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第6話 輪栽式農業の悩み・領主代行・行商人との交渉

 512日目〜557日目。

 いろいろ試しているが、カブの生育がどうにもうまく行かなかった。

 高温に弱く、涼しい気候を好むカブは、このバスキアの季候とも相性は悪くないはずである。しかし虫害や疫病には弱い。いきなりよそからバスキアの土壌にもってきても、うちの土に馴染んでくれるかは試行錯誤をするしかない。


 今後の輪栽式農業の発展のため、カブを育てるための知見や経験はどんどん蓄積しないといけない。だが、残念なことに小バスキア村の住民たちは興味なさそうであった。

 将来的には輪栽式農業をバスキアの農業の主軸にするつもりである。なので、彼らにもカブを育ててもらわないといけないのだが、ほとんどみんな勉強してくれない。なんとも怠け者な住民たちである。

 それどころか、勝手に苗を盗む不心得ものが何人かいた。酷い話である。本当にバスキアの治安は悪い。とりあえず領主権限を発動して、彼らを処罰しておいた。

 処罰の内容は家財の没収、当然のことである。


 そもそも、である。

 カブの生育云々のわがままを言う前に、まず潮風が緩やかに吹いているのをどうにかしないといけないだろう。

 塩害に強い食物を作る必要がある。つまり品種改良だ。


(でも全くのゼロからそんなことをしてたら、平気で十年ぐらいかかってしまうな……)


 ならば、同じく塩害に悩んでる地域から、小麦や野菜を分けてもらうのが早いかもしれない。その種や苗や株を育てて増やしたら、農産業は今よりもまともになるだろう。

 農業は根気強く継続することである。半分ぐらいは道楽気分で気楽にやったほうがいいかもしれない。




 558日目〜616日目。

 時間が経つのは早い。気が付けば俺もすっかり村に馴染んでしまった。

 いまや領主というより、もはや村の仕事を手伝いながらご飯を恵んでもらってる居候の立場だ。

 中々ひどい話だ、威厳がなさすぎる。


『全く若者とあろうものが情けない、仕方がありませんな。日々のご飯にありつけるだけでも感謝なされ』


 とか村長がやたらめったら威圧的だったが、俺はもう心底どうでもよくなっていた。

 実際、俺は仕事をしていないし威厳なんていらない。

 スライムにあれこれ命令を出して、あとは魔術書を読んで自己研鑽に浸ったりぐうたらしているだけ。正直に言うと、領地経営の面白い部分だけがやりたい。面倒なことはあんまりやる気がないのだ。


 何となれば、村長を勝手に領主代行に任命して放置している始末。村長は村長で勝手にやってくれって話だ。


 何だかもう俺は、領主というよりも、村のお困りごとを解決する便利な人、みたいになってる気がする。まあ別にいいのだが。




 617日目〜652日目。

 ふらりと流れでやってくる行商人と物々交換を行う。

 とんでもなく足元を見られている気がしたが、ろくな交渉術も持ってない俺が立ち向かえるはずもない。割高の価格とは知りつつも、衣服やら道具やらを購入する。

 幸いこちらには、恐ろしくツヤツヤになるまで磨いた石がある。石造りの食器、額縁、壺、その他の調度品を、うなるほど作り上げていたところなのだ。交渉では敵わなくてもこれがある。


『まあ他の街で売ってみなよ。うちの調度品はかなり高度な工芸品だから、高く売れるぞ、何となれば、バスキア領主のお墨付きと言いふらしてもらっていい。領主直営店の由緒正しい品物なんだ』


 バスキア領主のお墨付き、新進気鋭のブランド『アシュレイ工房』の日用品。

 これを「最初の一年は出血大サービス、大赤字覚悟でたくさん売りつけてやるよ」と言い交わして、行商人にしこたま売りつけた。

 向こうもまあ、ちょろい商売だと思って買ってくれたに違いない。


(いやあ、本当に立派な館を作っておいて良かった……)


 行商人との交渉がうまく行ったのは、屋敷のおかげといっても過言ではない。

 俺の住んでいるお洒落な屋敷に、行商人が呑み込まれてしまったのだ。


 分離したスライムたちに、せっせと作ってもらった石造りの大きな屋敷。

 建築法なんてよく知らないし、建造物の強さなんてわからないので、とりあえず「クソバカでかい白っぽい石を積みまくって、柱たくさん作りまくって、二階を作ると怖いからとにかくほとんど全て一階建て、二階は単に柱に支えられただけの手すり付きの空中廊下」とかいう、クソバカの作った豪華絢爛な館にしたのだ。


 大体全部つやつやなので、大体全部綺麗。

 絵も鎧も何も飾ってないが、全部石造りで統一された上品な調度品が得も言われぬ品格を醸し出していた。


 あたかも、全部を大理石で拵えてあるかのように錯覚してしまう。

 この館にあるのと同じ調度品を物々交換します、なんて言われたら、並大抵の行商人なら「高級品」だと思ってくれる。


 実際は適当に山から拾ってきた石で作った、タダ同然の代物なのだが。


(お互いにいい商売になったと思うぜ、行商人さん。アンタの腕次第で、そいつは高く売れるはず。これからもどんどんやってきてくれよ)


 せいぜい、俺の代わりに『アシュレイ工房』のブランドを喧伝して回ってほしいものである。

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[一言] 色々な作品読んでいますが、今月は貴方の作品が一番でした。まだまだ評価が低いかも知れませんが続けて下さいね‼️
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