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第3話 転生封じ

 郊外の寂れた図書館。様々な魔法関係の書物や、モンスターの図鑑などが本棚にぎっしりと詰まっている。そこで働く黒魔術師の少女クロネは、今日も不真面目な態度で図書館の受付に座っていた。


「召喚術は、術者の力量が不足していると呼び寄せることは出来ない……。術者の魔力の総量で召喚獣との契約を可能とし、己の使役獣として力を借りることが出来る……」


「クロネちゃん……。これ借りたいんだけど……」


 仕事中、読書に没頭するクロネの元に、中年の男性が魔本を持って立っていた。


「はぁ……。今忙しいのよ……。後にしなさいよ」


「忙しいって、本読んでるだけでしょ……?」


「終わったら相手してあげる。分かったら適当に時間潰してなさい」


「そ、そんなぁ〜……!」


 男性はクロネにしっしと追い払われると、背中を丸めてトボトボと踵を返し、仕方なく図書館を徘徊し始めた。


「まったく……。毎回毎回、あたしの読書の邪魔をしないで欲しいわね……」


 クロネが溜め息をつきながら、再び読書を始めた時だった。


「うッ……!?」


 突如、クロネの身体を貫くような衝撃が襲った。まるで雷に打たれたような、今まで感じたことのない凄まじい感覚だった。


「な、何これ……!? 意識が薄れ……!」


「!?……転生封じが反応してる……!!」


 昨夜、あらかじめ自らに施した転生封じの魔法。その魔法が転生を抑え込むように発動していたのだ。


「ま、まさかあたしに転生者の魂が……! くっ……! あ、あたしの身体と精神はあたしの物よ……! 誰にも、渡さない……!」


 クロネの身体が眩い光に包まれた次の瞬間、意識を朦朧とさせながら受付のテーブルに倒れ伏した。


「はぁ……はぁ……。どうやら、なんとか転生者を抑え込めたみたいね……! 事前に転生封じを施せたのはラッキーだったわ……」


「クロネちゃん……! 具合が悪そうだけど、どうしたんだい……!?」


 先程の中年の男性が、クロネの様子がおかしいことに気付き、駆け付けてきた。


「なんでもないわ……。余計な気を遣わないで向こうに行きなさい……!」


 クロネが荒い息を整えながら、男性を追い払おうとしていた時だった。


「なんでそんな酷い言い方するの!?」


(え……?)


 クロネの口から、クロネの意識とは別の言葉が飛び出していた。クロネは状況が理解出来ず、呆然と男性のことを見つめている。男性も、クロネの様子が突然変わったことに驚いている様子だった。


「私のこと心配してくれたんですよね……! せっかく親切にしてくれたのに、失礼なこと言ってごめんなさい!」


「い、いや……! クロネちゃんが無事なら良いんだけど……! 急にどうしたの……!?」


(なんなのこれ……!? あたし、こんなこと言ってない!)


 クロネの声は、無意識に発せられ続けている。制御することは全く出来ず、まるで“別人が自分の中にいる”ような感覚だった。


「えっと、ここは図書館で、私は受付なんですよね! 借りたい本がありましたら、遠慮なく言ってください!」


「えぇっ!? じゃ、じゃあこれ……」


「はいっ! 図書館をご利用いただきありがとうございます!」


「こ、こんなにちゃんとしたクロネちゃん初めて見るよ……」


 男性は普段と違う様子のクロネに首を傾げながらも、魔本の貸出の手続きを済ませると図書館を後にした。


「うぅ……。い、今のは一体……」


 クロネは、自分の意思で言葉を発せる状態に戻っていた。先程までの異様な現象を思い返すと、鳥肌が止まらなくなった。そしてクロネは、心の中に入り込んだもうひとりの自分にコンタクトを試みる。


「あんた……。別の世界から転生してきた人間なんでしょ……? あたしの身体を乗っ取ろうなんて良い度胸ね……!」


『あ! ご、ごめんなさい! これは私の意思じゃなくて、女神様が勝手に決めちゃって!』


「そんなこと知ったこっちゃないわよ……。この身体はあたし、クロネ・コーニヤだけの物なのよ……! さっさと出て行きなさいよ……!」


『そんなこと言われてもぉ! 出て行きたくたって出て行き方が分からないよぉ!』


 チッ。とクロネは舌打ちを打つと、転生の書物をかき集め始めた。そして片っ端からページをめくり続ける。


『ク、クロネちゃん、何してるの?』


「馴れ馴れしく“ちゃん”付けしてんじゃないわよ……。あんたを追い出すための方法を探してるに決まってるでしょうが」


 クロネは転生の書物をざっと確認するが、一度読んだことのある本ばかりで、当然、新たな情報など出て来ない。しかも、転生という現象を証明出来た例は存在しないのだ。


「チッ……。転生者を追い出すなんてそんな都合の良い方法、すぐ見つかる訳ないわ……。研究を進めて自分で編み出すしかない……」


『ごめんね! クロネちゃん! 私のせいでこんなことになっちゃって!』


「うるさいわね……。あたしの頭の中で勝手に喋ってんじゃないわよ……」


 クロネが頭の中に響く声に苛立っている時だった。急に人の気配を感じ、すぐにその方向へ振り返った。


「“スパーザ”!」


(雷の呪文……!?)


 呪文の詠唱が聞こえ、クロネは咄嗟にテーブルの陰に隠れた。クロネの背後にあった柱に魔法が命中し、小規模な爆発を起こした。


「今それどころじゃないってのに、どこの誰よ……!」


 クロネは、テーブルの陰から魔法の飛んできた方向を確認する。そこには、先日クロネに黒魔術で吹き飛ばされた黒いローブを羽織った男が立っていた。

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