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第7話 妖精になりたい

 人間になりたい妖精シロップが、キノコを求めて飛び去っていった直後、なんの因果か妖精になりたい男勝りの女性が現れたのだった。


「アタイの名前はケイ。図書館に妖精になる方法を調べに来たんだ!」


「なんで妖精なんかになりたいのよ……」


「アタイ、冒険者としてずっと活動してきたんだけど、ランクとか報酬に縛られてる気がして、なんだか疲れちゃったんだよな……」


「それで、妖精になって、自由で平和なスローライフを送りたくなっちまったんだよ……!」


(あたしの図書館に来る奴はこんなのばっかりなの……?)


 クロネはケイの突拍子もない夢に呆れながら、受付のカウンター席へと戻った。そして、ケイは妖精になるための方法を探るため、本棚に詰まっている本の背表紙を見て回り始める。


 しばしの間、再び図書館に静寂が訪れた。クロネは人の魂を入れ替える方法が記された本をひたすら読み進める。


 それから数十分が経った頃、静寂を破ったのはクロネの中にいるテルだった。


『ねぇねぇ……クロネちゃん?』


「何よ……? 今、読書中なんだから邪魔しないでくれる……?」


『クロネちゃん。シロップちゃんは人間になりたくて、ケイさんは妖精になりたいんだよね?』


「理解し難いけど、そうみたいね。それがどうかしたの……? あんた、またなんかお節介焼こうとしてるんじゃないでしょうね……?」


『今、クロネちゃんが読んでる本、人の魂を入れ替える術って言ってたけど、もしかしたらシロップちゃんとケイさんに使えるんじゃないかな……? なんて、思ったりして……』


「……!」


 クロネはハッとした。他人のことなど興味がなく、真剣に考えていなかったが、テルの言う通り、彼女たちは人の魂を入れ替える術を試すにはうっつけての人材だったのだ。


(こいつらが妖精になろうが人間になろうがどうでもいいのだけれど、あたしの研究が捗るのは喜ばしいことだわ……。これは利用しない手はない……)


「あんた、たまには良いこと言うわね……」


『えっへへ〜……。初めてクロネちゃんに褒められた〜……!』


「調子に乗るな。ウザい」


『あうっ……!』


「そうと決まればあの妖精を連れ戻さないといけないのだけれど……。デカナルダケが生えている場所まで行くのは面倒ね……」


 ふと、クロネの声が耳に入った様子のケイが、本を読むのを中断して、クロネの元に歩み寄ってきた。


「デカナルダケを採りに行くのか? それなら気を付けた方が良いよ。アタイ、さっきデカナルダケの群生地域を通って来たんだけど、食人植物の姿を見掛けたから」


「な、なんですって……!?」


(せっかく実験するチャンスなのに……! あの妖精に死なれでもしたら台無しだわ……!)


『クロネちゃん! すぐにシロップちゃんを探しに行こう! 私の脚力なら追い付けるかも!』


「あんたの言いなりになるのは癪だけど……今は利害が一致しているし、あんたに任せるわ……」


 クロネはテルに身体の支配権を譲った。テルはクロネの身体をほぐすため、軽くストレッチを始める。


「ケイさん! あなたの望み叶えてあげられるかもしれないから、私が戻るまで図書館で待ってて!」


「い、良いけどさ……。アンタ、なんだかキャラ変わった……?」


 口調が突然変わったクロネにぽかんとするケイ。そんな彼女を尻目に、テルは精神の中のクロネの指示に従い、デカナルダケの群生地域を目指して駆け出した。


『そこの林を突っ切った先、確かその辺りにデカナルダケが生えていたハズよ』


「クロネちゃん、ありがとう! シロップちゃん、どうか無事でいて……!」


 テルの走る速度は凄まじく、数十分間は掛かる道のりをあっという間に駆け抜けた。


 林を抜け、さらに深い森の中に入ったテル。そこには、ド派手な色をしたキノコが大量に生えていた。テルはシロップの姿を探して、辺りを見回し始める。


「シロップちゃーん! どこー!? ここは危険なんだよ! 一緒に帰ろー!」


 大声でシロップに呼び掛けるテル。だが、彼女が姿を見せる気配はない。テルもクロネも、不気味に静まり返る森の中で、緊張感に包まれていた。


『もう食人植物に食べられちゃったのかしら……』


「縁起でもないこと言わないでよ! シロップちゃんは絶対に助けるんだから……!」


「クロ……さー……。」


 その時、微かに少女の声が聞こえた。何か声を通さない物に覆われているような、そんな様子の聞き取りにくい声だった。


「シロップちゃん……!? どこにいるの!? 姿を見せて!」


「……ロネさーん! 助け……くださ……!」


「シロップちゃん……!」


 テルがシロップの声がした方向を振り返ると、そこには、テルを見下ろす巨大な植物立っていた。

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