尻尾を見せぬなら引っ張り出してやればいい2
有言実行、あるいは不言実行。
言おうが言わまいがやってのける圧倒的な実力。
回帰前にはそんな力を欲したことはなかったが今はヘカトケイのようになりたいと思う。
「しかし慎重な男だねぇ。
これ以上何かを掴むのは難しいかもしれない」
メリンダが悩ましげに頭を振った。
ようやく掴んだソーダーンの尻尾であるがソーダーン自らが失敗をしたものではない。
外から探ってもソーダーンがケルフィリア教だと確定できる証拠を掴めるか怪しいところである。
監視の目を強めておけば目的を達成することは防げるかもしれない。
けれども相手はケルフィリア教。
いつも計画には抜かりがなく用意も周到。
ちょっとやそっとじゃ止められるものじゃなく、失敗してもバックアップがあったり失敗を活かして別の手を打ってきたりする。
後手に回ると少なからず損害が発生してしまう。
事前に止められるのが最善の策になる。
「中に人もいないからね……」
ソーダーンは全く聖印騎士団に目をつけられていなかった。
貴族の傍系なので調べられたこともあるのに一切疑わしき所のなかったソーダーンはノーマークで近いところに聖印騎士団の団員もいなかった。
内部から調べることも困難なのである。
「なら直接会ってみればいいのですわ」
「なんだって?」
非常に手強い相手。
けれどアリアにも何の策もないのではなかった。
アリアがスッと手を上げるとクインはマッサージを止める。
「何かあるのかい?」
以前にも同じようなことがあったとメリンダは思う。
カンバーレンドでの暗殺計画阻止の時もアリアはこんな風に妖しく笑っていた。
考えがある。
アリアの顔を見て直感的にメリンダはそう思った。
「んー……」
アリアは体をグッと伸ばした。
クインのおかげで軽くなったようにすら感じる。
マッサージだけでも生計を立てられそうな腕前である。
ベッドから降りたアリアはソーダーンについてまとめられた資料をめくり始める。
怪しいところが見つからなさすぎて単純な人物調査のようになっている資料のとあるページで手を止めた。
「家族構成?」
それはソーダーン、あるいはホード家の家系や家族構成を調べたものだった。
一応筆頭貴族ではあるが大貴族とはいかないホード家では基本的には一夫一妻で愛人、側室を持っていた人は少ない。
けれどどうやら代々子供を成しにくいらしく、子は1人だったり男子がいなかったりする。
ソーダーンの父でありアリアの大叔父でもあるワナスは当時のホード家の一人娘に婿入りする形でホード家を存続させた。
ソーダーンも妻とは若い時に出会って結婚しているのだが子供が1人しかいない。
「……これのどこに会える要素があるんだい?」
他の家でもありがちな事情が書かれているだけ。
会いに行けるような要素が読み取れなくてメリンダは首を傾げた。
「大叔父様はすでに亡くなっています」
アリアは家系図のワナスを指差した。
大叔父であるワナスはすでに亡くなっていて、今はソーダーンが跡を継いでいる。
「そうだね。
だからどうしたというんだい?」
まさか死者を偲んで会いに行くとでもいうのか。
深い関係にあった知り合いならともかく家を出ていたメリンダや新参者のアリアではその理由を付けるには関係が浅い。
到底ソーダーンに会いに行くには不自然である。
もし仮に強行しようものならアリアたちの意図を疑われてバレてしまうかもしれない。
そうなったらソーダーンがどのような手に出てくるのか予想もつかない。
「ソーダーンはホード家の当主です。
それは大叔父様が亡くなったから跡を引き継いだのです」
「そりゃあ……当然だろうね」
「当然でないことも多くありますわ」
家を継ぐという時に人が思い浮かべるのは現当主が亡くなってその子供が跡を継ぐということであるが現実問題はそうでないことの方が多い。
生きている間に引き継ぎの準備を整えて自分で引退と後継者の発表をすることも少なくないのだ。
そうすることで引き継ぎはスムーズに行われ、前当主は新しく当主になった者を補佐して導くこともできる。
家臣も受け入れる期間を得られるし出来るなら生きている間に引退して跡を継がせるのが良い。
けれどそう出来ないこともある。
突発的な事故、急病、モンスターの襲撃など後継者への引き継ぎがなされないまま当主が亡くなってしまうこともある。
まさしくソーダーンがそうだった。
ワナスは急病に倒れ、引き継ぎを行うこともできないままに亡くなった。
「そうだとしても私たちに何の関係が?」
「ワナスが亡くなったのはおよそ1年前です」
「1年前……」
「おそらくソーダーンは私たちを家に招くでしょう」
「ふむ、もっと分かりやすく教えてくれ」
メリンダはなんとなく話を察してきたようだけどヘカトケイは訳がわからないと言った顔をしていた。
クインも表情は変わらないがアリアが目を向けると視線があった。
話の先が気になっているようである。
「生きている時に引き継ぎを行うならお披露目会が開かれます。
それは誰が新しい当主なのか対外的にアピールするためです」
多くの場合こっそりと引き継ぎなんて行わずしっかり宴を設けて客前で引き継ぎを宣言する。