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襲来、ヘカトケイ1

 ノラも帰り、後日正式に王室からお礼状が届いた。

 それ自体には何の効果もなく、単なる名誉みたいなものである。


 しかし貴族の厳しい目の中ではエルダン家が第三王子と急接近しているようにも見えるだろう。

 ゴラックは微妙な舵取りを迫られるがアリアとしてはこれで良かったのかもしれないと思った。


 どの道第二王子の勢力に取り込まれるつもりはない。

 そうなると第一王子か第三王子であるが第一王子は病弱で王位継承争いでは劣るのである。


 人柄や能力的には第一王子が適していたのだけど王位を継げるかどうかがかなり怪しいほどに体が弱かった。

 だから王位継承権についての争いがあったのだしケルフィリア教にも目をつけられた。


 ケルフィリア教の助けもあってか回帰前には結局第二王子の勢力が大きかった。

 アリアの最後の足掻きによってケルフィリア教との関わりを疑われて頓挫したみたいであるがそれがなければそのまま王座は第二王子のものだっただろう。


 今回推すとしたら間違いなく第二王子ではなく第三王子だ。

 第一王子の体調が良くなるなら第一王子だけど回帰前ではアリアが大人になる頃には完全に空気と化して表舞台から姿を消していた。


「……少し寂しくなってきましたわね」


 アリアは中庭を散歩していた。

 今日はオフンによる訓練が休みでファノーラの授業がある予定だったのだけどファノーラが用事のためにフリーとなった。


 季節も進み派手に大きく咲いていた花がいくつか落ちて中庭の派手さも少し落ち着いてきた。

 手を加え始めるならそろそろだなと物思いにもふけっていた。


「どうなされるおつもりですか〜?」


 アリアに付き添うスーシャウが中庭を見回す。

 見ている分には嫌いじゃないが手入れが大変。


 アリアが手を加えるというならスーシャウはもっと楽な中庭がいいなと思った。


「もっと小さくて、お手入れの少ない花がいいわね」


 こうした庭園はある種家の主人の度量だったりセンスだったりを表す場ともなる。

 ただ好き勝手に花を植えればいいというものでもない。


 大きくて綺麗な花もいいけれど見栄えを良くするために他の蕾を剪定するようなことも必要でアリアはそうしたところを好ましく思っていなかった。

 小さい花でも剪定などは必要であるが大きな花ほど手間もかからないものも多い。


 体面だけのために花を植えるのではなく日々の小さい癒しになれるような中庭にしたい。

 あとはついでに薬草になるものとかいくつか植えておきたいなと密かに考えていた。


「この庭はアタシの趣味じゃないね」


「……えっ、ど、どなたですか!」


 ややハスキーな声が聞こえてきてアリアとスーシャウは声の方に振り返った。

 さっきまでそこにいなかったはずなのに人がいた。


 かなり使い込んだようなケープに身を包んだ女性はゆっくりと中庭の花からアリアへと視線を移した。

 記憶よりだいぶ若く見えるとアリアは驚いた。


 しかしその顔には面影がある。


「この庭からは尊大な心、歪んだ欲望が見えるね」


「あながち間違ってはおられないと思いますわ」


「お嬢様!


 いけません、不審者です!」


 スーシャウがアリアを守るように前に出る。

 戦闘の心得はないがスーシャウもアリアの侍従でいざとなればアリアを逃すために抵抗する心構えはあった。


 気の抜けたような雰囲気はあるけど主人を盾にするような腐った性格はしていなかった。

 女性はアリアを守ろうと立ちはだかるスーシャウを見る。


 何を考えているのか分からない目をしていて、スーシャウは唾を飲み込んだ。


「ふふ、いい子を従えているじゃないか」


 口の端を上げてニヤリと笑う女性はヘカトケイだった。

 アリアの記憶ではヘカトケイは老婆だった。


 白髪でシワの多い顔をしていたはずなのだけど今は暗いブロンドの髪にシワの少ない中年半ばほどの年齢に見えた。

 大人になったアリアと出会った時でも今からの時間を考えると老婆になるには短すぎる。


 この間に一体何がヘカトケイにあったのだろうかとアリアは考えた。


「そして……あんまり驚いていないようだね?」


「いいえ、とても驚いていますわ」


 驚かないはずがない。

 容姿についてももちろん、突然現れて驚かないはずがない。


 ただヘカトケイならあり得る話だとも思う。


「あなた、メリンダを呼んできなさい」


「……お嬢様のお側を離れるわけにはまいりません」


 スーシャウは未だヘカトケイに警戒心をあらわにしている。

 メリンダの名前が出たので客人かと思ったがそんな話も聞いていないので警戒は解かない。


「……スーシャウ、大丈夫だから」


 何か話があるのだろう。

 アリアはそっとスーシャウの腕に触れて大丈夫だと微笑みかける。


「これは早くオバ様を呼んできた方が解決するかもしれません」


「…………分かりました」


 迷ったがヘカトケイから敵意は感じない。

 アリアの側を離れることに不安はあるけれどこのまま睨み合いを続けていてもしょうがない。


 スーシャウは走って屋敷に向かう。

 急げばメリンダを呼ぶのにもそんなに時間はかからない。


「いい気性の持ち主だ。


 穏やかだけど、意外と忠誠心はある」


 走りゆくスーシャウの背中からアリアに視線を戻したヘカトケイは腰に差している剣に手をかけて抜いた。

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