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第68話 第三章プロローグ 伯爵になったことが、もののついでのような一日

 3526日目。


 王国の最高会議体にて決議が採られた"バスキア宣言"からしばらく経って。

 とうとう懐かしい領地に戻ってきた俺は、新しいバスキアの一日を迎えるのだった。


「――さあ、新しい仕事だ!」


 我が領地で雇っている官僚たちをさっそく集めて、これからのバスキア領についての話し合いを発足する。

 といっても、基本的には俺が一方的にしゃべりまくるという有様であったが。


「伯爵になった」

「え」

「なんか、伯爵になっとけってさ」

「え」


「それに伴って、俺の持っている下位の爵位を貸し与えることができるようになった。ほれアドヴォカート領主代行。おっさんは小バスキアの村の頃からこの地を治めてきたし、城伯(都市伯)な」

「城伯なって」

「はい叙任」

「はい叙任って」


「バスキアの海賊団、もとい西方辺境伯軍の海兵隊も、ヴァイツェン独立大隊とメルツェン独立大隊と、名前だけやたら厳ついことになってたけど、これからはヴァイツェン男爵とメルツェン士爵を名乗ってくれ。一応、辺境伯軍の海軍の中では最強扱いだから、爵位がないと格好つかないしな」

「え」

「はい叙任」

「はい叙任って」


「王国中の貴族と保険契約を一気に結んだ。ほぼすべての貴族とだ。これよりバスキア保険会社を設立するぞ」

「え」

「巷ではどうやら、商業同盟とか商人どもが、相互扶助とか保険とかをぽつぽつ作っているらしい。だが王国中の貴族(・・・・・・)と保険契約を結んだ実績(・・)があるのはうちだけだ。これを功績として宣伝材料にする。あれこれ色んな保険を作って、どんどん売り出すぞ」

「え」

「まず鉄板は生命保険だな。死んだときに遺産を残せる。きっと需要は高いはずだ。年齢を考慮して保険料に傾斜をつける。あと、加入時に審査を行って病気を持っていないかを調査して算定する」

「え」

「貴族間だけの貴族契約と違って、貴族と商人、商人と商人で結ぶことのできる保険も作ろう。商人も自前で契約書を作ったりすることはある。だが、平民(・・)である商人の立場なのに、約束を反故にしたとき貴族(・・)に制裁を与えられる保険、という意味ではかなり価値が出るはず」

「え」

「保険業を行う過程で、死亡率とか人口分布とか、色んな統計を取る必要があるから、また刑務所の奴らには働いてもらわんとな」

「え」


「で、保険契約の結果、バスキア領は大量に利子を支払う必要ができた。試算すると毎年数十万枚の金貨が出ていくことになっている。これはちょっと裕福な伯爵領の年間の予算に等しい」

「え」

「その代わり、一時的だが大量に金貨を手に入れた。一千万枚弱の金貨だ。この金貨を利子以上に運用することに成功すればうちは大儲けだ。それができなければ、うちは大量に利子を支払い続けるだけのカモに成り下がる」

「え」


「大量に利子を払うことになって大丈夫かって? 大丈夫。何故なら、俺の読みが正しければ、恐らくインフレが起きるはずなんだ。貴族からごっそり金貨を貰った影響で、市場は絶対に金不足になる。金貨不足、そして金不足になったら、鋳造権をもつ領主や王家が質を落とした貨幣を新しく発行する。そうするとバスキア領にいま集まっている質のいい金貨が、相対的に価値が上昇するんだ」

「え」

「迷宮資源の安定した産出と、バスキア工房の工業生産と、潤沢な観光資源と、ただでさえ外貨を稼ぐ手段が多く、金貨がどんどん溜まりやすいのがバスキア領の性質だ。さらにうちには銀行も、証券取引所もある。市場に流通する貨幣量は、我がバスキア領が簡単に調整できる」

「え」


 ――などなど。


 バスキア宣言のもたらしたものは大きい。どれ一つを取っても、王国の経済史に燦々と名を残し続けることであろう。

 いや、下手すると歴史の転換点にもなったのではないだろうか。あるいは世界の笑いものかもしれない。いずれにせよ、今後のバスキアの発展が答えを出してくれるだろう。


(チマブーエ辺境伯は、契約書のことを、"信用や権力といった政治力をお金に換える魔法"と言ってたけど――俺はこれを、"資金力を政治力に換える魔法"として行使しただけだ)


 一方で、バスキア宣言で失ったものもある。

 正直に言うと、貴族間の安全保障契約は、バスキア領がお金を支払う形ではなく、バスキア領がもつ疑似的な通貨発行権を、皆で共有するような形で浸透させたかった。通貨発行権を持たない貴族たちでも限定的な通貨発行権を駆使することができるようにしたかったのだ。

 そうならなかったのは俺の力量不足である。


 偽造が困難である契約書。文書の効力を保証する国際的権威。そして文書を強引に反故にしようとしても、それを捻じ伏せ返すことができるほどの暴力。

 それらがすべて揃うまで、本音を言えばもう少し時間が欲しかった。


 白の教団の大司教キルシュガイストとの友好関係。

 世界で初めて精霊を発見した聖地としての知名度。

 世界屈指の交易取引高を誇る、巨大貿易都市としての存在感。


 これらがもう少しうまく嚙み合えば、バスキア領の立場ももっと突出して高くなっていたはずなのだ。

 政治的な妨害工作を甘く見過ぎていたのかもしれない。


(そういえば、政治的な妨害工作を勉強するために、チマブーエ辺境伯から一つお願いを貰っていたんだっけな)


 ギュスターヴ国王陛下も渋々承諾していた内容でもある。

 より強い王国を目指すうえで、ぜひともここで影響力をそぎ落としたいと、選王侯会議でもやり玉に挙げられていた組織。

 端的に言えば、その組織の利権を奪い取ってほしいというものである。


 それは、俺の因縁の相手でもある。


(……冒険者ギルド(やくざ連中)と真っ向から対立して、シノギを奪う、か)

※本作品はカクヨムのコンテスト「第四回ドラゴンノベルス小説コンテスト」を受賞いたしました。

 更新が滞っていたのでなろう版でも順次更新を進めて参ります。長らくお待たせいたしましたが、皆様お楽しみくださいませ!

※最新話までカクヨムで公開中


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