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第71話 寄り子関係の構築・軍役と公事の委任

 3623日目~3644日目。

 伯爵に叙任された結果、寄り親として周辺の四男爵(アルチンボルト男爵、ボッティチェッリ男爵、デューラー男爵、ブオナローティ男爵)の面倒を見ることになった。

 これはチマブーエ辺境伯からの提案で、大きな商流網を作る上で都合がよいのでやってほしいとのこと。


(寄り親、寄り子ってするほど、周囲の四男爵って落ちぶれているわけでもないんだけどな)


 寄り親と寄り子というのは、王国の正式な制度ではなく、大陸に古くからある慣習のようなものである。

 形態も様々ではあるが、よくある関係では、寄り親の軍役・公事の負担を寄り子が担う反面、寄り親から恩賞をもらったり地位と所領を保障してもらうというものだ。


 この説明を聞くと、辺境伯をイメージするほうがわかりやすいだろう。チマブーエ辺境伯はバスキア領の寄り親であり、王国西部の海の治安維持(軍役)を俺に委任している。

 他にも、迷宮開拓の権限と、王国重要指定貿易港~大型舗装道路・馬車鉄道の条件付きの関税徴収権を委任してくれている。

 破格の権限移譲。改めてこう思い返すと、チマブーエ辺境伯はやたらと懐の広い御方である。


 話を戻して、今回の四男爵はというと。

 現状、彼らの領地経営には、特に問題は見受けられなさそうである。


 むしろ、バスキア領の発展に伴い、交易が活性化して順調に回っているように見える。

 治安維持についても、バスキア領方面に住み着いていた野盗の問題は解消されたし、バスキア領方面を跋扈していた魔物問題についても同様で、かなり改善しているはずである。領地を治める彼らに目立った落ち度はないはず。

 そんな中で、バスキア領の傘下についてもらうようなお願いが通るだろうか。


 そう思っていたのだが。


(……そうか、バスキア領主と婚姻ができないから、バスキア領の寄り子の男爵に求婚する、という話が出てるのか)


 全然興味がなかったので黙殺していたが、最近のバスキア領には、"家格だけはあるが没落気味の貴族"や"爵位はないが資金力がある商会"からの縁談が結構舞い込んでいる。

 四男爵たちも、妻に先立たれたり、後継ぎの子供の縁談話を探したり、色々と悩みがあるようであった。

 ここに目をつけて、チマブーエ辺境伯が提案をしたらしい。バスキア領の寄り子にならないかと。


 男爵らにとっては結構きつい提案だと思うが、他にも利点はいろいろとある。


 バスキア領から見れば、面倒な公事を彼らに代理でお願いできる。

 王宮修繕のための人頭を捻出したり、遠方で開かれている白の教会の祭礼に出席してもらったり――バスキア領にとってさほど魅力的ではないこれらの仕事を彼らに任せてしまえる。


 他にも、軍役を彼らに(名目上)委託できる。

 バスキア領は現在、海軍だけが立派で、陸で戦う兵士の数があまりにも心許ない。

 スライムをどのように勘定するかによるが、"いざというときに戦える兵士がほとんどありません"、という今の状態では、よその貴族たちに舐めてかかられる。

 俺の使役するスライムの脅威を知っている貴族ばかりではないのだ。

 なので、国外の貴族とやりとりをするときや、バスキアの内情に疎い連中と交渉をスムーズに行うために、"寄り子の武力も(名目上)動かせる状態だよ"としておくのだ。


 逆に、男爵領から見ても利点は多い。

 用水路の補修、農地の整備、魔物討伐や治安維持など、公共事業の負担を一気にバスキアというよりスライムに丸投げすることができるようになる。住宅の改修工事はもちろん、井戸の整備、さらには下水処理施設までを、ほとんど資金面の負担なしで補うことができる。

 いうなれば、領地経営の悩みのほとんどを解消できるのだ。


 ここまでするなら、それはもう男爵領をバスキア領に吸収して支配することに近いのだが、所領の主権は男爵たちにある。

 あくまで彼らが領地の主権者であり、俺の命令に従わなくてもいい。俺が命令を出すことを正当化する法律はない、何故なら寄り親・寄り子制度は正式な制度ではないからである。王国法に準拠すれば、こちらが委託している軍役・公事に関することに関してのみ、口をだすことができるだけだ。

 男爵たちは俺の陪臣ではないのだ。


 これは破格の条件であると言えた。

 要は、領地経営のお悩みだけを引き受けましょう、という話だ。


(そもそも男爵たちって、元からチマブーエ辺境伯の寄り子だったわけだし、単に寄り親が増えるだけだもんな)


 チマブーエ辺境伯からは手紙で、"これで、下水整備に関する王国議会の議決を蒸し返されてもやりやすくなったと思います。代わりと言っては何ですが、彼らからの税の徴収の手間や、いざというときに辺境伯軍を動かして彼らを保護する義務、公共設備の改修と拡張などの手間をいったん貴方に預けます"とお願いされている。


 要するに、辺境伯も、俺も、男爵たちも、面倒なことを楽にしようとしているのだ。


(……結婚、ねえ)


 寄り親と寄り子。親子。

 俺の手にひっついて遊んでいるスライムを見ると、何だか気が抜けてしまった。結婚だとか、親子だとか、家族だとか、そういった概念をスライムに上手く伝えるには、どれだけかかるのだろうか。



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