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第76話 浄水器の販売(ジレットモデル)・スクロールの魔物素材の検討

 3693日目~3709日目。

 魔物の討伐の効率化のため、小型の浄水器を作って売ることにした。

 浄水器。つまり水を綺麗にして飲めるようにろ過する装置のことだ。単独行動や長距離の移動には、飲用水の確保が欠かせない。その意味で浄水器はかなり重宝する道具である。


(スライムを使った浄水器は、お手軽だけど、スライムの分離体が拉致される恐れがあるからな……)


 当初考えていたのは、スライムの分離体を瓶に詰めた浄水器である。

 どんな泥水も飲用水に変えてくれて、手軽で、劇的な効果があった。


 だがそれを一般貸出すると、借りっぱなしのまま帰ってこない恐れがある。というより十中八九帰ってこないだろう。分離体とは言え、中のスライムが拉致されてしまうのは避けたかった。一般販売も同様の理由で却下である。

 分離体だから別にいいのだが、なんとなく嫌だったのである。


 それに、もしかしたらうちのスライムを研究することが目当ての、悪い人間を寄せ付ける可能性もある。そんな奴らに生体実験されるのは気が進まない。

 なので残念ながら、スライムを活用した浄水器は一般販売・貸出禁止とさせてもらった。


 よってスライム浄水器は、あくまでうちの領地にいる弓兵部隊や海軍にのみの支給となっている。


 では一般向けに何を販売するかというと、"浄水カートリッジ"である。


(布、砂利、小石、木炭などの多孔質物質でろ過するだけ。大まかな汚れは布層や砂利層で漉し取れるし、微細な生き物は多孔質に吸着する。もし心配であれば、煮沸して菌を殺せばいい)


 カートリッジには布、砂利、小石代わりの魔石、火山石、木炭を詰める。

 とくに火山石は、バスキア火山・洞窟迷宮を開拓するついでにたくさん調達できるので問題はない。魔石も工業製品の加工で発生したクズ石で十分だ。カートリッジ作成もそこまで難しい技術は要さない。誰だって作れるし複製も簡単だろう。


 あとは、この浄水器とカートリッジをセットで一般向けに売り出すだけだ。

 そして古くなったカートリッジはバスキア領で引き取ればいい。


 一見普通の浄水器。

 しかし、この販売モデルの優秀なところは、浄水カートリッジの再利用にある。


(汚れた中身をスライムがきれいにすれば、何度だって再利用できる。火山石(パミス)もさっぱり綺麗にできるんだから、二十回ぐらいは再利用できるんじゃないかな)


 再利用品の割引販売。

 これこそがバスキア領の強みである。


 他の領地の商人では、どうしても製造コストが高価にならざるを得ないこの浄水器を、カートリッジの再利用によりコストを抑制して提供できる。

 製品の買い切りモデルではない。付属品となるカートリッジを継続的に販売して、利益を維持する新しいビジネスモデル。この時代には他に見られない、大胆な発想であった。


 実際のところ、"浄水器"という発想自体は、大陸でもちらほらと散見されていた。バスキア領の最先端の知識ではない。

 それにほとんどの場合、『布で漉し取った水を煮沸消毒する』という現場の知識でも十分に賄えている。

 浄水器なんてなくても現場は回っているのだ。


 それでもやはり、布の目は粗い。寄生虫の卵を漉し取り切れないこともある。

 浄水器の利便性は、疑いようもない。


(市場はやがて、バスキア工房の作る廉価な浄水器がほとんどを占めるだろうな)


 再利用品の経費は、回収費と輸送費だけ。濡れ手で粟とはこのことである。

 もしこれで、継続的にカートリッジだけをバスキア領から購入し続ける、なんてことになれば、固定(ストック)収入を大幅に増やすことができる。まさに美味しい市場であった。




 3710日目~3726日目。

 バスキア魔術研究所からの提案に従って、スクロールの開発をもう一段階推し進めることにした。

 主眼となるテーマは樹木・植物系統の魔物の活用である。


 ずたずたにして、天日干しして、干からびたところを一つ一つ撚って、これを漉き簀で"紙すき"するだけ。

 植物系の魔物は森林迷宮の中に唸るほどいるので、彼らをどんどん伐採して、薪燃料に使えない樹皮部分を紙に活用するだけ。

 ポイントは、魔物素材による作用だ。


 通常の木材や植物と違い、魔物由来の素材は魔力の伝導率も異なる。微弱ながらも、すでに固有の魔力を帯びていることもある。

 そうなってくると、魔術スクロールの品質も一定ではなくなり、組み込む術式によっては不安定化することもありえる。


 魔物が名持の魔物(固有種)である場合は、影響もさらに大きくなるだろう。魔物素材の作用によって、術式と全く関係ない魔術になるか、もしくは相性が悪くて不発になってしまう魔術もあるかもしれない。

 そのため、事前に術式の相性調査が必要なのだ。


(まあ、魔物って環境変化に強いし、勝手に繁殖してくれるから、そっちの方が便利なんだけどな……)


 今わかっているのは、防腐の術式や、乾燥の術式と相性のいい植物が見つかっているぐらいだ。

 もっと大掛かりな術式(・・・・・・・)と相性のいい素材が見つかればいいのだが、そう上手くはいかないらしい。


(今仕込んでいる(・・・・・・)術式が改良できれば御の字なんだけど、果たしてそう上手くいくだろうかね……)


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