敵は身内にあり4
「どこでこれを?」
「ビスソラダの部屋で見つけましたわ」
「なんでそんなところに?
それにビスソラダの私物はケルフィリア教との関わりを探すためにひっくり返してまでされたされたはず。
どうやって見つけたんだい?」
「う、そこそこ……探すと言ってもやったのは騎士の皆様……どのお方も殿方です。
女性には女性の隠し場所というものがあります。
ですが今回は偶然です」
「偶然?」
「つい先日、第三王子をお迎えいたしましたでしょう?
その時にドレスが欲しいと思いました。
ですがわざわざ新しくドレスを用意する時間もないので主のいないドレスを手直しして使えばよいのではないのかと思ったのです」
主のいないドレスとはビスソラダのドレスのことである。
家にいる女性はアリアぐらいであるけれどアリアには派手であるし大人用のドレスは着られない。
新しいドレスだってタダじゃないし、ビスソラダの持っているドレスもセンスは置いといて物は良いものを使っている。
回帰前のアリアは服をボロボロになるまで着回していたこともある。
もったいないのでドレスを手直しして新しい装いに変えた経験もある。
ビスソラダに罪はあってもドレスに罪はない。
リストを見つける経緯のためのウソなだけじゃなく本当に手直ししてドレスを使うつもりもあった。
「そこでおじ様にお願いしていくつかドレスをいただいたのですがあるドレスの内側にそれがあったのです」
「なるほどね……」
ドレスを取り除いてクローゼットの中を見ても、服の内側まで1着1着確認はしない。
ちょっとした物や多少の書類なら隠しておいても誰も気がつかない。
アリアの説明にメリンダもヘカトケイも納得する。
流れとしてもおかしくないし偶然見つけられそうな隠し場所でもある。
大切なのはどこでどうやって見つけたかよりも中身である。
監視対象者リストが何を監視しているのか不明である。
仲間に引き込むのか、敵として監視していたのか。
その両方かもしれない。
そのリストを見て色々思うところはあるけれど監視対象ではなく監視する側にソーダーンの名前があることが重要だとアリアは言う。
「他の監視者は現在もう捕まったか逃げてしまった人たちですがソーダーンはまだのうのうと残っています。
ようやく安定してきた中でまたケルフィリア教にかき乱されるのはいただけませんわ。
後顧の憂いは全て切り捨てておくべきだと思いますの。
あっ、そこですわ!」
「……アリアの言うことにも一理あるね。
けれどソーダーン……傍系にいるのは知っているけどケルフィリア教として名前が上がってきたことはないから知らなかったね」
「だとしたらよっぽど上手く尻尾を隠しているね。
聖印騎士団の身内は特に調べられる。
傍系だろうと調査しているはずなのにそれでも、ということはソーダーンはやり手かもしれない」
実際権力と金を手にしなきゃそのまま死ぬまでケルフィリア教であることを隠しおおせた人かもしれない。
これまでもバレて来なかったのなら相当出来る人か、それとも何もできないような臆病者なことだってあり得る。
もしくは重要幹部で守られている可能性も考えられた。
「聖印騎士団でも調査するようにしよう。
何か分かるかもしれないからね」
ともあれ書類一枚ではソーダーンを追求するには足りない。
エルダンの忠臣であるためにここは慎重にならざるを得ない。
アリアとしても今すぐソーダーンをどうにかできるとは思っていない。
けれど聖印騎士団の疑いの目を向けられればそれで十分である。
どこかで機会でもあればいい。
聖印騎士団が上手くやってくれてケルフィリア教としての尻尾を掴んでくれればそれでももちろん構わないのである。
「しかし奇妙な巡り合わせだよね」
「何がですか、師匠?」
「弟子であったリャーダの娘を……こうしてまた私が弟子にするなんてね」
「…………お母様はどんな人でしたか?」
感慨深そうにヘカトケイが目を閉じた。
何かを思い出しているような態度にアリアはふと気になった疑問をぶつけた。
「リャーダはアリアに似ているよ」
アリアを見たヘカトケイの目には珍しく寂しげな色が浮かんでいた。
「全く違うんだけどね。
でも真っ直ぐに努力する目は同じ強い光をたたえている」
アリアの容姿は父親に近い。
貴族的な特徴を強く引き継いでいる。
けれどパーツでよく見るとリャーダの面影もある。
でもそうしたところが似ているのではないとヘカトケイは思った。
目を見ているとどことなくリャーダを思い出す。
諦めぬ強い意志が宿っているアリアの目がリャーダの姿とかぶって見える時があるのであった。
「リャーダも赤いオーラだったしね」
オーラユーザーの子供がオーラを発現するとは言い切れないのだけどオーラユーザーの子供がオーラを発現しやすいとは噂されている。
ただオーラの色まで同じと言うことは珍しい。
アリアの方がいささか鮮やかな色をしているが似たような赤いオーラをリャーダも持っていた。
「……ただアリアの方が余裕がある感じはするね」
リャーダにはどこか張り詰めた感じがあった。
ひとり立ちした後のリャーダは知らないけれど弟子として励んでいた時のリャーダには余裕がない雰囲気があって、そこに関してアリアは余裕を感じさせる。
アリアだって焦らないわけじゃない。
でもいつも考えている。
どうしようもなくなったらみんな倒して進む。
それだけなのだ。
「……もう少し下をお願いしますわ」
「はい」
アリアはリャーダの顔を思い出していた。
優しく笑う母の姿。
その姿に似ているというのなら嬉しいなと思っていた。