表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

第15話 初めての友達

 テルはフロルを連れ、図書館に戻ってきた。テルはフロルをテーブル席に座らせ、館内に風が入るようにいくつか窓を開けた。


「ふぅ……」


「どう……? 少しは落ち着いたかな……」


「うん……。クロネさん、本当にありがとう……」


 クロネにとってフロルは同級生だが、クロネは、ほとんどクラスメイトと話したことがない。彼女と何を話したら良いのか分からず、テルに任せっきりにしてしまっていた。


 テルも、その辺りのクロネの気持ちは汲んでいるようで、クロネの代わりにフロルとコミュニケーションを図ろうとしてくれていた。


「フロルちゃん、えっと! 好きな食べ物は何!?」


「た、食べ物……!?」


『あんた……。なんちゅうベタな質問してんのよ……』


「私だって何話したら良いのか分からないんだよぉ!」


「ふ、ふふふっ!」


 唐突なテルの質問に、思わず吹き出してしまうフロル。気取らない自然体のテルの接し方に、安心しているように見えた。


「イ、イチゴが好きかな……!」


「あぁ〜、良いねぇ! フロルちゃんに凄く似合うというか、プロフィール欄に書いたらもうそれだけで魅力アップというか……!」


「ふふふ……! クロネさんって、そんなにお喋りだったんだね……! 私、全然知らなかったよ……!」


「あ、あはは……。たまに調子が良い時はこんな感じになったりするかな……!」


「もっと早く知っていたら、お友達になれたかもしれなかったのに……」


 フロルは、クロネが学校を辞めてしまったことを気にしているようだった。もしかしたら、自分に出来ることがあったのではないかと……そう思っているのかもしれない。


「じゃあ、今からお友達になろうよ……!」


「えっ……?」


「……いいよね、クロネちゃん?」


 テルは小声でクロネに確認を取る。クロネもテルと同じ気持ちだった。ここからは、自分がフロルと話をしないといけない。そう感じたクロネは、テルと交代した。


「……あたしは、今からでもあなたと友達になりたい。あなたに何かあったら、力になってあげたい」


「クロネさん……。うん、こんな私で良ければ……!」


「ふぅ……。なんだか、緊張するわね……。こういうの……。やっぱり、あたしには向いてないわ……」


「うん、分かるよ……その気持ち……! 私もそうだから……。友達になりたいって言ってくれたの、クロネちゃんが初めてだから、凄く、嬉しい……」


「フロル……」


 クロネの心はポカポカと温かくなった。今まで感じたことのない気持ちに、クロネは戸惑いを隠せなかった。


「……せっかく図書館に来たんだし、何か本を借りて行かない? おすすめの本、紹介するわよ?」


「ほんとに? 私、実は本が好きで……! クロネさんのおすすめ、ぜひ教えて……!」


 クロネとフロル、人と話すことが苦手な2人は、少しずつお互いを理解し、本を通してさらに仲を深めようとしていた。


 その時、図書館に一人の女性が姿を現した。


「フロルさん……! ここにいるんですか……?」


「ル、ルイーズ先生……!」


 現れたのはフロルの担任の女教師ルイーズだった。クロネの元担任である。学校を辞めているクロネはなんとなく気まずくなり、ルイーズから不意に視線を逸らした。


「ベルさんたちから聞いて探しに来たんです……! あなたが突然いなくなったので、心配していると……」


「そ、そうなんですか……。すみません……。私なら、大丈夫です……。ご迷惑をおかけしました……」


(あの陰湿女たち……。先生にチクったってことね……。どこまでも陰湿な奴ら……)


「あら……。あなたはもしかして、クロネさんですか……?」


 クロネに気が付いたルイーズが声を掛けてきた。クロネの彼女に対する印象はあまり良くはない。自分のクラスでいじめが行われていてもそれに気付く素振りも、解決しようとする素振りもない。クロネはそんな彼女に業を煮やしていた。その内に秘めている気持ちがつい表に出てしまう。


「そうですけど……。悪いですか……?」


「いえ、ただお元気にしているかなと思いまして……」


「元気……まぁ、そうですね……」


 元気かと尋ねられ、クロネは苦笑いを浮かべた。学校を辞めることになり、落ち込むことや悩むことはたくさんあった。そんな自分のことを、この教師は深く気にしてはいないのだろう。そう感じて、ますますルイーズへの信頼は薄らいでいた。


 重苦しい空気になっていることを察したのか、フロルがクロネとルイーズの会話に割って入った。


「あの……。私なら大丈夫ですので、心配しないでとベルさんたちに伝えてください……」


「そうですか……。分かりました。用事が済んだら気を付けて帰るんですよ?」


 そう言い残し、ルイーズは図書館から立ち去っていった。ルイーズがいなくなると、クロネとフロルは、揃って息を吐いていた。


「大人って、ほんと信用出来ないわね……」


「悪い先生ではない、とは思うんだけど……。私にお守りくれたりしたし……」


「あぁ……。あなたが首からぶら下げてる奴ね……。あたしもそれ貰ったわ……。そんなもんわざわざ渡すってことは、いじめがあることには薄々気付いているんでしょうね……」


 ルイーズのどことなく頼りにならなそうな雰囲気を見ると、いじめのことを相談しようという気持ちは湧いてこなかった。相談出来るのなら、クロネは学校を辞めていないのだから。


「ふぅ、気を取り直して……。あなたの気に入りそうな本を持って来るから、少し待ってて……」


 クロネは本棚から一冊の小説を手に取った。温かな絵柄で1人の少女が描かれた小説だった。フロルはその本を大事そうに受け取った。


「優しいお話だから、癒やされてくれると良いんだけれど……」


「そういうお話大好き……! ありがとう、クロネさん……!」


 フロルは本を一冊借りると、クロネに手を振りながら図書館を後にした。クロネは控えめながらも、フロルの姿が見えなくなるまで、手を振りながら彼女を見送った。


『クロネちゃん、頑張ってたくさんお話し出来て偉いね……!』


「やめてよ……。子供じゃないんだから……そんな恥ずかしいこと言うの……」


(でも……。悪い気はしないわ……。ありがと……)


 テルに褒められ、クロネは嬉しいような、くすぐったいような、不思議な気持ちに包まれていた。自分のことをこんなに真っ直ぐ褒めてくれる存在など、テル以外に他にいない。クロネにはもう、テルを追い出す気持ちはなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ