第11話 ドラゴン狩り
「クロネさんっ! 着きましたっ! ここがドラゴンの目撃情報のあった渓谷ですっ!」
『ふぅ……。ようやく着いたわね……。こんな険しい道のり歩くなんて、だから行きたくないって言ったのよ……』
「いや、歩いてたの私なんだけど……!」
シロップの協力を得て、冒険者ギルドから、シロップの同行者としてドラゴン討伐の許可を貰ったクロネ。だがしかし、運動のたぐいが大嫌いのクロネは、目的地までテルに歩かせていたのだった。
「いよいよですね……。私もドラゴン討伐は初めてなので、上手く出来るか不安なのですが……!」
「あ、シロップちゃんは心配しなくてもだいじょぶだいじょぶ。クロネちゃ……じゃなかった。私がドラゴンなんて一捻りしてあげるから!」
「おぉっ! さすがクロネさん! 頼もしいですっ!」
そんな話をしていた最中、上空から激しい突風が吹き荒れた。その風は、ドラゴンの大きな翼が巻き起こしていた。太陽を遮るほどの大きさの、恐ろしい姿をしたドラゴンだった。
「うわあっ!? 出たあっ!?」
腰を抜かすシロップを余所に、ドラゴンはさらに翼を力強く羽ばたかせる。突風が刃のように変化し、クロネたちに襲い掛かった!
「ひえええっ! あ、あんな高い所から攻撃されたら、反撃なんて出来ませんよ……!?」
「大丈夫! 私にまかせて!」
テルは風の刃を掻い潜り、渓谷のさらに上へと駆け上っていく。ドラゴンは狙いをテルに固定し、遠距離攻撃を放ち続ける。
「たァッ!!」
ドラゴンの風の刃が地面に激突し、上昇気流が発生する。その風を利用し、テルは一気に上空へと飛び上がった!
「す、凄いっ! ドラゴンより高く飛んでいるのですっ!」
「クロネちゃん!」
『ようやくあたしの出番ね……。見てなさいよ。一撃で仕留めてやる……!』
テルはドラゴンの頭上でクロネにバトンタッチした。クロネはドラゴンに手のひらで狙いを定める。
「“黒風”ッ!!」
「グアオオオオオオッ!!」
黒い竜巻がドラゴンの背中を直撃した! 凄まじい風圧に、ドラゴンは為す術もなく地面に叩きつけられた。再びクロネはテルに交代し、驚異的な身体能力で高所などなんのその、ドラゴンの上に軽やかに着地した。
『ふっ……。どうよ? 言った通り、楽勝だったでしょ』
「すごいすごーい! 私は、クロネちゃんならやってくれるって信じてたよ〜!」
『なんかわざとらしいわね……。あんたまさか、あたしをその気にさせるために、ヘタレとか言って煽ってきたんじゃないでしょうね……』
「えっ……。い、嫌だなぁ……。そんなことないよぉ!」
明らかに動揺している様子のテルに、クロネはまんまと利用されたと察した。とはいえ、目的のドラゴンの飛膜は無事に手に入れることが出来たのだった。
◇
「クロネさんっ! 今日は凄い戦いを見せていただけて、とても興奮しましたっ! また一緒に冒険しましょうっ!」
「うん! またね、シロップちゃん!」
シロップとは冒険者ギルドのある街で別れ、クロネは飛膜を持って自宅へと帰還し、アイテム製作の最終段階に入るのだった。
それから、さらに数日後。
「ふぅ、ようやく完成したわ……。とりあえず“ライフボール”とでも名付けとくわ」
おぞましい色の液体の入った鍋や、大量の書物が散乱した部屋の中。クロネはその手に、ドラゴンの飛膜を加工して作られた小さなカプセルを握っていた。
『クロネちゃん、それどう使うの?』
「このカプセルに魔力を閉じ込めて、魂を宿す依り代にするのよ。本来形のない魔力は、術に変換することで人間に干渉することが出来る。それを応用して魂を具現化させるって仕組みよ」
「でも、効果はこのカプセルに込められた魔力が尽きるまで。長時間の実体化は無理」
『よく分からないけど、それでリーフちゃんはリッツちゃんとお話し出来るんだね!』
「あんたに説明したあたしが馬鹿だったわ……」
ついに完成した魂を具現化させるアイテム“ライフボール”を手に、クロネは図書館へと向かった。時間はまだ早朝、人の気配はなかった。クロネは鍵を開けて館内に入った。
「まだ誰も来てないわね。これは好都合。テル。あとはあんたにまかせるから、リーフを見つけたらライフボールを使いなさい」
『えっ……! 私、これの使い方分からないんだけど! クロネちゃんがやってよぉ!』
「あたしはリーフのことが見えないのよ……。断じて怖いからではなく……。魂だけの存在のテルは幽霊みたいなもの、きっと波長が合うんだわ」
「使い方なら簡単。ボールの中に入るだけ。リーフにそう教えなさい」
『わ、分かった……!』
テルはクロネと交代し、リーフのことを探し始める。図書館の中を見て回るが、なかなか彼女の姿を発見することが出来ない。
「おかしいな……。リーフちゃんどこ行っちゃったんだろう……」
その時、テルの背後から物音が聞こえた。すぐにテルは振り返るが、そこには誰もいなかった。
「リーフちゃん? そこにいるの?」
呼び掛けても返事はない。テルは異様な空気を感じながら、恐る恐る音のした方へ近付いていく。すると、窓際に少女の後ろ姿が見えた。
「あっ! リーフちゃん! 良かったぁ〜! いなくなっちゃったんじゃないかと思ったよぉ!」
テルが少女に近寄った瞬間、窓がガタガタと揺れ出した! そして、大きな音を立てながら次々と窓ガラスが割れていく!
「な、なになに!? リーフちゃん、どうしちゃったの!?」
「離れてください! それは私じゃない!」
「えっ……!?」
リーフの声が背後から聞こえ、テルは慌てて振り返る。背後にいたのは確かにリーフだった。だが、正面にも少女の姿が確認出来る。
「私がお姉ちゃんに伝えたかったのは、このことなんです! この図書館には、危険なゴーストが潜んでいて……!」
「えぇっ!? いや、それ先に言ってよ!?」
テルの正面にいる少女は、大きな影の怪物に姿を変えていく。その怪物の正体は、倒されたモンスターの集合体が作り上げた存在だった。