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第9話 ポルターガイスト

 郊外にある小さな図書館。司書で黒魔術師の少女クロネは、今日も受付で本を読んでいた。


「ちょっとクロネさん! また仕事中に本読んでるんですか!? 駄目だっていつも言ってるでしょ!」


 クロネの同僚の少女リッツが、勤務中に本を読んでいるクロネを注意しにやってきた。いつも通りの光景に、クロネは本を読みながら溜め息をついている。


「リッツ……。こっちこそいつも言ってるでしょ……。図書館では静かにしなさいって……」


「まったく……! あなたが真面目に仕事してないと、利用者の方から私が注意されるんですから……! 少しは真面目にやってくださいよ……!」


 クロネはお決まりのカウンターでリッツを追い払う。態度を改めないクロネに呆れ、リッツはいつもここで引き下がるのだ。クロネはそれを学習しているのだった。


「よくもまぁ、言っても無駄なことを毎回律儀に言いに来るものね。逆に感心するわ……」


『ねぇ、リッツちゃんが可哀想じゃない……? クロネちゃん、少しは言うこと聞いてあげようよぉ!』


「うるさいのが1人増えやがったわね……」


 同じ身体に同居しているため、テルのことは追い払うことが出来ない。クロネは舌打ちをしつつ、早くテルを追い出すため、あらゆる分野の本からその方法を模索する。


「通常、肉体を失い魂だけになった存在に干渉することは不可能だが、一時的に魂を実体化させれば、死後の世界の住人と触れ合うことが可能となるだろう……」


「ふぅん……。これもなかなか使えるかもしれないわね……」


 クロネは、テルを追い出すのに使えそうな書物を見つけると、手帳にその内容をメモしていく。テルが自身の中にいることは不本意だが、テルを追い出す研究をすること自体は、内心とても楽しんでいた。


 クロネが代わる代わる書物を読み漁り、研究に没頭していた時だった。


「キャーッ!!」


「な、何、今の叫び声……?」


 突如、少女の悲鳴が図書館に響き渡った。その声は、どうやらリッツのもののようだ。クロネは急いで声の聞こえた方へ向かった。リッツは震えながら床にしゃがみ込んでいた。


「リッツ……! 何があったの……?」


「い、今……ほ、本が宙を飛んでいて……」


「本が……? あぁ……。それならきっと妖精の仕業じゃない……? この前、妖精が図書館に来ていて、あたしも同じような光景を見たから」


「よ、妖精の姿なんて見えませんでした……! それに、実は最近変なんですよ……。クロネさんはずっと受付にいるから気付いてないかもしれないですけど、図書館のあちこちで勝手に物が落ちたり、誰もいないところで人の気配を感じたり……」


「はぁ……。そんなの勘違いに決まってるでしょ……。あんた、真面目に働きすぎなんじゃないの……? 少しはあたしを見習って休憩でもしたらどう?」


「うぅ……。そ、そうですね……。そうします……」


 リッツはフラつきながら、図書館の奥にある事務室へと歩いていった。普段見せないリッツの弱々しい姿に、クロネは少し呆然としていた。


「あの子があんな姿を見せるなんて、珍しいこともあるものね……」


『リッツちゃんとは長い付き合いなの?』


「別に。そこまでじゃないけど。あたしはリッツから妹か何かだと思われてるようで、図書館で働き始めてからずっとお節介や説教されているのよ。ほんといい迷惑だわ……」


『リッツちゃんの気持ち分かるなぁ……。私もクロネちゃんのことほっとけないもん!』


「あんたは誰に対してもそうでしょうが……。まったく、どうしてあたしの周りはこんな奴ばっかりなのかしら……」


 その時。図書館の入り口のドアが突然『バタンッ』と閉まった。


「ん……?」


 大きな物音にすぐにクロネは振り返るが、人の姿は見えなかった。だが、続け様に怪異は起こる。


「窓が割れた……!?」


 豪快な音が辺りに響いた。クロネの視界にあった窓ガラスがいきなり割れたのだ。割れた瞬間は完全に目撃していた。だが、やはり人の姿はどこにも見えなかった。


「なんなのよこれ……? 何が起きているというの……?」


『あっ、クロネちゃん! あそこに人がいるよ!』


「えっ……!?」


 テルが示した方向を見るが、人の姿など全く見えない。クロネの腕はザワザワと鳥肌が立ち始める。知らず知らずの間に、不思議な世界に迷い込んでしまったようで気味が悪かった。


「変なこと言わないでよ……! 誰もいないじゃない……! あんた、変なこと言ってるとぶっ飛ばすわよ……」


『あっ! ほら、そこそこ! 目の前に女の子が立っているでしょ!?』


「えぇっ……!?」


 テルが本当に見えているとしか思えない様子で言い切った。だが、やはりクロネの視界には人の姿などない。もう、クロネは限界だった。


「あ、あんたちょっとあたしと代わりなさいよ……」


『えっ!? 急にどうしたの……?』


「いいから、早く……!」


『う、うん。分かったよ……!』


 クロネに言われるがまま、テルは身体の主導権を譲り受けた。テルと入れ替わった瞬間、確かにクロネの前には少女の姿が見えたのだ。……しかし、その少女は薄っすらと透けていた。

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