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唄え、悪を切り捨てて1

「なんで外から戻ってきたんだい?」


「少し外の空気を吸いたかったからですわ」


 外は段々と日が傾いてきていた。

 そろそろパーティーもお開きになる。


 2階に向かったはずなのになぜか外から戻ってきたアリアたちを見てメリンダは驚いた顔をしていた。

 外からきた理由は知らないが明るくない顔を見れば調べた結果がどうだったのかは聞くまでもない。


「なかなか上手くいきませんものね。

 あれ……そういえばその本人は……?」


 次の手を練らねばならない。

 そう思って会場を見回したけれどソーダーンの姿が見えない。


 主催者であり主役であるソーダーンは基本的に席を外すことなどないはずなのに。


「ソーダーンはね……おや、戻ってきたよ」


「戻ってきたのはクインではありませんか」


 てっきりソーダーンが来たのかと思ったらクインだった。


「お嬢様も戻っておいででしたか」


「何をしてらしたのですか?」


「ソーダーンさ」


「何か?」


「ソーダーンが使用人の1人に声をかけられて会場を出て行きました。

 アリア様たちがバレてしまったのかと後を付けていたのです」


 クインは見ていた。

 使用人がソーダーンに耳打ちするとソーダーンの顔色が一瞬変わったことを。


 ほんのわずかなことですぐに平静を装って、それまで話していた人との会話を打ち切ってソーダーンは使用人とどこかに行った。

 それをクインは最初アリアたちが潜入して証拠探しをしていることがバレたのだと思い、いざとなれば助け出すつもりで後をつけていたのであった。


「……いいえ、おそらく私たちは気づかれていませんわ」


「はい、ソーダーンが向かったのは屋敷の裏でした」


「裏?」


「何か使用人と言い争っているようでした。

 今から行けば何か聞けるかもしれません」


 裏手に来たということはアリアたちと会う寸前だったかもしれない。

 危ないところだったとアリアは思った。


 ソーダーンが何をしているのか知らないが問題が起きているような感じがある。

 アリアとヘカトケイはクインに連れられて家の裏手に向かった。


 こんな時は自分も戦いに関することを学んでおけばよかったと思いながらも戦いに関しては何もできないメリンダは1人会場に残されたのであった。


「だから!

 もう限界なんだよ!」


 屋敷の裏手に近づくと声が聞こえてきた。

 こっそりと角から覗くと言い争う2人の男性の姿が見えた。


 1人はソーダーンであるがもう1人は使用人のようである。

 その使用人にアリアは見覚えがあった。


 貴族の女性にひどく絡まれていた使用人であった。

 さらにはよくよく聞いてみると言い争いというか、使用人が怒っていてソーダーンは冷静にそれを諭している。


「いつまでこんなことしてればいい!

 俺が老いて死ぬまでこの使用人ごっこをさせるつもりか?」


「仕方がないだろう。

 ただの客人として置いておくには怪しすぎる」


「ならさっさとどこか別の場所にでも移してくれればいいだろ!

 なんでこんなことをさせる?


 さっきまで俺は厚化粧の空気も読めない年増のババアに愛人にならないかと迫られていたんだぞ!

 こんなこと我慢できるか!」


「移すのだって楽なことじゃない。

 本家の方で起きたことでどこに目があるのか分からないんだ」


 ヒートアップする使用人をソーダーンは冷たい目で見ている。


「もしかして、ですが」


「そのまさかだと私も思いますわ」


 どう見ても使用人と主人の関係ではない。

 使用人があんな口を聞けば速攻でクビになるだろうがあたかも2人はそれなりに対等であるかのように会話をしている。


 さらには会話の内容そのものもなんだか不自然だ。

 まるで客人で望まないのに使用人をやらされているよう。


 そこで3人はピンときた。

 客人でありながらも表沙汰にできない客人。


 ソーダーンが隠そうとするべき存在はただひとつである。

 ソーダーンに助けを求めてホード家を訪ねたとされるケルフィリア教徒のドクマである。


 もう少し年齢のいっている人を想像していたけれど職責の高いところにはいるが年配の男性であるなんて誰も言っていない。

 むしろ顔がそこそこ良くて若い男性ならあまり警戒もされないのかもしれない。


 体にある火傷の跡を確認しないことには分からないがどう見ても2人は怪しかった。


「そもそも失敗したのはそちらだろう。

 我々の長年あたためてきた計画があと一歩だったのにまさか大事なそちらが成し得ないとはな」


「それもこちらの失敗ではない!

 バカなビスソラダとかいう女がことを焦ってバレてしまったのだ。


 支援も計画も万全だった。

 死んだ兄の遺児など捨て置けばよかったのに……余計な欲を出しやがって。


 使えない女だ」


 ソーダーンの顔は良く見えないが背中は怒っているように感じた。

 ドクマの方も苦々しい顔をしてビスソラダのことを吐き捨てるように口にした。


「お嬢様……あの会話」


 ハッとした顔でクインがアリアの方を見た。


「ええ、ビスソラダとハッキリ口にいたしましたわね」


 限りなく黒に近いグレーが黒になった。

 少なくとも使用人がドクマであることは間違いなさそうなので拘束して話を聞き出せばソーダーンの方も芋づる式に証拠が出る。


「そこで何をしている!」


 飛び出していこうとしたアリアたちの後ろから男性の声が聞こえてきた。

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