第8話 周辺の拠点調査・野盗の捕縛
759日目~801日目。
野盗対策を行うとしても、中々悩ましいものがある。
道の脇に兵士を配備するのは、コストがかさみすぎる。
かといって、野盗たちに賞金をかけて冒険者に討伐させるにしても、事実確認の方法が難しいので、虚偽申告が山のように出てくるだろうし、そもそも賞金の元手となる資金があまりない。
(……道の脇にある茂みとか障害物を取り除くかあ。道の脇の視界を開けさせて、どこにも野盗が潜んだりできなくすれば、襲撃もやりづらくなるだろう)
調べて知ったことだが、野盗の手口は主に、茂みに潜んで通行する馬車を襲うという単純なものだった。
ならばそれを撤去すればいい。道の舗装工事の際に気づくべきことだったが、今さら仕方がない。
(ついでに野盗たちの拠点でも探すかな。夜中にスライムの分離体にあちこち調べてもらったら、候補場所は一気に絞れるだろう……)
もののついでである。周囲の調査もスライムに命じておく。具体的には火の燃え跡やゴミなど、人の生活していそうな痕跡を探し出せというもの。
野盗に勘付かれないよう、あまり深入りしないように調査をお願いした。
スライムにそんな器用な芸当ができるのかはわからないが、暗闇でも動けるし、物音もあまり立てないし、地面を這うように身体を伸ばせば背丈もほとんどないから見つかりにくい、と隠密行動自体は得意だと思う。
あまり期待せず、時間をかけて何か見つかればいいかな、と呑気に構えておく。そもそも小バスキア村自体が襲われてるわけではないし、きっと村から距離があるに違いない。
802日目〜841日目。
何十日も周囲を探索すれば、なにか手掛かりのようなものは見つかるというもの。
さっそくそれらしき拠点をいくつか発見した。だが連中の情報を他の領主にたれこむつもりはない。
「うちの村に来ないか、交渉してみるか」
人が増えれば食料の確保がさらに困難になる。
だが都合がいいことに、食料には少しばかり余裕がある。周囲の魔物がよく落とし穴にはまってくれるのと、農耕地を思いっきり増やしたのと、灌漑により水を安定して引いてこれるようになったのと、それらの要素が噛み合ったことでの結果である。
食料を備蓄するための石造りの蔵も増設したぐらいだ。人が少々増えたところで問題はないだろう。
(輪栽式農法の実験を続けるには、人手がたくさん必要だしな。家畜の世話も、スライムだけでは手に余る)
スライムに命じておけば、家畜が逃亡しないかの見張りや、畜舎の清掃はできるが、それだけだ。
人手はいくらでも欲しい。魔物を追い払ったりできるぐらい腕の立つ人であれば、なおのことだ。
842日目~879日目。
さっそく野盗たちと平和的な対話を試みた。
だが結果は散々だった。
「"村にきて、農業に服務して年貢を規定以上に納めて、罪を償えば処罰はしない"だと? お前、何様のつもりだ?」
何様と言われても、領主なので仕方がない。それにこちらの提案は常識的な範囲のものだ。
村にきて、一生懸命働くのであれば、罪には問わない。それどころか、衣食住を保証するのだ。破格と言っていい。
こんな、明日の食事も保障されない不安定な生活から脱出できるのだから、感謝してほしいぐらいである。
これがもし悪徳領主であれば、無理やりにひっ捕らえて奴隷にしていたかもしれない。
国に身分を保証されていない、戸籍も持たない犯罪者たち。これでは人身売買されても文句は言えない。
だが俺はあくまで良心的である。だから野盗の連中に「ごちそうを振舞うから村に来てくれ」と根強く交渉をつづけた。
結果、「これ以上交渉する価値はない! これでもまだふざけたことを抜かすなら、命はないと思え!」と息巻く連中に襲われたわけである。
(……敵うとでも思ってたのかねえ)
こちらにはスライムがいる。
ちゃちな飛び道具も、刃渡りの長くない刃物も、全部スライムが受け止めて、絡めとることができてしまう。
野盗崩れなんてのは、所詮たいした武器も持っていない輩だ。
だから、うちのスライムさえいればほぼ無力化できてしまえる。
俺の読み通り、いともあっさり野盗をひっ捕らえることに成功したわけだ。
バスキアなんて、こんな辺鄙な地方なんかに、立派な武器や防具を持っている野盗がいるはずもない。この付近で武器を調達できるはずがないのだ。
「もう一度言うけど、村にきて、農業に服務して年貢を規定以上に納めて、罪を償えば処罰はしない。いいね?」
ちなみに俺は、決していい領主ではない。だからこうやって野盗どもを無理やりひっ捕らえることだってする。