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第10話 あの人は今

 クロネがテルに入れ替わった瞬間。そこには、今まで“見えなかったはず”の少女が立っていた。


「ほら! そこにいるでしょ! クロネちゃん、本当に見えてないの!?」


『そ、そんなのどうでもいいから……! 早くそいつをどっかに追っ払ってよ……!』


「こんにちは! 私はテル! あなたの名前は?」


『コラーッ! 悠長に挨拶すんなッ!』


 クロネは得体の知れない少女を1秒でも早く追い払って欲しいのだが、テルは普通に会話を始めようとしていて、クロネは逃げ場のない恐怖を味わっていた。


「あ、あの、私はリーフと申します……。いつも姉がお世話になっております……」


「姉って……リッツちゃんの妹さん……!?」


「はい……そうです……」


『リッツの妹……!? あの子に妹なんていたの……!?』


 怯えるクロネに反して、半透明の少女は普通に返事を返してきた。しかも、その少女はリッツの妹だという。クロネはもう何が何やら分からなくなっていた。


「リーフちゃんは、なんでそんな薄っすら透けてるの?」


『そこダイレクトに聞く奴いる!?』


「あの……大変言いにくいのですが……。私は、1年前に事故で死んでしまったのです……」


『ひいぃっ! やっぱり!?』


「ど、どうしたのクロネちゃん……? もしかして怖いの……?」


『ここここ、怖くなんてないわよ!? ただ、そういう非科学的な存在が許せないというか、気持ち悪いのよ……!』


「黒魔術使ってるクセに……?」


『うるさいわよ……! 居候の分際で……!』


 クロネは実は幽霊が苦手だった。そのことをここぞとばかりにテルにいじられ、クロネは悔しくて仕方なかった。


(それにしても、リッツの妹が亡くなっていたなんて……。そんは話、聞いたことなかったわ……。私が図書館で働くようになったのは、半年くらい前のことだけど……)


「あの、それでリーフちゃんはどうして図書館に? やっぱりお姉さんに会いに来たのかな?」


「は、はい……。そうなんですけど……。お姉ちゃん、私のことが見えてないみたいで……。私、どうしてもお姉ちゃんに伝えたいことがあるんです……」


「心残りを晴らさないと、あの世に旅立つことなんて出来なません……」


「そうなんだ……。ねぇ、クロネちゃん? なんとかリーフちゃんの望みを叶えてあげられないかな?」


『なんであたしがそんなことを……! あんた、死んだ人間にまでお節介焼くなんてどうかしてるんじゃないの……?』


「でも、このままだと、リーフちゃんはずっと気持ちを伝えられないまま、いつまでも図書館に居続けることになっちゃうよ……?」


『そ、それは困るわ……』


 幽霊が苦手なクロネは、今すぐにでもリーフに図書館から出て行って欲しかった。だが、そのためにはリーフの悩みを解決するしかないのだ。クロネの選択肢はひとつしかなかった。


『仕方ない……。リッツにもリーフのことが見えるようにすればいいんでしょ……?』


「ありがとう! クロネちゃんはやっぱり頼りになるね! ……リーフちゃん! 私がなんとかリッツちゃんと話せるようにしてあげるから、それまで待っててくれる?」


「ほ、本当ですか……? ありがとうございます……!」


『はぁ……。ちょうど魂を実体化させる研究をしようとしてたから、それを進めるとするわ……』


 クロネは、図書館の平穏を取り戻すため、仕方なくリーフに協力することに決めた。それから数日の間、図書館にある様々な書物を読み漁り、必要な素材を洗い出していった。


   ◇


『どう? クロネちゃん? 研究は進んでる?』


「まぁ、順調といえば順調だけど……。ひとつ問題があるわ……」


『問題って……?』


「魂を具現化させるためのアイテムを作るのに、ドラゴンの飛膜が必要なのよ。しかも上級な奴」


『そうなんだ! じゃあ行こうよ!』


「あのね……。ドラゴンなんてそう簡単に倒せるもんじゃないし、あたしは行きたくないし、討伐するにも冒険者ギルドで申請しないといけなくて、いろいろ面倒なんだから……」


『クロネちゃんは行きたくないだけでしょ!?』


 クロネがドラゴン討伐を渋っている時、図書館の入口から明るい声が響いてきた。その声の主は、ボーイッシュな格好をした女性だった。


「クロネさんっ! お久しぶりですっ!」


「えーっと……。あんたはケイ。……じゃなくて、今はシロップなんだっけ……?」


「はいっ! その節は本当にどうもありがとうございましたっ! お陰様で人間の生活を満喫しておりますっ! お礼も兼ねて、近況報告をと思いまして……!」


 図書館にやってきたのは、人間になりたいという夢を叶えた元妖精のシロップだった。現在も冒険者のケイの身体で生活を続けているようだ。


「人間の生活って、普段あんた何してるの?」 


「ケイさんはどうやら上級クラスの冒険者だったらしくて、豊富な戦闘スキルを引き継ぎ、私も冒険者をやらせてもらっています……! 妖精の頃には体験出来なかった刺激的な日々で、とても充実しておりますっ!」


『冒険者……!』


 クロネの中で、テルが何か閃いた様子だった。大方の予想が出来ているクロネは、ストレスですでに胃が痛み出している。


『クロネちゃん! シロップちゃんにお願いして、ドラゴン狩りに連れて行ってもらおうよ!』


「出た……。そんな体力馬鹿がやるような大仕事、私はやりたくないっての……。汗とかかきたくないし……」


『そんなこと言って、クロネちゃんはドラゴンが怖いんでしょ?』


「はぁ〜!? なんでそうなるのよ!」


『幽霊だって怖がってたじゃん! いつもクールぶってるけど、実はヘタレなんでしょ!?』


「誰がヘタレですって! 言わせておけば調子に乗りやがって……! 私を誰だと思っているの!? ドラゴンなんて瞬殺してやるわ!」


 テルに挑発され、黙っていられなくなったクロネ。自分の力を見せつけるため、ドラゴン狩りに行くことを決めた。


「シロップ……! ちょっとドラゴン狩りに行きたいんだけど……。手伝ってもらえるかしら……!」


「えぇっ……!? 急にどうしたのですか……!? 恩人の頼みですし、断るつもりはありませんが……!」

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