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だから⑨

「ファビアン」


 ただただ横になっていると、すっかり忘れたと思っていた声に起こされる。


「寝ていたんですか」


 瞼を開いた私は、ワルテをギロッと睨みつける。


「やることもないのに、何をしておけと言うんだ!」


 ワルテが肩をすくめた。


「本を読む時間が沢山出来たでしょう?」


 瞬間的にカッとする。


「私が本を読むのが嫌いだと知っていて言っているのか!?」


 知っているはずなのに、嫌味しか言わないのか!


「お前さえ帰ってこなければ!」


 ワルテさえいなければ、きっと私はこんなところに幽閉されることもなかったはずだ。

 唯一の存在のはずなんだから。 


「くだらないことを言いますね。私がいようがいまいが、同じ道をたどったんじゃないですか」

「そんなことはない! 私はノエリアの言う理想的な国王になれるはずだったんだ!」


 ワルテがため息をついて首を横に振った。


「理想的な国王、ですか。しかも、ノエリア嬢の言う、ね……」


 私はハッと息をのむ。


「ノエリアはどうしている!?」


 時間の経過も忘れていたが、ノエリアのことを忘れていたわけじゃない。今だけ、ちょっと頭の中から抜けていただけだ。眠る前には、ノエリアのことを考えていたのに。

 そうだ。起こしたのがワルテだったから、気に障ったせいだ!


「知りたいのですか?」

「当然だ! 私の最愛なのだから!」

「彼女のせいで、あなたはこの国をカッセル王国に売り渡す真似をするところだったんですよ?」

「ノエリアの考えでは、そんなことにはならない! むしろ、我が国の後ろ盾になってくれると!」


 いや、ノエリアが言ったのではなかったか? いや、ノエリアが言ったことにしよう!

 そうすれば、ノエリアも一目置かれるはず。

 だが、ワルテが眉を寄せた。


「どういうことですか? 私にはちょっと理解できないんですが」


 私は、ふ、と鼻で笑ってしまった。

 やはり、ワルテは王の器ではないのだ。


「わからないのか? バール王国に対抗する力を、我が国が持てるということだよ!」

「……わかりたくもありませんけど……」


 ワルテが目をすがめる。

 きっと、私の王の器に嫉妬しているに違いない!


「このアイデアが素晴らしすぎて、驚いているんだろう?!」

「……ノエリア嬢に会いたいんでしょうか?」


 なぜ、急に話が変わった?

 まあいい。


「ああ。そんなこと当然だ。聞くまでもないだろう!」

「では、会わせてあげましょう」

「今すぐ会わせろ!」


 ワルテが首を横に振った。


「今ではありません。明日、会わせましょう」

「本当か!?」

「ええ。ただ、約束があります」

「約束?」


 私が首を傾げると、ワルテが頷いた。


「ノエリア嬢には会わせますので、そのために縄を切ってほしいのです」

「縄? なんだ。縄を切るだけでいいのか? 構わない。いくらでも切ろう」


 私の返事に、ワルテがホッと息をつく。

 一体、縄を切るのが何だと言うのだ。


「やりたがる者はおりませんので、私としても助かります」

「ただ縄を切るだけだろう?」

「ええ。切るだけです。ただ、勇気と決断が必要なものですから、やりたがる者が出てきません」


 ワルテの説明は十分理解できなかったが、勇気と決断が必要なもの、というくだりは気に入った。


「なるほど。それは、私以外に適任はおるまい」

「それは、間違いないかと」


 ワルテが即座に頷く。


「私は、ワルテを誤解していたようだ」

「そうですか」


 ワルテが苦笑している。

 まあいい。

 私が国王になったら、それなりにいいポジションには着けてやろう。


「私の側近として使おう」


 私の言葉に、ワルテがゆっくりと首を振る。


「私は私のやるべきことがありますので」


 なんだ。案外欲はないのだな。


「それでは、失礼します」

「……おい、私の幽閉は解けないのか!?」


 明日、一仕事する人間を、ここに置いたままにするのか?!


「それは、私の一存ではできませんので」


 そうか。ワルテは結局、一介の貴族。

 私は王族。

 決められるのは、父上だけか。


「それもそうだな」


 きっと、私の今まで行ったことが、この国のためだと認められるはずだ。

 それに、明日私に任された仕事をやり遂げれば、きっと国王としてふさわしいと、皆が認めてくれるはず。

 だから、明日になれば、私とノエリアはまた一緒に、未来を描けるはずだ。

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