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第82話 ダムの建造・マナエネルギーの取得

 3812日目。

 山からの湧水を運ぶ用水路を作ったのは約九年前。

 あれからたびたび拡張工事を行ったり、チマブーエ辺境伯の用水路を参考に再設計したりと、用水路自体はバスキア領の発展に合わせてどんどん拡張され続けてきた。


 そして今回手を付けているのは、ダムの建設である。

 セメントの量産体制が整ったのとほぼ同時に、ダムの建設に着工しておよそ二〇〇日ほどが経過した。

 スライムの圧倒的な土木建築能力のおかげで、なんとダムはもうほとんど完成しつつあった。


(土木工事に伴うゴミを食べたり、採掘のついでにつまみ食いしたり、とにかくこいつ、日々成長し続けているもんな……)


 ダムをつくるための掘削工事は、非常に危険である。

 そもそも水が近くにある状態で、岩盤を掘る行為そのものが危ないのだ。


 破砕帯――掘っても掘っても土砂が崩れる部位で、湧水帯と入り混じっていることが多い。

 当然、土砂崩れによる怪我人は多発する。そうでなくても、湧水により体温が奪われて長時間の作業は命に関わる。

 ダムの採掘作業は、水辺付近の工事になるため、当然このような破砕帯に多く直面する。それだけ命の危険が多いといえる。


 国によっては、爆破魔術を使用できる魔術師を連れて、国営ダムの建設にとりかかるところもあるらしいが、それでも洞窟の振動による岩盤落下の危険は免れない。


 だが、スライムがいればどうなるか。

 破砕帯を食べるだけ。それで終わりだ。


(掘削は楽勝。アーチダムの建設工事も、水硬性セメントをどんどん積み上げていくだけ。拍子抜けするぐらい簡単だったな……)


 ダムの目的は、あくまで導水。遠くの四男爵領地まで水を引っ張ることが目的であった。


 もちろん何万トンもの石材が必要になるので、バスキア火山・洞窟迷宮の開拓と同時に行った。

 スライムのおかげで石材運搬には困らないし、鉱物採掘や倉庫拡張のついでに行えるので問題はない。本当に、拍子抜けするような話だった。


 だが、実際に建造が完了したダムの高さを目の当たりにして、俺はこの高落差を利用できないだろうかと考えた。

 ――つまり、大掛かりな水車プロジェクトの復活。


 九年前に作ったなんちゃって水車を作って以来、バスキア領に水車はあまり建設できていない。

 というのも、ほとんどの作業をスライムに自動化させてしまっている現状、今さら水車を作っても、そんなに利便性が向上しないのだ。

 せいぜい、小麦挽きの作業の自動化ぐらいだろうか。


 しかし、このクソバカでかい貯水量を誇るダムを使うことができるなら話は別である。

 ぜひとも水車を活用したいところだ。


 理由は、マナの大量活用である。


(魔石をミスリル銀などの魔力導体にくぐらせると、マナ流が発生する。魔力誘導作用だ)


 磁石を鉄で作ったリングにくぐらせると、電流が発生することが知られている。これを誘導作用という。特に、磁力体により電流が得られるこの現象を、電磁誘導と呼んでいるが、これはマナでも同じ事象が観測されている。

 というよりも周囲に力場を形成する物質と、誘導体で作った輪っかであれば、この誘導作用は広く発生する……らしい。


 これらは、バスキア魔術研究所の研究で確認された現象である。

 誘導作用そのものは、大陸の他の研究機関でも発見されているごく普通の事象らしいのだが、あまりのマナ発生効率の悪さから、研究はほとんど進んでないのだそうだ。


 しかし、このクソバカでかいダムがあるなら話は別である。

 効率が多少悪かろうとも、馬鹿にならないほどのマナを生み出すことができるのだ。


 重要なのは、魔石とミスリル銀を使えば、水車の回転力からマナが得られるということだ。

 これが何を意味するかというと――街のインフラとして、大規模な魔道具活用が現実的になるのだ。


 マナで動くゴーレムを作っての、肉体労働の自動化。

 都市全体に張り巡らされた術式の、半永久的な発動・持続。

 馬車鉄道とか、街の浄化設備とか、虫よけ術式とか、パンなどを焼く焼窯設備とか、バスキア工房にある高温の製鉄炉、などなど。


(これは――いや、もしかすると、とんでもないことをしてしまったんじゃ)


 今スライムがやっている作業のほとんどを、ゴーレムで自動化できるかもしれない。

 そうなれば、俺とスライムがこの街を長期間離れることも、可能になってしまう。


「……これで、スライムがいなくなっても大丈夫だな」


 俺はこのとき、背筋に冷たい何かが走ったのを感じた。

 何だか取り返しのつかないところまで、足を踏み入れてしまっている気がする。


 あまりの衝撃にため息をついていると、ふと、肩からぽてりとスライムが落ちたことに気が付いた。


「? どうした?」


 ――――。


 スライムが全然動かなくなってしまっていた。

 嘘だろ、と思って慌ててスライムの様子を見てみると、なんだか悲しそうに震えていた。

 何か彼女を悲しませるようなことでもあったのだろうか。


「? なあ、一体どうしたんだ? 大丈夫か、どこか辛い――わぷっ」


 彼女を引き起こそうとした瞬間に、俺はスライムに取り込まれてしまい――。




 3813日目~3816日目。

 スライムがきゅうきゅう鳴いていた。

 あ、鳴くんだ、と今さら新しい発見をしてしまった。ずっと喋らないと思っていただけに、彼女の"声"はちょっと新鮮だった。


 どうやら俺はあれから気を失ってしまったらしく、気が付けば俺の胸の中心には、何だかよく分からない刻印が勝手に増やされてしまっていた。

 そしてスライムがそこにしょっちゅう引っ付いてくるようになってしまった。何故だかよく分からないが、絶対に離れない、という強い意志を感じた。


(ん? ん? んん??)


 よく分からないが、スライムに怒られている気がする。

 スライムを見捨てようとしたつもりは一切ないのだが。

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