第73話 冒険者ギルドとのシノギ争い:不良債権回収①
3670日目。
冒険者ギルド。
言葉を選ばずに言うなれば、傭兵団であり、市民の味方であり、綺麗な顔をした事件師・示談屋である。
他人の揉め事や争い事に介入して、金儲けを企む裏稼業。ある意味ではやくざ者と表現した方が正しいかもしれない。
(表向きには、市民の色んなお悩みを解決してあげる何でも屋であり、冒険者たちに仕事を斡旋してくれる場所でもあるんだけど……)
それはあくまで表の話。
裏では、大手商会や貴族と複雑な権利関係を構築しており、国境を越えて活動する、大規模な組織になっている。
――最も汚い話をすれば、暗殺。
かつて、とある国の大臣を失脚まで追い詰めるか、暗殺してほしいという依頼が舞い込んできて、そして冒険者ギルドはそれを成功させた。当然、標的となった国は大いに憤慨した。国の要人を殺されたのだから当然である。
だが、その国は結局、冒険者ギルドと縁を切ることはなかった。厳重な抗議を行ったものの、それ以上には発展しなかったという。
冒険者ギルドの影響力の強さを表す逸話の一つである。
冒険者ギルドとは、国家を超えた存在なのだ。
表向きでは、みんなのお困りごとを解決してくれる組織として、そして裏ではならず者を統率する巨大シンジケートとして。
いわば彼らは、任侠団体の連中をつぶしてのし上がってきた、きれいな任侠組織と言っても過言ではない。
(俺の嫌いな連中だ。暴力と利権にしか興味がない。金にならない行為は邪魔をして、金になった途端に横から掠め取っていく)
冒険者にもその傾向はあるが、組織はもっと腐っている。
要するに、組織中枢の連中はもっと汚くて貪欲なのだ。
もうちょっと有体に言えば、俺の悪口を好き勝手に周囲に流布して回り、俺を無理やり業界内で干して、ありもしない罪を擦り付けたりしてきた最悪な連中だ。
もしこれで、シュザンヌ率いる『栄光の架橋』に所属していなかったらと思うと、ぞっとする。
全身骸骨のスケルトン、物理攻撃を受けてバラバラに分解されても時間が経てば元通りになる、ほぼ無敵の無限耐久盾役女『踊る骸骨娘』ラヴィニア・フォンターナ。
全身に目がある孔雀の獣人、目から魔力の矢を放つことができる、死角なし・睡眠不要・予備動作なし・連射可能の狩人『覗き魔』ルーカス・クラナッハ。
やたら声のいい熊の獣人、呪文の詠唱を魔力の乗った大声で掻き消し、会話で意思疎通を行う魔物であれば必ず彼の声に半強制的に意識を持って行かれるという吟遊詩人『魔性の美声』イェルーン・ファン・アーケン。
惚れっぽい博奕打ちの女、硬貨と骰子と絵札等の賭博道具で戦う、不完全な予知能力とブラフだらけの幻影魔術を駆使する魔術師『いかさま使い』マルグリット・ジェラール。
そして、『太陽の聖騎士』シュザンヌ・ヴァラドン。
あいつらと一緒にいたから、俺は冒険者ギルドの仕打ちに耐えてこれたのだ。
(思い返すと、今日までバスキア領が順調に発展してこれたのは、冒険者ギルドに寄生されずにまっすぐ成長したからかもしれないな)
冒険者ギルドのシノギの種はたくさんある。
彼らは基本的には、魔物討伐などお困りごとの仲介斡旋を請け負っているが、それに加えて、裏でやくざ者のシノギを多数抱えている。密輸と密売、密猟と密漁、違法賭博、不良債権の買い上げと回収代行、風俗店や水商売の店からのみかじめ料の徴収、等々。
しかしながら、バスキア領にはこれらがほとんど存在しない。見つけ次第、俺がスライムの力を借りて片っ端から叩き潰しているからだ。
そして――。
(選王侯会議で、直に俺にお願いされた案件――冒険者ギルドのシノギを奪い取ること。保険契約と相性がよくて、かつ冒険者ギルドから奪い取れそうな利権といえば、あれだろうな)
不良債権の買い上げと回収代行。
連中は暴力で、無理やり債権を回収していくが、俺の方がもっと紳士的に回収できるはずなのだ。