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第16話 仕返し

 魔法学校の少女、フロルと友達になったクロネ。彼女に本を借りるように促したのには、純粋に本を読んで欲しいという理由の他に、もうひとつの思惑があった。


「本……。返却日なのに、返しに来ないわね……」


 本を借りれば、必ず返すことになる。クロネは自然と、フロルにもう一度会うための口実を作っていたのだ。……だが、図書館の閉館時間が迫っても、フロルは本を返しに現れない。


「あの子は本を好きだと言っていた……。その言葉が、あたしには嘘だとは思えない……」


 クロネは葛藤していた。つい返しそびれただけかもしれない。だが、万が一彼女の身に何かあったのなら、今すぐにでもフロルの元に向かった方が良い。そう思えてならなかった。


『行こう、クロネちゃん』


「テル……」


『私も、なんだか嫌な予感がする……』


 テルも同じ気持ちだった。1人だけなら行かなかったかもしれない。だが、2人の意見が一致した。それならば、クロネの選ぶ答えは1つしかなかった。


「分かった……。行きましょう……!」


 クロネたちは、図書館のすぐ近くに栄えている街、『リューナ』に向かった。その街には冒険者ギルドがあり、直近では、ドラゴンの件でも1度訪れていた。


 その街の中央に、古めかしい大きな建物がそびえ立っている。それが、以前クロネも通っていた『リューナ魔法学校』なのだ。


「ふぅ……」


 クロネは吐き気を催していた。もう二度と立ち寄りたくないと思っていた場所だ。そこに足を踏み入れるのは容易ではなかった。そんなクロネを心配してか、テルが声を掛けてきた。


「大丈夫……? 代わろうか……?」


 自分のことを気に掛けて、すぐに声を掛けてくれる。そんな人物が常に自分の中にいてくれる。これほど頼もしいことはなかった。


「ありがとう……。あたしなら、大丈夫……」


 クロネは意を決して、半年ぶりに学校の敷地に足を踏み入れた。事務室で許可を貰い、フロルの姿を求めて学校内の探索を始めた。


 フロルと同じクラスだったのだ。当然、彼女のいる教室の場所も知っている。迷うことなく辿り着ける道のりだが、だからこそ、クロネの足取りは重かった。


「ここがフロルのクラスよ……」


 現在の時刻は放課後。生徒の数は疎らになっている。フロルがまだ校内に留まっているかどうかは怪しかった。教室を見回すが、フロルの姿は見当たらない。


「あれ……。あなたは、クロネさん……?」


 教室に残っていた一人の女子が、クロネに声を掛けてきた。いじめに加担していた少女ではない。意を決し、クロネはその少女にフロルのことを尋ねた。


「フロルって、もう帰っちゃった……?」


「フロルさんなら、さっきベルさんたちと一緒にいたのを見たわ……」


「ベル……」


 いじめグループの筆頭的な存在、そのベルが、またフロルを連れ回している。クロネは苛立ちを隠せなかった。ベルに対しても、結局、今まで何もしてあげられなかった自分に対しても。


「さっき一緒にいたって様子だと、まだ校内に留まっているかもしれない……」


『また4人組で歩いているなら、遠くから見ても分かるんじゃないかな……。私が学校の上から見てみようか……?』


「そうね……。お願い……」


 クロネはテルと交代する。テルは助走をつけると、学校の外壁を駆け上った。軽やかに校舎の上を飛び回りながら、4人組で行動している少女たちを探す。


「あっ! たぶん、あれじゃないかな……!?」


 テルは、校舎裏で以前見た4人組とよく似たシルエットを発見した。すぐに壁を伝い校舎から降りた。そして、気配を殺しながら接近を試みる。


「うん……。間違いない……。フロルちゃんだ」


 フロルの正面には、ベルと他2人の少女の姿があった。テルはすぐにでも飛び出そうと身構えている。しかし、クロネはテルと入れ代わり、それを制止した。


「ちょっと待って、何か様子が……」


 フロルが呼び出され、因縁をつけられている。最初はそう思っていた。だが、開口一番に声を発したのはフロルだった。


「あなたたち……。そんなに楽しい……? 人のことをいじめてさ……」


「な、何よ……。別に私たちはいじめてなんか……」


「そうだよね? いじめてる側にそんな意識ないよね? ただの暇つぶしか、気晴らし。それぐらいにしか思ってないんでしょ……?」


「な、なんなのこいつ……。いつもと様子が……」


「私、もう限界なんだよ……。優しいお話を読んでも、心が癒えない……。優しさなんて、フィクションにしか存在しない……。誰が私に優しくしてくれるの……? ねぇっ!!?」


 フロルから黒いオーラが立ち込める。フロルが首からぶら下げていたペンダントが光り輝いている。それは、担任のルイーズがお守りとして渡していた物だった。


「ううううッ……!! うあああああッ!!」


「な、なになに……!? なんなのよぉ!?」


 闇に飲まれたフロル。彼女の身体は黒く染まり、黒い翼を生やした魔物の姿へと変貌していた。フロルは、自分の姿を見て怯えるベルを指差しながら、不敵な笑みを浮かべている。


「ふふふ……。殺してあげようか……?」


「ひッ……! お願い、やめ……」


 フロルが指先から魔法を放った。目を瞑るベルの前に、クロネが咄嗟に飛び出していた。


「くぅッ!!」


「ク、クロネ……!?」


 闇の魔力で作ったシールドで、フロルの魔力を受け止める。その威力に、クロネは少し押されていた。防御に集中しつつ、クロネは声を張り上げた。


「何をぼーっとしてるの!? 私の気が変わらないうちに、さっさと逃げなさい……!!」


「あ、う、うん……!」


 ベルは取り巻きの少女2人を引き連れ、慌てて駆け出した。それを確認すると、フロルは放った魔法を自ら消し去った。


「クロネさん、あなたは結局あいつらの味方なんだ……。やっぱり、私には味方なんて誰もいない……」


「どうしたのフロル……! そんな姿になって……。あたしは、本当にあなたのことを心配して……!」


「だったらなんで私のこと助けてくれなかったの?」


「あ……」


「一度あの人たちを追い払って、本を貸してもらって、それで解決する訳ないじゃない……。そんなの、あなたが一番分かってるんじゃないの……?」


 クロネは図星をつかれ、何も言葉を返すことが出来なかった。自分の心の傷も癒えていない中、フロルのことを積極的に助けようとする勇気は湧いてこなかったのだ。気休めに本を貸すくらいしか、クロネには出来なかった。

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