手くゴラックがやったのだと見方を変えることに成功したのである。
これにはおそらくケルフィリア教も混乱することだろう。
相当警戒してケルフィリア教徒であることを隠していたソーダーンが見つけられたことは大きな衝撃を与えるに違いない。
しかもソーダーンは暗殺者。
どこまでソーダーンの情報が掴まれているのか気が気でないはずだ。
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「父親の代からすでにケルフィリア教だったようだ」
表向きの反ケルフィリア教組織である監察騎士団が介入することにもなりその後の処理は大変だった。
アリアが倒したケニヤックについてはエルダンの騎士がやったものであることにゴラックがした。
少しやつれたような表情のゴラックがソファーに座り、手に持っていた資料をテーブルに置いた。
部屋にはアリアを始めヘカトケイやメリンダ、クインやシェカルテなどの関係者が集められていた。
いつから裏切り者だったのか。
ソーダーンを調べてみると父親のワナスからもうケルフィリア教であった。
ホード家に婿入りしたワナスはホード家に入ったにも関わらずエルダン家を諦めてきれていなかった。
そこをケルフィリア教に付け込まれたのである。