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第13話 魔法学校

 とある夜。テルの精神はクロネの中で寝静まっている。クロネはランプの微かな明かりの中、一人で黙々と作業を進めていた。


「ふぅ……。ようやく完成したわ……。これであいつの精神を分離させることが出来るはず……」


 今までの研究の成果を結集し、クロネは改良したライフボールを完成させていた。ドラゴンの飛膜で覆われた球状のカプセルは、ランプの光で独特の色合いを放っていた。


「魂を入れ替える“流転魂送(るてんこんそう)”の術式を組み込んだから、これで強制的にボールの中に魂を送り込むことが出来る……」


 クロネはしばらく、出来上がった改良型ライフボール見つめた。出来栄えは完璧。今すぐにでもテルを身体の外へ追い出すことが出来るだろう。


「…………」


 だが、クロネはボールを使うことが出来ない。勝手に身体の中に入られ、同居することになってしまった迷惑な存在。そのはずなのに、クロネはテルのことを追い出す決心がつかない。


 泣いていたテルのことを思い出すと、クロネは彼女を追い出すような気持ちにはなれなかった。


「はぁ……。あたしもどうかしてるわね……」


 クロネはテルに見つからないように、ライフボールをそっと上着のポケットの中に隠したのだった。


 その日の朝。


 ゴーストとの戦いから数日が経った図書館は、破壊されてしまった本棚などがある程度修復されていた。利用者もなんら変わりなく読書に勤しんでいる。


「…………」


 普段は仕事中であろうとお構いなしに本を読んでいるクロネだが、今日は大人しく受付に座っていた。


『クロネちゃん、どうしたの? クロネちゃんが本を読まないなんて……』


「別に……。うるさい奴に本を読むなと注意されるから、真面目に“お仕事”してるだけよ……」


 テルの魂を切り離す研究は完成した。だが、テルを追い出す踏ん切りはどうしてもつかない。特別な情を抱いている訳ではない、はずなのに。


 クロネが心の中で葛藤している時、図書館に一際賑やかな声が響いてきた。声の主は、学生服に身を包んだ4人組の少女たちだった。


「あっ……! あの制服は……!?」


 クロネは咄嗟に顔を伏せた。思い出したくない記憶。それが一気に溢れて、吐き気を催してしまう。クロネは必死にこみ上げる気持ち悪さと戦っていた。


『クロネちゃん……? どうしたの……? やっぱり何か変だよ……?』


「別に……。大丈夫だから、気にしないで……」


 今のクロネには、テルに悪態をつく余裕もなかった。どうかあたしに気付かないで。……そう祈っていた時だった。


「あっれぇ〜? あんたもしかしてクロネぇ?」


「…………!」


 必死に気配を殺そうとしていたクロネだったが、奮闘虚しく、制服の少女たちに気付かれてしまった。胸の中にざわざわとした気持ちが溢れる。彼女たちの顔など、全く見る余裕はない。


「学校を辞めたと思ったら、こんなボロい図書館で働いてたの? エリートも落ちぶれたものね!」


「久しぶりに挨拶してやってるのよ? 何か言ったらどうなの?」


「あ…………」


 いつものように何か言い返したい。だが、言葉が出て来ない。喉に詰まった言葉が、そのまま喉に張り付いて呼吸が止まってしまいそうだった。


『なんなの……この子たちは……』


 感じの悪い少女たちを見て、テルが表に出て来ようとする。クロネはそれを必死に抑えていた。下手なことはしたくない。今はただ、この最悪な時間が過ぎるのを待つしかなかった。


「つまらない奴……! こんなのほっとこ。私たちの貴重な時間が無駄になるわ」


 3人の少女は、好き勝手なことを吐き捨てながら立ち去っていった。4人組のうち、1人の少女は何も言葉を発さず、大人しく3人の後ろについていった。


 ほんの数分が、クロネには果てしなく長い時間に感じられた。


「はぁ……はぁ……」


『大丈夫……? 今の子たちは……』


「同級生よ……。元だけどね……」


 クロネの心は擦り切れる寸前になっていた。今は、テルだけがクロネの気を紛らわしてくれる存在だった。


「あたし、魔法学校に通ってたのよ……。名門と言われる古風な学校だったわ……」


『魔法学校……?』


「文字通り、魔法を学ぶ学校よ。優秀な魔導師の父親にも期待されて、あたしは真面目に勉強して、自分で言うのもなんだけど、成績も優秀だったわ……。でも……」


「人付き合いが上手く出来なかった……。いくら勉強しても、どれだけ頑張っても、クラスの子たちはあたしのことを疎み、陰口や嫌がらせをされるようになった……。あたしは、それに耐えられなくなって学校を辞めたの……」


『そんな……』


「それで父親にも見放されて……。あたしは逃げるように、この図書館に転がり込んだわ……。そして、図書館の近くにあった小さな小屋を借りて、そこに一人で暮らすようになったってワケ……」


「ふふふ……。惨めでしょ……? “図書館の番人”だなんて言ってたけど、本当はただ逃げてきただけ……。あたしの居場所は、ここしかなかったのよ……」


『クロネちゃん……』


「つい、喋りすぎたわね……」


 トラウマが蘇り、自分が独りぼっちだということを痛感したクロネは、テルに甘えようとしてしまった。今までテルに冷たくしていたクセに、都合が良すぎる。クロネはそんな自分が馬鹿馬鹿しくなった。


(テルはあたしとはなんの関係もない……。テルを心の拠り所にしようなんて、馬鹿げてる……)

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