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神の祝福1

「血迷ったか!」


 ケニヤックをアリアに追いかけさせた。

 ソーダーンとしては全くもって困らない話であるがケニヤックに殺されてしまうかもしれないなと思った。


「はっはっ、どっちの心配をしてるんだ?

 心配すべきはあんたの息子の方だよ」


「なに?」


「……そしてあんた自身もさ」


「くうっ!」


 一瞬でソーダーンと距離を詰めてヘカトケイが剣を振り下ろす。

 なんとか防いだが想像よりも速くて重い一撃に額寸前まで剣が押し込まれてヒヤリとした。


「舐めるな!」


 剣を押し返すと今度はソーダーンから切りかかる。

 ソーダーンも長年騎士として鍛錬を続けてきた。


 その剣術レベルは伊達ではない。


「なかなかやるじゃないか。

 遊んで過ごしていたわけじゃないようだね」


「当然だ!」


 けれどヘカトケイは易々と剣を受けてみせる。

 飄々とした表情を崩せもしなくてソーダーンは顔をしかめる。


「させませんよ!」


 懐に隠していたナイフを抜いてヘカトケイの後ろに回り込もうとするドクマをクインが止める。


「貴様……ただのメイドじゃないな。

 聖印騎士団か!」


 ややクインが押され気味ながら何度かナイフで切り結ぶ。

 ドクマはすぐにクインがただのメイドでないことを見抜く。


 そもそもただのメイドがナイフを持っていたりそれで戦うことなどできるものじゃないからだ。

 ヘカトケイが聖印騎士団であることは知っている。


 そのヘカトケイと一緒にいて戦えるメイドとなると答えはクインも聖印騎士団であるしかない。


「ぐっ!」


「しかし俺を相手取るには甘いな!」


 ナイフを弾くような押し返してクインの腹を殴りつける。

 クインはどちらかといえば工作員であり戦闘員ではない。


 カンバーレンドでの暗殺事件の時はいきなりアリアとクインが飛び込んできて戦闘になった。

 その上相手は下級騎士で実力としてもまだまだであったのでクインが制圧できた。


 しかしドクマは冷静さを保ち、クインよりも優位に立ち回っていた。


「ドクマ!

 遊んでないでこっちを手伝え!」


 一方でソーダーンはかなりの劣勢を強いられていた。

 防御に徹することでなんとか持ち堪えてはいるもののそう長くは持たないと焦りを抱えていた。


「ふん……情けないな」


「く……行かせません!」


「邪魔をするな!」


 ドクマはクインのナイフをいなすと顔を殴りつける。


「ドクマ!」


「今行くと……」


「女性に手を上げて良いと思っているのか?」


 ソーダーンの声に反応して振り向くとヘカトケイがドクマに接近していた。


「ぐわああああっ!」


「ヤケドの跡が特徴だというが、今日からは顔の傷も特徴になるな」


 ヘカトケイの剣をナイフで防ごうとした。

 けれどナイフで剣をまともに受けてしまえば防ぎきれはしない。


 ナイフごとドクマの顔が切り裂かれた。

 目の間を走るように斜めに大きく顔が切られてドクマは叫び声を上げる。


「クソ……クソォーーーー!

 殺してやる……お前ら全員殺してやる!」


「それが本性かい?

 出来もしないこと口にするもんじゃないよ」


「ソーダーン!

 神の祝福を受けろ!」


「しかし……」


「うるさい!

 どの道ここで何もしなければ俺たちは終わりだ!」


「う……」


 ヘカトケイの実力は圧倒的だ。

 2人同時にかかっていっても勝てない。


 そのことは分かっている。

 けれどソーダーンは神の祝福を受けることに抵抗感を表した。


「いくぞ!」


 ドクマはナイフを投げ捨てて丸い金属の板のようなものを取り出した。

 板にはケルフィリア教の紋章が刻まれている。


「神よ!

 あなたの大業を邪魔する異教徒を退けるお力をお与えください!」


 敵の前だというのにドクマは祈りを捧げるように膝をついて手を振り上げた。

 その目はとても狂気満ちていて正気だとは思えない。


 突如として雷が落ちた。

 雲も何もないのにどこから急に。


 目を覆うような閃光が落ちた先はソーダーンだった。


「見ていろよ……魔女め。

 ケルフィリア様の力を思い知るといい!」


 雷が落ちたら普通の人はただでは済まない。

 しかしソーダーンは何事もなかったように立っていた。


 クインは気がついた。

 あれだけの雷が落ちたのに足元の草すら焦げてもいない。


「な、あ、あれは!?」


 雷を浴びたソーダーンはピクリとも動かない。

 けれどその体からまるで煙のようにオーラが立ち上り始めた。


 濁ったような赤黒いオーラ。

 ソーダーンはオーラユーザーのはずではない。


 なのにどうしてとクインは驚きに目を見開いた。


「この力……」


 ソーダーンがゆっくりと目を開けた。

 手を握ったり開いたりして体にみなぎる力を確かめる。


 これがオーラ、これがオーラユーザーの感覚なのかと万能感に包まれている。

 今なら勝てないと思ったヘカトケイにも勝てる。


 そんな自信が湧いてくるようだ。


「さて……反撃の時だ」


 ソーダーンは赤黒いオーラを爆発させるようにしながらヘカトケイに向かう。

 煤の混じった黒い煙のようなオーラに紛れているがソーダーンの目も狂気が見え始めていた。


 明らかに速さは先ほどまでよりも速く、剣が風を切る音も力強かった。

 ほとんどしっかりと受けて防いでいたヘカトケイは受け流したり回避したりとその防御の方法を変えた。

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