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第1話 陰キャのクロネ

 民家が無数に立ち並び、冒険者や魔法使い、多種多様な人々で賑わう大きな街。……その外れ、民家もひと気もない平原。そこに様々な分野の本を扱う小さな図書館がポツンと建っていた。図書館の看板には『リューナ図書館』と書かれている。


 その図書館で、黒いローブを着て首から紫色の宝石をぶら下げている怪しげな男性が、召喚術が記された書物を雑にカウンターテーブルに放り投げ、受付の少女に話し掛けていた。


「おい……この本、貸せ……」


「…………」


 真っ黒いゴスロリ風のファッションに身を包んだ少女クロネは、男性に視線を移すことなく、受付のカウンターに積まれた本をひとり読みふけっている。


「おい……貸せって言ってるのが聞こえないのか……?」


「うるさいわね……あんたなんかに貸す本なんか無いわよ……」


「あぁ……!?」


 読書を邪魔されたクロネは不機嫌そうに男性を睨んだ。しかし、男性の方は不機嫌を通り越し、完全に激怒していた。


「クソガキ……図書館で本を貸せないってどういうことだ……」


「その態度よ……。本を読みたいって態度に見えないし、何より気に入らないわ……」


「お前に言われたくねぇわ!!」


 男がクロネを殴ろうと拳を振り被っている。だが、クロネは全く動揺することもなく、小さな溜め息をひとつ漏らした。


「“黒波(ダークウェーブ)”」


「ぐおおおおおっ!?」


 ローブの男は、クロネが手のひらから放った黒い魔法で、図書館の壁を突き破って外に吹き飛ばされた。クロネは何事もなかったかのように、再び読書に没頭し始める。


「転生……。女神から選ばれた別の世界の人間が、この世界に住まう人間に成り代わろうとする恐ろしい現象……。だが、その存在を証明した事例は存在しない……」


「ずいぶんと迷惑な話よね……。あたしたちにはなんのメリットもないのだから。まぁ、実在するかは眉唾ものだけれど」


 クロネの読んでいる本の表紙には“転生の謎”と書かれていた。彼女の趣味は読書だ。この世界のまだ見ぬ現象や知識は、彼女の好奇心を刺激し、時間を忘れさせるのだった。


 本日の読書のテーマは転生。数ある書物の中から適当に選んだものに過ぎないのだが、何故か今日に限って、転生という現象がクロネの心に引っ掛かってしょうがなかった。


「さっきの“暴漢”みたいに、いつどんな脅威が襲って来るかも分からない……。保険を掛けておくのも面白いかもしれないわね」


 クロネは受付のカウンター席から立ち上がると、図書館に無数に並ぶ本棚から、転生について記された書物をひたすらかき集め始めた。


 そんなクロネの元に、苛立っている様子の少女が駆け付けてきた。


「ちょっとクロネさん……! さっきの凄い音なんなんですか……!? というか、また図書館の壁が壊れてるじゃないですか! 館長に怒られちゃいますよ!」


「別に。ただ行儀の悪い利用者がいたから追い払っただけよ」


「そんなこと言って、クロネさんが先に手を出したんじゃないですか!? 私たちは司書なんですから、図書館を訪れる利用者様のために本を貸し出しするんですよ!? それに、仕事中に受付で本を読むのもやめてください!」


「うるさいわね……。図書館では静かにって教わらなかったの? それに今、利用者ならいなくなったわ。そしてあたしは、今から休憩時間にするから。それで問題ないでしょ」


「ぐぬぬ〜……。クロネさんはいつもいつもそんな屁理屈ばっかり〜……!」


 仕事仲間の少女、リッツとの定番のやり取りを終えると、クロネは何食わぬ様子で読書を再開した。


 その日の夜。


 図書館での司書の仕事を終えたクロネは、図書館から少し離れた自宅にて、床の上にチョークで大きな魔法陣を書き始めていた。

 

 図書館からいくつか借りた本を読みながら、クロネは怪しげな儀式の準備を進めていく。


「さてと……こんなもんで良いかしら。自己流だから上手く行くかは全然分からないけど」


 クロネは魔法陣の中央に立つと、両手を組みながら目を瞑る。魔法陣を発動させるために、魔力の放出と呪文の詠唱を始める。


「我の身体は我だけの物。精神の介入の一切を不許可とする。“転生封じ”……!」


 呪文を唱えると、クロネの髪はフワッと舞い上がり、魔法陣は激しい光を放った。なんらかの魔法が発動した様子だった。


「ふぅ……。これでもし、あたしに転生者が憑依しようとしても、転生を防ぐことが出来るはず。成功してるのかどうか全く実感ないけどね……。試しようもないし」


 クロネには読書の他にもうひとつの趣味があった。その趣味とは黒魔術の開発である。図書館で得た知識を元に、彼女は黒魔術を日夜研究し、実用性のある新術の完成を目指していた。


「転生を封じることが出来れば、あたしはこの世界で初めて転生から逃れた魔術師となる……。そうなれば、あたしの実力を誰しも認めざるを得ないでしょうね……。フフフフ……」


「……ふぅ。なんてね。そもそも転生が本当に行われてるのも分からないんだから。そんなことに本気になってもしょうがないわ」


 ひと通り転生の研究が終わると、クロネは急に冷静になり、床に書いた魔法陣を雑巾で消し始めた。


「別人になってまで強大な力を手に入れるなんて、そんなのなんの意味もない。あたしは、クロネとして、誰もが認める黒魔術を完成させるのが夢なんだから……」


 掃除と片付けを終えたクロネは、今度は就寝の用意を始める。明日はなんの研究をしよう。クロネは新たな研究に胸を躍らせるのであった。

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