序章
あの日、人類は世紀の偉業を成し遂げた。
世界大戦を2度経験し、原子力爆弾まで使用された日本も、その例外ではなかった。
アポロ11号での人類初の月面着陸。続く12号も成功を収めた。そして…………。
1970年4月11日、13時13分13秒。アポロ13号と名付けられた、その不吉なまでに「13」を並べられた機体は、従来通りの月面着陸という目的の他に、もう1つ別の目的があった。
むしろ、そっちの方が人類の真なる目的と言っても過言では無いだろう。
そう、それは「神の否定」だ。
そして、その日アポロ13号は地球を飛び立ち、何事もなく、目的を達成した。
その瞬間、人々は真に自由を得たと言えるだろう。
不吉な13など迷信だ。神はいなかったと、世界中が認める事実を作った。
それでも、最初の頃はほかの宗教や神職者たちは「神の否定」を否定していた。
月面の滞在中に事故が起きたのを隠蔽しているだの、帰還中に機器のトラブルがあっただのと。
しかしそれはただの推測に過ぎない。実際、搭乗していたクルーたちも「何も無かった」と証言を残している。事実、機内に設置してあった機器の映像にも何も不具合などなかったことが残っている。
あれから10数年。人々は神を捨てたのだった。
神という概念が消え、あらゆる宗教は消え去った。あったとしても、細々と少ない信者から甘い蜜を搾取する悪いやつか、本当に頭のおかしい奴か。そんな宗教とすらも呼べないような変な団体しか残っていない。
だが、奇跡は確かに存在する。悪者は自らを悪者と名乗らない。同じく。神は自らを神と名乗らない。
これから紡ぐ物語はそんな少女と出会った人々のなんでもない些細な奇跡のお話だ