表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/90

第74話 冒険者ギルドとのシノギ争い:不良債権回収②

 3671日目~3692日目。

 バスキア貴族契約が上手く広がった理由を敢えて説明するならば、その有無を言わさない執行力にあるだろう。


 幸か不幸か、バスキア領は情報を隠さなかった。いろんな領地から間諜が潜り込んでは、スライムの脅威をありのままに伝えて回っていた。情報を遮断せず、敢えて積極的に喧伝してもらう方法を取ったのだ。どこまで完璧に遮断しても情報は漏れるものだ。人の口に戸は立てられない。

 であれば逆に考えるべきである。

 バスキア領の強みの宣伝に使ってしまうのだと。


 結果的に、有力である貴族ほど、バスキア領を高く評価することになった。力があり、そして有能な貴族であればあるほど、この貴族契約の効力を理解してくれたのだ。


(本音を言うと、あの国王の間での会議はもっと紛糾すると思っていたんだよな。もっと俺を糾弾する声が高く上がると思っていた。でも存外、俺を警戒してくれて(・・・・・・・)いた。言うなれば、俺のスライムの恐ろしさを詳しく調べているかのようだった)


 ――いざとなれば、無理やり負債を取り立てに行く力がある。

 この強制執行の力こそ、バスキアの本当の意味での恐ろしさなのだ。


 社交界で暮らす貴族たちにその事実が広く知れ渡った今こそ、次に打って出るいい機会だ。


 それが、"不良債権の買い上げ"と"回収代行"。

 冒険者ギルドが得意とするシノギの一つだ。


(貸したっきり帰ってこないお金や、不履行のまま守ってもらえず無視されてしまっている権利を、俺が買い取って実行する。ただそれだけのことだ)


 不良債権。債権のうち、その回収が滞っており、全額回収が困難な状態にあるもの。

 借りたお金を返さない人、が一番想像しやすい例だろう。

 契約書を交わして、債権として成立しているものの、債権者側が負債者側から全然それを回収できていないものが不良債権にあたる。


 これを回収しようとしてもできない例としては、"貸している相手が偉すぎて泣き寝入りするしかない"という場合や、"貸している相手が無一文になってしまい何の財産もなく回収の目途が立たない"という場合が想定される。

 それでも何とか一部だけでも回収したい。

 困った債権者は、この債権を売るのだ。


 それが、冒険者ギルド。

 特定の国を根城としないので法律で規制することが困難であり、さらに歴戦のならず者たちを多く抱える冒険者ギルドは、法を気にせず、暴力と恐喝を思いっきり行うことができる組織である。国際条約違反まがいの行為も、屁理屈で無理やりに正当化してそれを平然と実行する。巨大な武力をちらつかせて、無理を通して道理を引っ込ませる。


 小国であれば、冒険者ギルドに無視されるだけで、逆につぶれてしまいかねない。自前の兵力が育っていなければ、魔物の討伐を行う手段がなくなり、治安維持に相当苦労する羽目になる。これが大国であっても同様である。冒険者ギルドの武力は、無視できないほど強大なのだ。


 世の債権者たちは、冒険者ギルドに債権を売る。額面の二割でも三割でも戻ってくれば御の字だと叩き売るだろう。そしてそれを冒険者ギルドは無理やりにでも回収する。

 額面の二割三割で済むはずがない。ひどい場合は利子をつけて額面以上に搾り取る。


 まさにやくざ者の商売である。


(これを俺は、冒険者ギルドよりもいい相場で買い取る。冒険者ギルドでさえも回収はお手上げだと難色を示すような負債者からでも、遠慮なくぶんどってしまう。冒険者ギルドよりも便利で使える、とアピールさせてもらう)


 債権者にとって、冒険者ギルドから俺に乗り換える明確なメリットがある。


 まずは買取額面がよくなること。

 単純に金銭的に得である。


 次に、やくざ者に弱みを握られにくくなること。

 不良債権を買い取ってもらったことを、後になって恩着せがましく持ち出して、"あのとき助けてやったんだから今度はこちらの言うことを聞いてもらおう"なんて頼みごとを捻じ込んでくるのが冒険者ギルドの手口である。

 だが俺は当然、そんなことをしない。

 別にやってもいいのだが、そんなことをする必要がない。他の貴族に願い事をしてまで叶えたい欲望がない(・・・・・)のだ。しいて言えば邪魔をしないで(・・・・・・・)ほしい、だろうか。

 そんなわけだから、冒険者ギルドよりも俺の方が頼みやすい相手になる。


 最後に、俺が保険契約を貴族たちと結んでいること。

 これが最高に大きい。要するに、回収率が抜群に高いのだ。


 どういうことか説明すると、簡単に言えば"俺のところにすでに借金している貴族や、保険を買っている貴族が多い"のだ。

 バスキア貴族契約に無理やり借金して入った奴は、その借金を増額すればいい。帳簿の数字をちょっと書き加えるだけで手間はかからない。

 逆にバスキア貴族契約に借金せず一括で金貨を払ってくれた貴族に関しては、そこから棒引きにする。『貴方は金貨六万枚分も加入してくれましたが、うちで金貨二万枚相当の負債を買い取りました。なので貴方の契約額を四万枚相当にします』とするだけだ。

 いずれにせよ、回収の手間がほとんどかからない。借金がすでにある貧乏貴族だけ、ちょっと警戒する必要があるものの、そこはバランスを取ればいい。いざとなれば、それこそ家財押収に踏み切ればいい。バスキア領の交易ルートを使えば芸術品などでも高値で捌ける(≒安価で叩き売らなくてもいい)だろうから、それもまた回収率をちょっとよくする要因になっている。


 回収率が高いからこそ、買取額面を高く設定しても、商売として成立する。

 回収率が高いからこそ、冒険者ギルドでも買い取ってくれないような焦げ付き債権でも処理できる。

 回収率が高いからこそ、周囲が勝手に、バスキア領のことを手ごわい連中だと恐れてくれる。


(まあ、俺にも明確なメリットはあるんだけどな)


 借金をどうしても返せないやつがいたとき、それをどうするか?

 簡単である。バスキア領には無限に仕事が存在する。監獄に入って数字を触る仕事なんかは、他の方法よりも人道的だし、ぴったりかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読者の皆様の暖かいご支援が筆者のモチベーションとなっております。皆様に心より厚くお礼申し上げます。
勝手にランキング:気が向いたときにクリックお願いします

▼別作品▼
鑑定スキルで人の適性を見抜いて育てる、ヒューマンドラマ
数理科学の知識を活用(悪用?)して、魔術界にドタバタ革命を起こす、SF&迷宮探索&学園もの
金貨5000兆枚でぶん殴る、内政(脳筋)なゲーム世界のやり直し物語
誰も憧れない【器用の英雄】が、器用さで立ち回る冒険物語
付与術師がレベル下げの抜け道に気付いて、外れスキル大量獲得!? 王道なろう系冒険物語
房中術で女をとりこにする、ちょっとあれな冒険物語

作者のtwitterは、こちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ