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悪のやり方、子を救う2

「ただ少し患者を診てくれるだけでよろしいのですよ?」


「……患者を診ればいいんですね?」


「もちろん。


 それだけで先生の名声は保たれますわ」


 ニコニコと笑うアリア。

 イングラッドは顔をひきつらせてアリアを見る。


 正直な話イングラッドはアリアのことは嫌いではなかった。

 些細な体調不良で呼び出されることはあるけれど大人しく診療されるし苦い薬だって嫌がらない。


 患者としてはやりやすかった。

 体が小さく成長が遅いことや非常に内向的な性格の持ち主であることは気になっていた。


 過去に一度聞いてみたことはあるけれど心に傷を抱えているので深く踏み込むことはしないでほしいと言われてイングラッドもそうしていた。

 時々体にあざがあったりもしたがアリアはぶつけたのだと言っていて悩んだけれどそれ以上突っ込むこともしなかった。


 何が起きたらあの内向的な子がこうなるのだ。

 鋭さと冷たさを秘めた氷の刃のよう。


 もしかして心が壊れてしまったのではないかと不安になるが今は下手に触れると不名誉な罪を着せられることになる。


「……分かりました。


 診させていただきましょう」


「ふふっ、賢明なご判断ですわ」


「それでいつどこにお伺いすればよろしいですか?」


「そうですわね……今行きましょうか」


「い、今ですか!?」


「今。


 今すぐですわ。


 シェカルテ、準備を」


 「は、はい」


 後で冷静になられても困る。

 やるなら今すぐ、即決即断がよい。


 治療するにしても早い方が絶対にいいに決まっている。


「レディーが準備をするというのにいつまでそこに突っ立っているのですか?」


「……も、申し訳ありません!」


 イングラッドが慌てて部屋を出ていく。

 アリアの変貌ぶりに呆然としていて基本的なマナーすらなっていない。


「ごめんなさいね。


 痛かったでしょう?」


「い、いえ、弟のためですから……」


 クローゼットから服を持ってきたシェカルテの頬をアリアが優しく撫でる。

 それで報われたとか、痛みがなくなることはないけれど不思議と怒る気にはならなくなった。


「事前にああするとおっしゃってくれればよかったのに」


「私に全部がバレるほどの演技力のあなたにイングラッド先生を騙し切れるとは思いませんわ」


 グサリと来る言葉を簡単に口にする。

 アリアがシェカルテの頬を打ったのはアドリブでシェカルテは何が何だか分からなかった。


 けれどもアリアは呆然としているシェカルテを使ってイングラッドを脅して弟を診察することをサラリと承諾させた。

 やってみなきゃ分からないじゃないですかと言いかけるが分からない時点で演技力の不安があると言っているも同然だ。


 言わない方が成功率が高いならそうする。

 シェカルテもなんだかんだ文句も言わずしっかり状況に合わせて黙っていたのだから結果オーライである。


 アリアはシェカルテに手伝ってもらって外行き用の服に着替える。

 どの服を着たって派手なものはないから変わりはしないけれども多少綺麗な方の服。


「しかしお出かけしても大丈夫ですか?


 旦那様にご許可を頂かなくては……」


「ふん、あの人は私が何をしてもお気になさらないはずですわ。


 ……家の名声を汚すこと以外は」


「ですが……」


「今から向かうのはあなたの家なのですよ?


 そのことを本当に報告したいのですか?」


「……それは私が浅はかでした」


 今アリアが外出しようとしているのはシェカルテのためだ。

 何をいきなり平和ボケしたことを抜かしているのかとアリアはため息をつく。

 

 外出するのにいちいち許可を取るつもりなんてアリアはない。

 本来ならば報告しなきゃいけないけれど一度報告するとこれからも報告しなきゃいけなくなる。


 逆に報告しなければそういうことをするのだと相手も受け入れる。

 そもそもそんなにアリアには興味がないから大丈夫だろうと思っている。


 今後も外に出る機会はあるだろうから報告なんてしないという印象をつけておけば後々楽である。


「さて行きますわよ」


 シェカルテの家の場所なんてアリアは知りはしない。

 アリアとイングラッドを引き連れてアリアは屋敷を出る。


 そもそも離れであるこの小さい屋敷には使用人もいない。

 誰にも止められることもなく屋敷を出て門に向かう。


 もっと大きくなって権力を振るえるようになれば馬車を用意させるのだけど今はそこまで出来ない。


「お待ちください。


 私の馬車がありますのでそちらに」


 当然のように歩きでいくつもりだったのだけどイングラッドに止められる。

 イングラッドはお抱えの医者であるが屋敷に常駐しているのではない。


 近くに居を構えていてそこで医療に関する勉強や研究をしている。

 来る時は馬車で来ているのでイングラッドの馬車があった。


 門番はアリアを見て不思議そうな顔をするがイングラッドが一緒なので何かの治療の一環だと解釈する。

 馬車を呼ぶようにイングラッドが言うと門番は走って行く。


「助かりましたわ」


「歩くのも健康にはいいですが今は悠長に歩いてもいられなさそうですので」


「先生も少しはお身体動かした方がよろしいですわ」


「いえ、私はこれでいいのです」


 やや線が細いイングラッド。

 理系のクールな男ではあるが少しばかり不健康そうに映ることもある。


 色黒でいかにも外に出るのが大好きですみたいな見た目にはならなくていいけれどもう少し体を鍛えてみても映える。

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