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36/50

ならば⑭

「国の貯えを使っていない。確かに、そうかもしれませんわ。お金が直接動いたわけではありませんものね。ゼビナ王国とカッセル王国の国境近くに立つ、ルロワ城と引き換えにされたんだもの」

 

 クリスティアーヌ様の言葉に、会場中が騒然となる。

 本当に、夢って何でも出てくるのね。そんなことばれたら困るわ。


「ファビアン! どういうことだ?!」

 

 国王陛下がファビアン殿下を怒鳴りつけているわ。でも、どうでもいいの。夢だもの。


「ち、父上。どうして、そんなに怒るのです!? あの汚らしい古い城と、ノエリアのための美しい衣装を交換しただけではありませんか!」

「ファビアン、お前は本気でそんなことを言っているのか?!」 

「父上、大丈夫ですか!?」

 

 変な会話だわ。

 ルロワ城が人手に渡ったら、大変だって庶民の私でもわかるのに。

 あ、ファビアン殿下はわかっていないんだったわ。

 この夢、本当に再現されているみたい! すごいわ。


「あのルロワ城は、我が国の大事な要所。なのに、それを、あんなドレスのために売り渡すとは!」

「あんなドレスではありません! 美しいではありませんか!」


 そうそう。美しいドレスがほしいってねだったら、ファビアン殿下は簡単にルロワ城を譲っていたわ。

 裏でカッセル王国が手を引いているなんて、想像もしていないんでしょうね。

 そういえば、趣味の悪い赤い石の指輪も貰ったわね。国母の証だからって。

 あれもあのとき一緒に売ってしまったけれど。いいお金にはなったわね。


「陛下、ファビアン殿下に政を任せると、すぐに我が国は滅んでしまうでしょう。ですから、私は廃嫡を望みます」

「……だが、ルロワ城は戻らぬ。もう、我が国は、終わりだ……」

「廃嫡を認めてくださるのであれば、ルロワ城は我が国に寄付いたします」


 なんですって!

 ルロワ城はカッセル王国に渡ったはずよ!

 ……ああ、これは夢だったわ。焦らなくても大丈夫。


「ど、どういうことだ?!」

「ファビアン殿下が、商人にルロワ城を譲ったとの情報を得た父の手はずにより、我が家の銀山と引き換えに、ルロワ城は我が家の持ち物となっております」


 夢なのに、すごく整合性があるのね。クリスティアーヌ様って、夢の中でも完璧なのね。


「助かった。流石、ドゥメルグ公爵。そのようなところにも目が行き届いていたか。わかった。クリスティアーヌ嬢の望みは叶えよう」

「ち、父上! それでは、王家の血が絶えてしまいます!」


 叫んだのはファビアン殿下だ。

 ファビアン殿下、夢の中でもダメダメなのね。


「黙れ、ファビアン。お前がいなくとも、王家の血は絶えぬ。……我が弟の子がおるからな」

「ワ、ワルテを次期国王にするつもりですか!? ワルテは、帝王学など学んでいないのですよ!」


 ワルテ様? 初めて聞く名前ね。夢なのに。

 皆の視線が集まっている人を見る。

 あら、結構好みの顔だわ。

 ……ファビアン殿下の顔がカエルに似てるから、誰でもかっこよく見えちゃうのよね。


「ファビアン殿下も、きちんと学んでおられないではありませんか。冷静かつ、勤勉であり、私と共にバール王国に留学し、バール王国の言葉を使いこなせるワルテ様の方が、よほど国王にふさわしいと思いますわ」

「レナルド殿下、ファビアンの処遇については、廃嫡、そして、幽閉いたします」


 レナルド殿下、ずっとクリスティアーヌ様を見ていて、私のことを見てくださらないわ!


「ゆ、幽閉?! 私を幽閉するのか!?」

「ファビアンを下がらせよ。とりあえず、東の棟の牢へ」


 叫ぶファビアン殿下に、私はハッとする。

 そうだわ、叫べばレナルド殿下が見てくれるに違いないわ!


「わ、私は無関係ですわ! このドレスがそんな高価なものだとは……」


 夢だけど、無実だって言っておくわ! 現実で口走っては困るもの。


「ファビアン殿下がルロワ城を譲った商人は、ガンス男爵家が紹介した人間のようです。もしかすると、ガンス男爵家がよからぬことに手を貸した可能性もありますわ」


 レナルド殿下が見てくださらないわ! どうして!? 私の夢なのに!

 ひどいわ!

 私は悲しくて涙が出る。

 本当に悲しいわ!


「ガンス男爵家の人間を、すべて牢に入れろ!」


 何?! どうして、私は騎士に捕まっているの?!

 こんな夢、嫌よ!!

 早く、目が覚めて!


 あ! きっとこのあと、レナルド殿下が、助けに来てくれるんだわ!

 だとしたら、悲壮に演じなければ!

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