唄え、悪を切り捨てて3
「ここまで隠しおおせた割には鈍いですね……」
「なんだと?」
「ビスソラダのこともカンバーレンドでの暗殺未遂のことも全部私がやったことですわ」
「なに?」
「カンバーレンドでのこともだと?」
ソーダーンとドクマが驚いた顔をする。
ビスソラダのことはともかくカンバーレンド家で起きたことは一般には公になっていない。
ケルフィリア教が関わっていることも暗殺未遂があったことも内部に密接に関わっているものか、関わった当人しか知らないのである。
「私が何者か……それを説明するのは難しいですわ。
ただ私はケルフィリア教を許さない。
ケルフィリアに関わる全てを私は破壊してみせますわ」
「……ケニヤック!」
穏やかな口調で話すアリアにソーダーンはなぜなのか大きな脅威を感じた。
尋常ではない状況にも関わらず落ち着き払い、ケルフィリア教を破壊すると口にする。
目の前にいるのはただの小娘のはずなのに目に宿る燃えるような意思がケルフィリア教を燃やし尽くすような気がソーダーンにはしたのである。
まだ何の力もない今のうちに処理しておかねばならない。
後ろで剣を構えるケニヤックがソーダーンの声に反応してアリアに剣を振り下ろした。
「ふん……尻尾を現したね」
ケニヤックの動きに素早く反応を見せたのはヘカトケイだった。
アリアに向かって振り下ろされた剣をヘカトケイの剣が止めた。
ヘカトケイは片手、ケニヤックは両手で剣を持っているのにケニヤックは止められた位置から剣を押し切ることができなくて驚きに目を見開いた。
「グッ!」
「ケニヤック!」
いとも簡単に剣が弾かれてヘカトケイの蹴りが腹部に直撃してケニヤックは大きく後ろに飛ばされた。
「クソッ!
何でこんなことに!」
ドクマも懐からナイフを取り出して構える。
正体がバレてしまった。
これ以上逃亡生活をするのも厳しくここで戦うしかないと覚悟を決めた。
「はっ!」
ソーダーンがヘカトケイに切りかかる。
これまで騎士としてやってきたソーダーンの剣の実力は仮初のものではない。
レベルの高さを感じさせる鋭い剣にヘカトケイもしっかりと剣を両手で持って対応する。
けれど実際に剣を合わせてソーダーンは悟った。
ヘカトケイには勝てない。
自分の剣のレベルも相当なものだと自負はあるが上には上がいる。
必死に努力してもあるところからレベルが上がらなくなった。
努力を重ねても自分の限界を教えられたようで、天才と呼ばれるような人たちには敵わないと思っていた。
ヘカトケイの剣のレベルはおそらく自分よりも高くてとても敵わないのだと剣を防がれてソーダーンはすぐに気がついていた。
「死ね、この魔女が!」
ヘカトケイの横からドクマがナイフを突き出した。
1人でダメなら2人。
ドクマにはヘカトケイがソーダーンにギリギリ対応しているように見えていた。
「さすが師匠ですわ」
ヘカトケイはソーダーンの剣を押し返し、ドクマのナイフを素早く防ぐ。
そして剣から片手を放してドクマの顔を殴り飛ばした。
流れるような早業。
あらかじめ相手の行動が分かっていたかのようにスムーズに動いている。
どこまで努力していけばあの領域に達することが出来るだろうかとアリアは命の危機にある戦いの状況の中で憧れすら抱いていた。
「お嬢様、危ない!」
いつの間にか起き上がっていたケニヤックが人質を取ろうとアリアに迫っていた。
けれどアリアのみならずクインだってただのメイドではない。
ナイフを抜いてアリアに迫るケニヤックに切りかかる。
「チッ!」
容赦なく首を狙った一撃に無理をしないでケニヤックが飛び退いてかわした。
「ケニヤック、証拠を消してこい!」
ヘカトケイは勝てる相手じゃないとソーダーンは気がついた。
となれば取れる選択肢は少ない。
まず自分がケルフィリア教であると露呈し、今後の計画にも影響が出る証拠を隠滅しなければいけない。
ソーダーンは激しくヘカトケイに切りかかり行かせまいとする。
「あんたの相手は俺だ!」
背中を向けて戦闘を離脱するケニヤック。
追いかけようとしたクインに対してドクマがナイフで襲いかかる。
アリアを戦力として見ていない。
どうにかヘカトケイとクインさえ抑えればいいと2人は考えていた。
ヘカトケイとクインの相手をするのにいっぱいで、アリアがケニヤックの後を追いかけていることにソーダーンとドクマは気がついていなかったのである。
走るケニヤックをアリアは追いかける。
証拠を消すと言っていたから屋敷に戻るのかと思ったら屋敷とは逆の方に向かっている。
大の大人であるケニヤックとまだ体の未熟なアリアでは足の速さも違う。
そのまま走れば引き離されてしまうのでアリアは少しオーラを使った。
走っていったケニヤックがたどり着いたのは墓地であった。
ホード家や近くの町の人たちが眠っている共同の墓地である。
ケニヤックが向かったのは墓地の奥にあるホード家の人が眠っているお墓であった。
焦っているケニヤックはまさかアリアが追いかけてきているとは思っておらずアリアに気がついていない。