オークのキ○タマ5
「ご褒美は……あなたの弟を医者に見せてあげますわ」
許すと言われてほころんだシェカルテの顔が凍りついた。
バレれば罪に問われる。
その上貴族の家の使用人ともなればそんなに給料も悪くないはずなのにシェカルテはアリアに渡されるはずのお金を横領し、宝飾品を盗んでいた。
シェカルテはこれまで一切そんな窃盗を疑われることはなかった。
なぜならシェカルテの生活そのものは地味な方で倹約家であるとすら思っている人もいる。
じゃあシェカルテは何にお金を使い、どうしてそんなお金が必要なのか。
「町医者じゃただ薬を出すだけしか出来ないかもしれないけれどうちで抱えている医者ならあなたの弟も治せるかもしれないですわ」
全くもって笑顔になったり凍りついて青くなったりと忙しい顔をしている。
「だ、誰にも言ったことはないのに……」
「誰にも言ったことがないのと誰も知らないことは決してイコールになりませんわ」
「お嬢様は……一体」
「キ○タマ、一生の揺るがぬ忠誠という覚悟には私のことを疑わず、話さないことを聞き出そうとしないことも含まれますわ。
それにあなたの弟を医者に見せることはあなたにとって悪いことは何もないではなくて?」
「キ……」
回帰前にシェカルテの所業は他にバレてシェカルテはクビになる。
舞踏会に出るのに良い宝飾品がなくて叔母のものを借りることになった。
その管理はアリアの面倒を見ているメイドだったシェカルテがやっていたのだがその宝飾品を盗んでしまったのだ。
一瞬アリアが無くしたことにされそうになったのだけどシェカルテの調査が行われて結局シェカルテのやったことだと判明した。
大声でメイドが話すものだからアリアもその話を知っていた。
なんでもシェカルテがお金を必要とした理由にはシェカルテがひた隠しにしていた弟の存在があった。
幼い頃から体が弱く病気がちだったシェカルテの弟は医者に見せても病気の原因がハッキリしなかった。
ただ症状を少し抑える薬をだけを出されてシェカルテの弟は日に日に弱っていった。
薬もタダではない。
結構な値段のするものでシェカルテだけの収入ではとても足りなかったのである。
回帰前に叔母の宝飾品を盗んだ時はシェカルテの弟が危険な時であったらしかった。
ただ弟は助からずシェカルテは全ての罪を告白した。
事情が事情で罪についても告白はしたので首になって追い出されるだけで済まされた。
「医者が治せるとは限りませんが見せてみるだけ見せてみましょう」
「もし……もしカインを助けてくれるなら…………この命も捧げます」
「それは医者次第ですわ」
隠していた弟のことまで全て見抜かれてシェカルテは悟った。
これまで無能で怯えたように過ごしていた姿は全部かりそめの姿だったのだ。
オーラを隠し、知性を隠し、可愛らしい顔で裏の顔を隠してアリアはその爪を研いでいた。
なぜこのタイミングなのかは分からない。
でもアリアは隠されていた爪を見せてきた。
もしかしたらこれは機会。
薬代を稼ぐためだけの抜け出せない泥沼のような日々から抜け出せる機会に巡り会えた。
シェカルテはアリアへの畏怖を抱いた。
それと同時に不思議な希望もまたアリアに見出していたのであった。