敵は身内にあり2
アリアはヘカトケイから受け取った水を一気に飲む。
「冷たい……」
飲んだ水はヒンヤリとしていてほてった体に染みていく。
そこらに置いてあった水なのにと飲んだ後に気がついた。
「これは魔法ですか?」
「よく気づいたね」
誰かがアリアに気づかれないように汲みたてでも置いていったのでもない限りはぬるくなっている水が冷たい。
アリアがオーラを使えることはまだ公には秘密にしていることなのでヘカトケイとの鍛錬は別邸の方で行い、誰も近づかないように言い付けられている。
暗殺のプロでもないならアリアの目を盗んで水を置いて行ってはいない。
ならば水が冷たい理由はヘカトケイである。
この人生で出会って最初にヘカトケイは魔法も使った。
魔力で氷を生み出してアリアを攻撃してきた。
つまり水を冷やすこともできるだろうと予想した。
「魔法使いはオーラユーザーにはなれないけどオーラユーザーは魔法使いになれるのさ」
汗だくのアリアに比べて汗ひとつかいていないヘカトケイは手のひらの上に氷の塊を作り出した。
「オーラユーザーが魔法に手を出すなんてとオーラユーザーは言い、魔法はオーラユーザーのためのものでないと魔法使いは批判する。
だからオーラユーザーは魔法を使うことがない。
でも使えるんだ。
魔法使いよりも正確に、楽に、強力に。
使えるものはなんでも使うのがアタシのやり方さ」
オーラも魔法も人が持つ魔力が元になっている。
ならばその違いはなんなのか。
自力で体から魔力を放出出来るのがオーラであり、なんらかの方法を使って魔力を引き出して魔法という形に変えて運用するのが魔法である。
人は誰しも魔力を持っている。
大小あれど人は魔力を保有しているのだけどそれを操り、外に放出するのには特別な才能がいる。
外に魔力を放出してコントロールされた魔力のことを人はオーラという。
不思議なことにオーラとして魔力を操れる人はごくわずかな限られた人だけなのだ。
しかしオーラを扱えなくても魔力は人の中にある。
そこで生み出された技術が魔法であった。
魔力を無理矢理引き出して魔法という形で変換して安定させて運用するのだ。
オーラの才能がなくても魔力を多く保有する人もいて魔法という技術は魔法使いによって日々進歩を遂げている。
魔力を操る特別な才能を与えられたオーラユーザーと魔力を操る才能を与えられなかったが自分で方法を生み出した魔法使い。
その仲はあまり良くない。
個人レベルで見れば関係性は様々であるがオーラユーザーと魔法使いは互いに反目し合っているというのが現状である。
もちろん魔法使いがオーラユーザーに魔法を教えるなんて御法度である。
しかしヘカトケイは魔法も身につけていた。
経緯は知らないけれどオーラユーザーが魔法を使えるなら使って何が悪いという考えの持ち主だった。
「私も使えますか?」
「……アリアにそのつもりがあるなら教えてあげるよ」
改めて思うのは回帰前ももっとオーラの扱い方を習っておけばよかったことである。
1人でも出来たことは意外とあったので回帰前に知っていれば今もっとオーラを操れていたのにと少しだけ反省した。
回帰前はオーラなんてあっても使わないし周りにバレたくないと思っていたのでしょうがない。
過去は変えられないし今を努力するしかないので回帰前自分に文句だけ言っておく。
それにしてもヘカトケイとの出会いはアリアにとって幸運だった。
回帰の前にしても後にしてもだ。
けれど回帰前にヘカトケイに会ったのは偶然であり、偶然でないかもしれないとアリアは考えていた。
ヘカトケイはアリアに会おうとはしていなかったけれど会うような要素があった。
アリアは回帰前ケルフィリア教にいいように利用されていた。
監視をされていたりケルフィリア教からの接触があったはずなのだ。
ヘカトケイはケルフィリア教を潰して回っていた。
そう考えるとケルフィリア教に狙われていたアリアとヘカトケイが出会ったのは偶然なのだけどケルフィリア教を中心として出会うような巡り合わせにはあったのだ。
一時期アリアが穏やかに過ごせていたのもヘカトケイがケルフィリア教を潰したり、側にいたりしたからかもしれない。
「そろそろ休憩は終わりにいたしましょう」
「自分から休憩を終わりにするなんてね」
「魔法も習ってみたいのですからもう少し頑張ってみようとおもいまして」
ヘカトケイには感謝している。
「その意気だ」
ヘカトケイから紫色のオーラが溢れ出す。
アリアも紅いオーラを体に纏って対抗する。
「行きます!」
是非ともケルフィリア教の教主の首をとって、ヘカトケイに感謝の気持ちを伝えたいものであるとアリアはヘカトケイにかかっていった。
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「ああ、そこですわ!」
「だいぶお疲れですね」
「ああ!
もっとお願いします!」
「人の部屋で変な声出すんじゃないよ、全く……」
アリアはメリンダの部屋のベッドの上で寝転がっていた。
その上にクインがまたがって背中を揉んでくれていた。
日々の鍛錬が激化して中々体が休まる暇もない。
オーラが強くなって疲労が次の日まで残っているようなことは少ないけれどそれでもどうしても体に疲れは蓄積してしまう。