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第90話 閑話:(第三者視点)風の民の英雄

「暴動が起きていない……だと?」


「は、はい。その、密偵の報告によると、かたや何万の市民が街中に火をつけて市民議会を求める暴動が起きているとか、かたや全然何にも起きておらず追加の工作員の支援を求めているとか、情報が全く一致しておらず、非常に混乱しているようでして……!」


 戦争の準備を着々と進めていたプリンクランド公国のアンリ大公は、政務官からの異常な報告に眉を潜めた。

 予想を裏切る内容。できればここで、実際に暴動が起きていて欲しかったのだが、どうにも情報工作が上手く機能しなかったらしい。


 アンリ大公は考えた。

 ここ最近、バスキア領の情報の確度が途端に悪くなった。虚偽の報告がやたらと増えて、何のために諜報員を送っているのか分からなくなってしまった。

 そしてとうとう、諜報員の家族が、海路を経由してバスキア領に亡命を始めた。この分だと陸路も同じであろう。

 すでに予想はできていたが、どうやらこちらが手塩にかけて育ててきた密偵を、次々と寝返らせているらしい。小賢しい手である。


(……恐れていたことが事実になりつつある。が、先手を打ててよかった。経済制裁は別に、経済だけの攻撃ではない)


 あくまで副次的ではあるが、港での臨検には、このような国外逃亡者を取り押さえる効果もある。

 バスキア領に送り込んだ密偵には引き続き、働いて貰う必要がある。家族を人質にしておく価値は十分あった。

 やはり臨検に踏み切って正解であった。


「……。冒険者ギルドの連中は何をしている? 三国軍事同盟には、裏で奴らとの調整があったはずだが」


「静観、かと。資源に困ったバスキア領が、冒険者ギルドを使った物資の密輸に踏み切るのは、時間の問題かと考えます」


「密輸の証拠をもって、大陸会議の内容に正当性が出る。そうでない場合は、またこれも事実を捏造せねばならん」


 アンリ大公には野望があった。領土を拡大し、大王の中の大王(大ハーン)に至るという野望。

 しかし、何の理由もなく戦争に踏み切るには、周囲の大国が狡猾に過ぎる。よって、民族紛争の仲介や、内乱の保護という名目を作って、領地を併呑する必要があった。小国相手であってもだ。遥か昔の時代のように、何の正当性もなくいきなり侵略戦争を吹っ掛けるような時代ではなくなったのだ。


 時代は変わった。

 国際的な会談を執り行い、そして宣言に公的な権威を認める存在――つまり白の教団の教皇がいるせいである。

 あの厄介な存在が威光を振りかざしている間は、正当でない侵略戦争は、長きに渡って非難されることであろう。歴史の記録をもって攻撃するのだ。


 より適切に言い換えれば、"教会の連中は、他国が戦争に後乗りする口実を作るのが上手い"である。

 状況を静観している第三国が、ちょっと有利な状況だと判断すれば「神の名のもとに!」と後乗りしてくる。それも無数に後乗りしてくる。逆にこちらが有利であれば、中立を続けるだけ。非常にやりづらい。


 しかし、である。


(だが、我はあえてレリギア教国とインペリオ帝国と三国軍事同盟を結んでいる。今まで比較的友好的であった共和国、通商連合とではなく、最も嫌悪すべき敵と手を結んでいるのだ)


 三国軍事同盟。教国と帝国と公国。特に公国とは憎み合っている国家同士。

 本来ならありえない取り合わせが、ここに実現されていた。


 何故ならば、王国を中心とした海上帝国が誕生すると、様々な国が困るからである。


 強力な海軍と多くの船。多くの資金の集まる銀行と、多くの物資の集まる倉庫。そして偽造困難な契約書を保管する機関。複数の国と海洋軍事同盟を結ぶには、この上ない条件である。

 あのギュスターヴ国王は、恐らく意図的にそれを目指していたとも言える。


 リーグランドン王国は大陸西方に存在するため、西側には背後に敵が存在しない。つまり挟撃されにくい。

 海軍が強固であり続ける限り、陸軍さえ充実させれば、王国の軍事力はより強大なものになる。信じられないことだが、バスキア貴族契約とやらで、王国諸侯と王家との結束がより強固になったとも聞いている。内乱を誘うための工作がこれでより一層難しくなってしまった。


 全ては、たった一つの領地が現れたため。

 バスキア領。

 大陸の力の均衡が、たった一つの領地の出現でいとも簡単に崩れ去ったのだ。


(交易が非常に盛んな通商連合と王国は、最初は親密な関係だったはずだ。それでも金貨の流出は看過できないとして、交渉の結果、中立に回った。海洋貿易の盛んな皇国も同様だ。裏で冒険者ギルドを介して、圧力をかけて正解であった。この二国を切り崩された時点で、王国は孤立したと言っていい)


 通商連合と皇国。

 この二国は、冒険者ギルドが傭兵団を多く供出している二国である。冒険者ギルドと対立したくない、という弱みに付け込むのは、難しくはなかった。

 王国はこの二国と親密であったがゆえに、あの会議の結果は意外だっただろう。


 帝国が焦っているのも非常に興味深かった。

 理由は不明であったが、比較的早急に王国をつぶしたいと急に態度を先鋭化させたのは、他ならぬ帝国である。王国が機械帝国の致命的な弱みを握ったのかもしれなかった。が、それはあくまでアンリ大公の想像である。


(……。どうせ、経済制裁を行ったところで、冒険者ギルドが密輸をたっぷり行って荒稼ぎするだろうさ。我々が今まで享受していた旨味がそこに逃げるだけだ。そこは我々も許容している。交易を経つというのは、そういった痛みを伴うものだ。だが、これで少なくとも自国産業は立て直せるし、金貨の流出は食い止められる)


 ――そして、戦争。

 この圧倒的に有利な状況のうちに、リーグランドン王国を叩き潰しておきたいところであった。


 戦争に"後乗り"しやすい状況ならば、いくらでも教皇が作ってくれるであろう。帝国も手厚い支援を約束してくれた。お膳立てはこの上なく仕上がっていた。




「――すべては、精霊様のお導きだな。炎の精霊の聖女を、我が妃に迎える準備をせねばな」


 龍の国旗を掲げよ、と号令が下る。弓を携えた竜騎兵による軍勢こそが、このプリンクランド公国の最大の特徴である。


 峻烈な風が吹いた。遊牧の民には風の精霊の信仰がある。

 そして、アンリは選ばれた(・・・・)。今ならば、どんな国の軍勢であっても負ける気はしなかった。





――――――――

 防諜は未熟なくせに、大陸の各地から金貨をバカスカ吸い上げる上、精強な海軍を保持し、いくら諜報員を送っても暴動が起きないどころか、人員ごっつぁんされる意味不明な領地があるらしい。

 そしてその海軍の力と経済力を背に、他国との海洋同盟を実現しようと画策しつつ、諸侯の結束を強めて陸軍も補強しようとした国があるらしい。


 冒険者ギルドは、明らかにシノギを潰そうとしてくる(債権回収代行・亡命代行・賭博等)バスキア領に警戒を高めているし、白の教団も、さっさとバスキア領を(教会庇護下の元)独立させていろいろ美味しい利権にありつこうとしているし……勢力関係がいろいろ複雑になってきました。


 筆者の頭の中はこんな感じです。後でころっと変わるかもしれません。参考程度にお願いします!




 冒険者ギルド:アシュレイほんと嫌い

 白の教団  :さっさと大司教領譲ってほしいし利権が欲しい


 王国  :放っていても色々やってくれるけど、マジで平気でやらかしてくるよな……

 共和国 :?

 皇国  :冒険者ギルドが無視できない

 通商連合:冒険者ギルド(と大手商会たち)が無視できない

 公国  :大精霊祭で唯一参加しなかった国。王国とそもそも仲が悪い。

 帝国  :魔力発生ダム作った!? 駄目だこいつ、早く何とかしないと……


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[一言] 面白いです、良い物語をありがとうございます。
[一言] こういう話は大好きなので、楽しみに更新待ってます。
[良い点] あとがき [一言] おぉ、ダムがトリガーでしたか
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