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ならば⑧

「確かに、いつもの卒業パーティーは堅苦しいと、卒業生からは不満が出るのは耳にしますけれど」

 

 クリスティアーヌ様が告げる。

 私の勝ちね? 自然と笑顔が出てくる。

 だけど、クリスティアーヌ様はまたつづけた。


「この卒業パーティーの意味は、そんなことではありませんのよ。我々学院生が本当の意味での貴族としての仲間入りをするという、お披露目の意味がありますのよ? そして、我々学院生も、貴族としての心構えを、改めて理解するための場が、この卒業パーティーですの」

「そ、それは形ばかりのものだから、意味はないわ!」


 否定する私に、ファビアン殿下がうんうんと同調している。

 そんな意味があるなんて、知らなかったわ!

 ……ファビアン殿下と一緒に、授業に出ずにいたのは、失敗したかしら。


「この卒業パーティーでの儀式が、国の成り立つ上で大事なものだと理解されていないのですか?」

「ファビアン殿下の提案は素晴らしいものですわ! その形ばかりの儀式よりも、何倍も!」


 それ以外に言いようはないじゃないの!


「そうだ!」


 もはや、ファビアン殿下が同意してくれても、どうでもいいわ。

 私の目的は、クリスティアーヌ様を言い負かすことよ!


「あれは、いにしえから伝わる、契約ですのよ、ノエリア様、ファビアン殿下。皇太子であるファビアン殿下がご存じないわけではないですよね?」

「だから、形ばかりのものだろう!」


 契約?

 ……契約って、精霊の力を借りて行うものじゃなかったかしら? この卒業パーティーは、そんな大事な儀式だったの?

 それなのに、この馬鹿皇太子は、必要ないって言いきっていたわよ!

 本当に信じられない!


「あの儀式は、精霊の力を借りているのですよ。学院でも教えられるではありませんか。だからこそ我々学院の卒業生は、王族として貴族として認められるのです。そうやって、国民に対しても存在意義を認められているのです。その儀式を、一体いつされるおつもりですか? 学院生が一同に介すことなど、しばらくはありませんのに」

「し、しばらくすればあるでしょう! そのときに行えばいいのよ!」


 でも、もう私にはほかに方法はないわ! この場を逃げ切るしかないのよ!

 

「そうだ!」


 ファビアン殿下の相槌が、全く価値のないものにしか聞こえないわ。

 ……ああ、少しだけあったわ。

 私の味方をしてくれているってことだけは大切ね!


「その間に、ファビアン殿下の行いで、国民の不満が噴出するようなことがあってもいいと?」


 クリスティアーヌ様の言葉に、ファビアン殿下がギリギリと奥歯を噛み締めている。

 あー。クリスティアーヌ様は、本当に手ごわいわ!


「言うことに事欠いてそんなことを言い出すなんて! クリスティアーヌ様、先ほどからファビアン殿下に対して不敬ですわ!」


 もう他に話を逸らす方法がないなんて、本当に困るわ!

 ファビアン殿下にいいところがなさ過ぎて、本当に腹が立つ!

 当然、クリスティアーヌ様が首を横に振る。

 

「ファビアン殿下の不始末をいつもいつも私がフォローしておりました。ですが、この一年、留学先で伝え聞くファビアン殿下のお噂は、酷いものばかり。心を痛めておりましたが、苦言を呈し、その行いを諫める人間も、行いの尻拭いをする人間も、私以外にはファビアン殿下のお近くにはいらっしゃらないのだと言うことだけが、わかった一年でしたわ」

「ファビアン殿下に尻ぬぐいなど必要ありませんわ! 本当に不敬だわ!」

「わ、私の尻拭いなど、クリスティアーヌ嬢に頼んだこともない!」


 私もファビアン殿下も、不満そうにクリスティアーヌ様の顔を見る。

 ファビアン殿下は、クリスティアーヌ様の不満で。

 私は、ファビアン殿下への不満で。

 もっとすんなり婚約者の座が手に入ると思ったのに! 全部、ファビアン殿下のせいで裏目に出ているわ!


「私にファビアン殿下の尻拭いをするようにおっしゃったのは、国王陛下ですわ。ファビアン殿下ではありません」


 クリスティアーヌ様が首を横にふると、ファビアン殿下は拳をプルプルと震わせ始めた。

 でも、きっとそれは真実だわ。

 だって、この馬鹿皇太子のしりぬぐいをするには、相当な聡明さが必要とされるもの。

 クリスティアーヌ様が、ファビアン殿下の婚約者に選ばれたのも、納得だわ。

 ……でも、私は今、皇太子の婚約者の立場が必要なの。


「尻拭いだと?! 嘘を言うな! クリスティアーヌ嬢は私の行いに苦言を呈していただけで、小うるさいだけだった! 私の尻拭いなどしてもいないだろう!」

「そうよ! ファビアン殿下をずっと苦しめていたのは、クリスティアーヌ様よ!」


 私の言いがかりに、クリスティアーヌ様が呆れているのがわかる。

 ……もう、これ以外に方法はないのよ!


「殿下は気づいていらっしゃらなかったようですが、殿下の発言一つ一つにフォローを入れて、問題が起こらないようにしていたのは私です。この一年は、色々とトラブルを起こしていらっしゃったようですが、全てファビアン殿下の発言のせいだとうかがっております」

「ファビアン殿下のお考えは素晴らしいものよ!」

「そうだ、ノエリアの言うとおりだ! この一年、私が言い出し、やったことは、学院の皆に絶大な支持を得ていたのだぞ! 私のアイデアが素晴らしいものだと、この一年で認められたのだ!」


 ファビアン殿下の言っていることなんて無茶苦茶だわ。さっき否定されたばかりなのに。

 でも、私の援護と言う意味では、役に立つかもしれないわ。

 クリスティアーヌ様を煙に巻く、っていうね。


「その全てを、学院長の名で中止させられておりますわよね?」


 目を怒らせただけで絶句したファビアン殿下にクリスティアーヌ様がホッとしている。

 ふふ。

 この戦いは、気を抜かした方の負けなのよ!


「それは、あまりにも素晴らしいアイデアですから、国王になったときに実施してほしいと言う学院長の計らいですわ!」


 あまりにも荒唐無稽な説明に、クリスティアーヌ様が唖然として私を見つめる。私が、ふふん、と得意気な顔をしてみせると、クリスティアーヌ様の瞬きが止まらなくなる。

 その気持ちは、よくわかるわ。

 でもね、今の正義はそこではないの!


「そうだ! ノエリアの言う通りだ! それに、この卒業パーティーも、結局は私の意見が通ったではないか!」

「そうですわ!」


 意気揚々と、ファビアン殿下が拳を突き上げ、私も大きくうなずく。


「そうだ!」

 

 唐突に会場の一部から声が挙がる。視線を向けると、どうやらファビアン殿下の取り巻きたちだ。

 ……あの方たちも、どうしようもなくて、私の個人的な味方につけるのは、どうも気が進まなかったのよね。

 ファビアン殿下が右と言えば右と言う方たちだから、放っておいても勝手に手伝ってくれるとは思っていたけれど。

 

 ……ああ、もしかして今、私、悪役令嬢になっているのかしら?

 きっとカリマ様の言っていた悪役令嬢って、稀代の悪女と同意よね。

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