尻尾を見せぬなら引っ張り出してやればいい3
「ご当主が亡くなられて新しく当主が変わるときは喪に服すのが先ですが就任式なり引き継ぎ発表の宴をやらないではありません。
多くの場合大体死後一年を待ってからこうした催しを行うのが通常になりますわ」
「つまりもうすぐソーダーンは就任式を執り行い、そこに招待されるだろうということかい?」
「その通りですわ」
回帰前にソーダーンがどうしたのかはアリアも知らない。
けれどエルダン家における重要家臣の家門であるホード家ならば仕えるゴラックに対してホード家の当主が代わったことを伝える必要がある。
手紙なりで伝えているだろうが直接伝える場というのも設けるはずなのだ。
リスクはある。
けれど中に入り込んで証拠を探す良い機会でもある。
「悪くない策だ。
本当に呼ばれることがあるならアリアの言う通りに入り込んでケルフィリア教である証拠を探そう」
ヘカトケイは笑う。
面白い考えだ。
大胆で危険。
確実ではないけれどそれが起こる可能性は高くてアリアの口から聞かされるとまるで本当に起こることかのように聞こえる。
仮にソーダーンからの招待状が届いてソーダーンがケルフィリア教である証拠を掴んだとしてもそれで終わりではない。
ホード家は重要な家臣であり、ソーダーンを拘束してもその先のことを考えなければならない。
具体的にはソーダーンには3人の子供がいる。
2人の息子と1人の娘で、ソーダーンがケルフィリア教徒であるということは息子たちもそうであると疑わなければならない。
ソーダーンを排除してケルフィリア教の子供が跡を継いでしまったら結局ケルフィリア教を排除しきれていないことになる。
息子と娘についても調査せねばならない。
3人ともケルフィリア教ならばホード家は取り潰しになる。
もしケルフィリア教ではない子供がいるならその子に継がせるべきである。
ただケルフィリア教であったなら非情な選択もしなきゃいけないかもしれない。
「多くの場合1番上の子は大体手遅れだ」
ヘカトケイはため息をつく。
子供というのは洗脳が簡単。
小さい頃からケルフィリアについて教え込んでおけば疑う余地もなくケルフィリア教となる。
そのためにケルフィリア教徒の子供はケルフィリア教徒であることは非常に多い。
そのために望まなくとも一家丸ごと根絶やしなどと冷酷な判断を迫られたこともあった。
それで隙を見せれば襲いかかってくるのでヘカトケイ自身が刃を鈍らせたことはないが心を痛める人もいる。
統計を取ったわけではないが最初に生まれた子供にケルフィリア教としての教育をしている場合がほとんどだったとヘカトケイは経験から言った。
ディージャンとユーラでは家長ではないビスソラダがケルフィリア教だったこともあって少し特殊なケースであった。
「どうであれ証拠は掴んでみせますわ。
子供がケルフィリア教ならばその時は……」
アリアの目には決意が宿っている。
回帰してからも変わらぬ思いがアリアの胸に紅く燃え続けている。
ケルフィリア教は許せない。
「ふふ、良い目をしている。
大丈夫……いざとなったら直接とっ捕まえればいい」
「何も牙城はソーダーンだけではありませんしね」
「確かにソーダーンに接触したケルフィリア教も匿われてから行方が分からないからね」
なんならソーダーンに接触したケルフィリア教徒はまだ匿われている。
そちらを探してもいい。
ソーダーンに接触したケルフィリア教徒の方を捕まえて吐かせるなりすればソーダーンに繋がる可能性もある。
「ともあれ、本当にそうした催しがあるかどうか、だね」
メリンダは小さくため息をついた。
是非ともその催しがあってほしいと思った。
じゃなきゃこの師弟が無理矢理にでもソーダーンを捕まえに行ってしまいそうだったから。
だがメリンダの心配は杞憂に終わる。
アリアの言う通りに後日ソーダーンの誕生日会を兼ねてホード家当主就任のお披露目会が開かれることになり、そこにゴラックとアリア、メリンダが招待されたのであった。