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潜入、そして調査4

 アリアとお近づきになりたい子息たちが性懲りも無く話しかけてきたりもしたがアリアは上手くそうした相手をいなす。

 ここらへんの対応力は人生2回目で助かったと思う。


「ちょっとあなた!」


 また来た。

 アリアは小さくため息をつく。


 少し気分を落ち着ける間を置いて、かけられた声に応じて笑顔で振り返る。


「……今度はなんだ」


 ヘカトケイは盛大にため息をつく。

 本当ならさっさと会場を抜け出してソーダーンがケルフィリア教である証拠でも探しに行きたいのだけどアリアが思いの外声をかけられる。


 ヘカトケイだけが行ってもいいのだけど万が一見つかった時の言い訳要員や部屋の中での探し物についてはアリアの方がヘカトケイよりもめざといことがあるので必要だ。


「なんですの?」


「あなたさっきの態度なんなんですか!」


 そこにいたのは数人のご令嬢。

 アリアの前に立つ子はなぜか怒りの表情を浮かべていて、周りの子はやや困惑したような顔に見えた。


「なんのことでしょう?」


 謝って済む話なら謝って終わらせるのだけどアリアにも何の話か分からない。

 怒りの理由がなんなのか分からないのに話の収めようもないのだ。


「だからさっきの態度よ!」


「だからさっきの態度とはなんのことでしょうか?

 教えていただけますか?」


 いいから用件を言ってくれれば話も早いのにとヒクつきかける表情筋を無理やり押さえて笑顔を保つ。

 ただこれ以上要領を得ない会話を繰り広げるつもりなら笑顔がなくなるのも近い。


「かかか、彼に対する態度です!」


「彼?」


 なぜか耳を赤くしている少女の視線を辿る。

 すると先ほどしつこく話しかけてきた少年がいた。


 最初は丁寧に対応していたのだけどしつこくて最後には冷たくキッパリとお断りした。

 落ち込んで引き下がっていったがどうやらこの少女はその少年のことが好きらしい。


 なら逆に良いじゃないかとアリアは思う。

 アリアが変に気を持たせたような態度を取るよりキッパリと断って夢砕けた方が少女のためになる。


 しかし複雑な乙女心はそう考えなかった。

 好きな男が傷つけられたと怒っているのだ。


「あのような失礼な態度はないんじゃないですか!」


 これは難しい問題だ。

 じゃあどうしろと聞いたところでこの少女に適当な答えもない。


 勢いに任せてアリアに声をかけてきただけなのだから。


「それは失礼いたしましたわ」


 もうこうなったら少女に謝るしかない。

 先程の態度はごめんなさいと少年に謝るのはどう考えてもおかしいしそれこそ気があるように見えてしまう。


「その態度も気にいりません!」


 やはりそうなるかというリアクション。

 あっさりと謝られて少女はまた怒り出す。


 まだまだ子供。

 大人しくこれで終わりにしておくのが優雅なやり方というものだけれど引き際を分かっていない。


 アリアがどう行動したところで納得などしないのに自分で抑えられない腹立たしさを押し付けられても困る。

 しかしここでケツの青い小娘に感情をぶつけられたからとアリアも感情的になっては同じレベルになってしまう。


 少しばかりいじわるしてやる。


「気に入らなければ、なんだというのですか?」


 どこまでも冷たい目をしてアリアが少女と距離を詰める。

 けれどその動作は優雅で淑やかなものである。


 手を伸ばせば簡単に届いてしまう距離にアリアが近づいて少女は困惑の顔色を見せる。

 気に入らない。


 だけど気に入らないからと言って手を出すほど愚かでもない。

 手なんか出してくれたら目立ってしまうが話は早いのにとは思う。


「私のことを叩きますか?

 それとも皆さんでチクチクと悪口でもお言いになりますか?」


「そ、そんなこと……」


 全く手を出すつもりはない。

 どうするのだと聞かれると少女の勢いは瞬く間に萎んでいく。


「それにあなたが気にしている彼も見ていますわよ?」


 アリアも反撃に出る。

 アリアは少年の視線なんて気にしないが少女はそうはいかない。


「今彼があなたを見たらどう思いますか?」


 やや声をひそめるようにアリアは言葉を続ける。


「ど、どうって……」


「知り合いもいない私を大勢の人を連れてイジめているようには見えません?」


「えっ……そ、そんなつもりじゃ」


「あなたがどのようなつもりなのか周りの人には関係ありませんわ。

 もしここで私が泣き始めたら彼も、大人たちもどう思うかお分かりになられるでしょう?」


 少女の顔が青くなる。

 ようやく客観的に見た時の自分の姿を自覚した。


 騒がしい会場にあってはそれほどアリアたちに意識を向けている人は多くないけれどきっかけがあればあっという間に少女に不利にも出来るのだ。

 特にアリアを気にしていた少年はチラチラと様子をうかがっている。


 どうしたら良いのかも分からなくて少女の目が泳ぐ。

 ただこんなところで泣き出して周りの注目を浴びることはアリアも望まない。


「こちらにいらして」


 アリアは少女により近づくように招き寄せる。


「少し手を広げて……そう」


 もう従うしかない。

 少女はアリアの言うがままに手を広げた。


「えっ……」


 アリアは少女にさらに近づいてそっと手を回して抱擁を交わした。

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