ならば⑭
「国の貯えを使っていない。確かに、そうかもしれませんわ。お金が直接動いたわけではありませんものね。ゼビナ王国とカッセル王国の国境近くに立つ、ルロワ城と引き換えにされたんだもの」
クリスティアーヌ様の言葉に、会場中が騒然となる。
本当に、夢って何でも出てくるのね。そんなことばれたら困るわ。
「ファビアン! どういうことだ?!」
国王陛下がファビアン殿下を怒鳴りつけているわ。でも、どうでもいいの。夢だもの。
「ち、父上。どうして、そんなに怒るのです!? あの汚らしい古い城と、ノエリアのための美しい衣装を交換しただけではありませんか!」
「ファビアン、お前は本気でそんなことを言っているのか?!」
「父上、大丈夫ですか!?」
変な会話だわ。
ルロワ城が人手に渡ったら、大変だって庶民の私でもわかるのに。
あ、ファビアン殿下はわかっていないんだったわ。
この夢、本当に再現されているみたい! すごいわ。
「あのルロワ城は、我が国の大事な要所。なのに、それを、あんなドレスのために売り渡すとは!」
「あんなドレスではありません! 美しいではありませんか!」
そうそう。美しいドレスがほしいってねだったら、ファビアン殿下は簡単にルロワ城を譲っていたわ。
裏でカッセル王国が手を引いているなんて、想像もしていないんでしょうね。
そういえば、趣味の悪い赤い石の指輪も貰ったわね。国母の証だからって。
あれもあのとき一緒に売ってしまったけれど。いいお金にはなったわね。
「陛下、ファビアン殿下に政を任せると、すぐに我が国は滅んでしまうでしょう。ですから、私は廃嫡を望みます」
「……だが、ルロワ城は戻らぬ。もう、我が国は、終わりだ……」
「廃嫡を認めてくださるのであれば、ルロワ城は我が国に寄付いたします」
なんですって!
ルロワ城はカッセル王国に渡ったはずよ!
……ああ、これは夢だったわ。焦らなくても大丈夫。
「ど、どういうことだ?!」
「ファビアン殿下が、商人にルロワ城を譲ったとの情報を得た父の手はずにより、我が家の銀山と引き換えに、ルロワ城は我が家の持ち物となっております」
夢なのに、すごく整合性があるのね。クリスティアーヌ様って、夢の中でも完璧なのね。
「助かった。流石、ドゥメルグ公爵。そのようなところにも目が行き届いていたか。わかった。クリスティアーヌ嬢の望みは叶えよう」
「ち、父上! それでは、王家の血が絶えてしまいます!」
叫んだのはファビアン殿下だ。
ファビアン殿下、夢の中でもダメダメなのね。
「黙れ、ファビアン。お前がいなくとも、王家の血は絶えぬ。……我が弟の子がおるからな」
「ワ、ワルテを次期国王にするつもりですか!? ワルテは、帝王学など学んでいないのですよ!」
ワルテ様? 初めて聞く名前ね。夢なのに。
皆の視線が集まっている人を見る。
あら、結構好みの顔だわ。
……ファビアン殿下の顔がカエルに似てるから、誰でもかっこよく見えちゃうのよね。
「ファビアン殿下も、きちんと学んでおられないではありませんか。冷静かつ、勤勉であり、私と共にバール王国に留学し、バール王国の言葉を使いこなせるワルテ様の方が、よほど国王にふさわしいと思いますわ」
「レナルド殿下、ファビアンの処遇については、廃嫡、そして、幽閉いたします」
レナルド殿下、ずっとクリスティアーヌ様を見ていて、私のことを見てくださらないわ!
「ゆ、幽閉?! 私を幽閉するのか!?」
「ファビアンを下がらせよ。とりあえず、東の棟の牢へ」
叫ぶファビアン殿下に、私はハッとする。
そうだわ、叫べばレナルド殿下が見てくれるに違いないわ!
「わ、私は無関係ですわ! このドレスがそんな高価なものだとは……」
夢だけど、無実だって言っておくわ! 現実で口走っては困るもの。
「ファビアン殿下がルロワ城を譲った商人は、ガンス男爵家が紹介した人間のようです。もしかすると、ガンス男爵家がよからぬことに手を貸した可能性もありますわ」
レナルド殿下が見てくださらないわ! どうして!? 私の夢なのに!
ひどいわ!
私は悲しくて涙が出る。
本当に悲しいわ!
「ガンス男爵家の人間を、すべて牢に入れろ!」
何?! どうして、私は騎士に捕まっているの?!
こんな夢、嫌よ!!
早く、目が覚めて!
あ! きっとこのあと、レナルド殿下が、助けに来てくれるんだわ!
だとしたら、悲壮に演じなければ!




